再論・教員の働き方(下)管理職育成にこそ課題がある(中原淳)

立教大学教授 中原 淳

 教員の働き方改革はどうあるべきか。3回連載の最後は「管理職の登用・育成・異動」と「教員養成系大学のカリキュラム」について。

【6】管理職の登用・育成・異動をどうすればいいのか?

 学校の管理職についてはいくつも問題点を挙げられるが、主因の一つは、役割が明確でないことだ。校長というポストは、年配の先生の論功行賞的なイメージで、しかも多くは任期2、3年で学校をどんどん変わっていく。2年や3年で、現場を変えられるわけがない。だから学校現場は変わらない。この異動の慣行は、「現場でリーダーシップを発揮してチームを作っていくようなことは、最初から期待されていないこと」をメタメッセージで伝えている。

 民間の場合は、どんな企業でも、課長なり部長なりのポストを提示するのに、最初から任期2年なんて人事はしない。誰も引き受けないだろう。2年で何ができるのかと思う。

 成果を出す管理職は、最初はチームを観察してキーマンを探し、いろいろな働き掛けをしながら信頼を獲得していく。2年目ぐらいでやっとやるべきことをスムーズに落とせるようになっていき、3年目、4年目ぐらいでチームでの実践が結果につながる。5年目ぐらいで出ていく準備する。一般的なビジネスの感覚ならそんな感じだろう。

 任期2年というのは「なにもしなくていい」と暗に伝えるメッセージにしか思えない。上がりのポストでは、誰も本気になってやらない。2年で次の学校に行くとしたら、これまでのやり方を変えてしまう方が迷惑だったりもする。世の中が安定的だった時代はそれでもよかったかもしれないが、管理職の役割の再定義と異動の慣行の見直しは、絶対に必要だ。

 管理職の育成についても、早期にリーダー経験を積ませて、適正な評価を行って、能力のある人は若くてもどんどん引っ張り上げるべきだ。50歳まで待つ必要はない。そのためには、もっと早く管理職を経験させる方がいい。民間ならいい人材にはメンターをつけて、1on1をして、能力開発をしていく。経験を積ませて、フィードバックやリフレクションをさせて、現場でリーダーをつくるのだが、学校にはそういう仕組みがない。

 学校の管理職登用は「テスト」だ。顎が外れそうになる。テストで点数が取れることと、現場でマネジメント・リーダーシップを発揮できることは、別のことだ。この登用の仕組みを変える必要がある。

 そもそも、学校の場合は、管理職を育成する人、管理職にフィードバックする人がいない。学校を回っているのは指導主事だが、40代が多い。年齢が逆転している。先輩である校長先生に言いたいことが言えない。メッセージが甘くなったりするし、校長の経験をしたこともないのに、校長先生を指導できるわけがない。

 一度管理職を経験した上で、フィードバックをするとか、支援するとか、そういう仕組みになっていない。コンビニの店長を支援するSV(スーパーバイザー)は、普通は店長経験者がやるものだ。

 大手都銀と仕事をしたことがあるが、支店長はいま40代がやっている。昔は支店長というと上がりのポストで、黒塗りの車に乗って、支店長室からめったに出てこない、殿上人みたいなポストだった。いまはまったくそういうことはない。支店長は実際に店を動かす立場。でも40代では人事の問題などで難しいこともある。だから名支店長と言われた人たちがSVとなって、支店を回ってサポートをしている。

 人生100年時代なのだから、退職した校長先生の中で、みんなに慕われた人望のある方に、SVになってもらえばいいのだ。

【7】教員養成系大学のカリキュラムはどのようにあればいいのか?

 最後に教員養成系大学や教育学部のカリキュラムのことだ。この話題になると、大学にいる研究者から、ちょっと前までは真顔で「われわれは職業訓練校ではないので、仕事のスキルなんて取り扱いたくもない」という言葉をよく聞いた。「職業訓練」という言葉は、どうも教員養成系大学の先生の機嫌を損ねてしまう言葉らしい。私は「教員養成系大学が職業訓練」かどうかは問わない。ただ一つ、教員養成系大学にお願いしたいのは「4月から現場で仕事ができる教員を育ててもらわなくては困る」ということに尽きる。

 授業にまつわるスキルだけではない。保護者対応、学級経営、GIGAスクール構想によるICT活用などなど、教員にはたくさんの仕事がある。教育の世界は、3月まで「大学生」だった若者が、4月になれば「先生」なのだ。子どもたちは、彼らを「先生」と呼ぶのである。そして4月になれば、彼らは「先生としての仕事」を求められる。
 
 教員養成系大学のカリキュラムの在り方を考える上で、まず、大切なのは「何が教えられているのか(what)」である。これを総点検し、「現場で仕事ができる教員の育成」に資するものを選抜していくことが求められる。

 かつての教員養成系大学は、ミニ総合大学と呼ばれていた。これからは特色あるカリキュラムも必要だと思うし、教員養成系大学の科目連携なども必要だろう。これからの在り方を見直す必要がある。

 次に大切なのは、教員養成系大学の「学び方」(how)である。「教員の学び方」は「子どもの学び方」とセットになっていなければならないということだ。子どもがアクティブラーニングで学ぶなら、教員もアクティブラーニングで学んでもらわなければならない。自分が体験したことしか実践できないからだ。ICT活用もそうだ。子どもに端末を使って教えるなら、自分も端末を持って学んでもらわないと困る。今の教員養成系大学の学びは、子どもに必要となる学びと同期させていく必要があると思える。

 やるべきことは地道だ。現場で教師が必要になるスキルやマインドセット、メンタルモデルを、大学でしっかりと教える。インターンのようなかたちで、経験もなるべく早く積ませる。教育委員会と学校も役割を分担してサポートする。若い先生が、しっかりと歩き出せるようにしなければいけない。

 以上、教員の人材マネジメント上の課題を述べてきた。人を採用して、育成して、成果を創出してもらう、というのが人材マネジメントの根本だが、それが目詰まりを起こしてしまっている。

 ただし、これは個々の教員の皆さんのせいではない。再設計をするのは、個々の現場の先生では無理だ。国が動かないと実現しない。普段から苦しい思いをしたり、働きがいを感じられなかったり、疲れてしまっていたり、そういう現場の先生には、本当にお疲れさまです、とねぎらいの言葉を掛けたい。

 改革はまだ緒に就いたばかりだけれども、国も少しずつ動き始めた。教員免許更新制は廃止になった。私は教員免許更新制にはずっと反対してきた。教師の負担増が大きいというのと、まったく能力育成につながらないからだが、これはやっと廃止が決まった。これからも負担を減らしていこうという流れが続いてほしいと願う。そんな中で、現場の先生方にできることがあるとすれば、成長を実感するために日々の振り返りをすること。それから、自分の労働時間を見直してみること、だろうか。

 3回にわたって、教員の働き方、人材マネジメントが抱える問題について説明してきた。ぜひこの現状をみんなが理解しつつ、改善の方策を探していきたいものである。

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