GIGAの山を登る⑦校長のリーダーシップと言動(松田孝)

合同会社MAZDA Incredible Lab CEO・東京都小金井市立前原小学校前校長 松田 孝

チームビルド

 球春到来。プロ野球のキャンプのニュースが連日届くようになった。Jリーグに目を向ければ、開幕はもう目前。春季キャンプでは、年間を通じてリーグ戦を戦い抜くために個人技能の向上はもちろんのこと、チームとして戦略の理解を深め、戦術の徹底を図っていく。そして何より選手一人一人にチームの構成メンバーであることの自覚を促し、個人成績と共に組織目標の達成に向けて最大のパフォーマンスを発揮するよう、その意欲を喚起するのが監督の最大の使命だ。

 まさにチームビルド。選手同士の信頼関係構築のために、プロジェクトアドベンチャー(PA)等に取り組むスポーツチームもある。そして今年は例年以上にリーダーである監督の言動(パフォーマンス)に注目が集まっている。

新年度に向けて

 校長も同じ。今まさに次年度の教育課程編成の真っ最中。前年末から行ってきた学校評価を踏まえ、次年度の計画作りが各分掌に割り当てられている。作業としては、校長や教頭など管理職が教育課程編成の基本方針等を作成し、時数に関連する内容は教務主任が取りまとめる。そして届け出に必要なさまざまな添付資料の作成を各分掌主任が担う。最後にそれらをまとめて教委への届け出となるわけだが、このプロセスにおける校長のリーダーシップの発揮と言動に注目したい。

 今は乱世。喫緊の教育課題解決に全力を尽くす所属職員に目指す方向性を示し、現状に疲弊を感じる職員がいれば、取り組みの先にあるやりがいを示したい。コロナの感染拡大の波に翻弄(ほんろう)されながらも、校長自らが描く大局観をもって、その責任において職員を鼓舞し、編成作業を時に直接的にディレクションしなければ、乱世を乗り越える教育課程は編成できない。

本格運用の成果

 筆者は学校現場におけるGIGAの推進を山登りに例え、前人未到の頂へのAttackだとイメージしている。この1年、いくつかの混乱を乗り越え、情報端末と通信ネットワークが一体的に整備された教育環境の下、全国で授業実践が始まった。筆者が関わる学校の校長は皆、「所属職員がとても一生懸命で、端末をよく使うようになった」と話す。

 まとめの発表資料の作成、授業での動画視聴、インターネットを使った調べ学習、写真撮影してそれを共有、AIドリルによる基礎基本の定着、配信された課題に回答、共有ツールを使った協働、持ち帰って宿題を行う等、これまでの授業フレーム(学習過程)にICTをうまくはめ込む使い方ができるようになってきた、と言う。

 積極的に情報端末を使い始めた学校の目に見える成果は、子供たちのタイピング力のものすごい向上だ。2013年に国が行った情報活用能力調査時には、小学校5年生は「1分あたり5.9文字しか入力できなかった」のが、今はものすごいスピードでタイピングする子供たちの姿を多くの教室で見ることができる。CBTが現実になる中、タイピング力のデバイドは子供のキャリア形成に大きな問題となることを肝に銘じたい。

さらなる充実のための戦略&戦術

 本年度のGIGAの本格運用の成果を踏まえ、次年度さらなる充実を図るならば、まさにチームとしての戦略を教育課程編成の基本方針に、校長が自らの言葉で思いを表現すべきだ。そして重点事項には、単に端末を使うフェーズの戦術(実践)から、子供たちの「学ぶ意欲を涵養する」、真に活用のための戦術を記述する。わずか数行の文章ではあるが、そこに校長としての本気(パッション)を込める。

 改めて情報端末を使うフェーズが3つあることを確認したい。

 一つは、「使用」のフェーズ。モノがなければ使えないのは当然だが、回線スピードの確保や動画視聴制限などの制約を乗り越えるには、校長会の団結が必要となることは言うまでもない。

 一つは、「利用」のフェーズ。まさに今年度の成果として示される既存(従来)の学習過程にICTをうまくはめ込む使い方である。

 そしてもう一つが「活用」のフェーズ。今年度GIGAを積極的に推進してきた学校が大きな課題として意識し始めた、「学びに向かう力」を涵養する使い方だ。

 これまでこの力を巡っては、その評価方法ばかりに注目が集まってきたが、ICTを使うことで「学びに向かう力」を子供たちに育む学習活動を組織することができる。それは「振り返り(自由記述)」活動の充実であって、現状でも「まとめ」の学習過程において、情報端末を使って「振り返り(自由記述)」を入力させる試みは実践されてきてはいる。そしてその「振り返り(自由記述)」を学習支援システムを使って一覧共有するにとどまることなく、その教育的価値をもっともっと生かした活動を組織しよう。

一覧共有の3つの教育的価値

 子供たちの「振り返り(自由記述)」を一覧共有する教育的価値は3つある。

 一つは、多様性の尊重。同じ学習活動を体験しても友達の「振り返り(自由記述)」を読むとそこにはさまざまな気付きがあることが一目瞭然となる。

 一つは、相互啓発の活性化。一覧として示される多様な気付きにコメントしたり、いいねを伝えたりする機能をもつ授業支援システムを使えば、感情と思考の交流を促すことができる。

 一つは、学習方略の獲得。ここでは知識・技能の習得にとどまることなく、自身のキャリア形成や個性伸長に向かう方略を得ることができ、それが刺激となって次の「学び」に向かう動機を醸成する。

 「振り返り(自由記述)」=「メタ認知」、学習方略、動機付けという3つの価値は、まさに「学びに向かう力」の核となる自己調整力の3つの要素そのものである。

 さらにこの3つの価値を子供たちが体感する活動が「協働的な学び」であり、教師の価値付けによって子供たち一人一人が「①知識を相互に関連付けてより深く理解したり、②情報を精査して考えを形成したり、③問題を見いだして解決策を考えたり、④思いや考えを基に創造したり」する「深い学び」の具現へとつながっていく。

頂へAttack

 1年かけて前人未到の頂にAttackする最終ベースキャンプまでたどり着くことができた。4月からいよいよAttackが始まる。そのための戦略と戦術を所属職員と共有するのが教育課程編成だ。そしてそこにつづられた戦略・戦術を取ることは、既存の授業フレームに収まらない学びのスタイルを描き出す。教師の役割も大きく変わってくる。

 GIGAの本格運用が始まった年度当初は、ICTを積極的に授業で使う教員とそうでない教員との格差を憂うような発言も聞かれた。しかし管理職や推進リーダーの努力によってお互いの知見や情報端末等を効果的に使うTipsを自然と交流し合う場が開け、職場の心理的安全性が担保されるようになった。

 今こそ学校がチームとして勇気をもってオーバーハングに挑むことができる。

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