オンライン授業 「共にいる」感覚を大切にしたい(中原淳)

立教大学教授 中原 淳
「批判する」より「できること」

 新型コロナウイルスのオミクロン株による感染が急拡大して、さまざまなワークショップや研修などが再びオンラインに移行している。上田信行先生(同志社女子大学名誉教授)と私たちが、1月に奈良・吉野で企画していたワークショップも、対面ではできないという判断で、オンラインで実施することになった。そこで取り組んだのは「共に一緒にいる」という感覚を、どうすればオンラインで共有できるかということだった。コンテンツを伝達することは、オンラインであろうと、対面であろうと可能だし、そこに大して差はない。でも、「共にいる」という感覚はオンラインではなかなか感じにくい。

 口の悪い人は「オンラインは対面の劣化版にすぎない」という言い方をしたりする。でもそんなことを言っても、コロナ禍は去ってくれない。いまは「批判する」より「できること」を考えた方がいい。オンラインのワークショップをどう改善していけるかということで、テーマとなったのは、オンラインで不足しがちな共通体験、共通感覚というのをどうすれば高めることができるかということだった。

別々の場所にいても、同じ紅茶を飲む

 と言っても、それほど大したことはしていない。デザイナーの三宅由莉さん、いわた花奈さん、井上佐保子さん、石戸谷直紀さんらの協力を得て、まず、それぞれの参加者が自分の好きな言葉をプリントしたおそろいのTシャツを作った。また、吹き出しボードも制作した。どうしてもインタラクティブになりにくいので、「いいね」といったメッセージをリアルタイムに画面に出せるようにしたかった。

 Tシャツとボードに加えて、紅茶とチョコレートを参加者全員に郵送しておいた。加えてリモート会議の背景も共通のものにした。それぞれが別々の場所にいるけれど、同じものを着て、同じものを食べて、同じツールで遊ぶという状況を作り出した。

 例えば、休み時間に同じ紅茶を飲んで、同じチョコレートを食べる。「このアールグレー、おいしいね」「香りがいいね」などと話している。同じものを飲んだり食べたりすると、共通の感覚というものを感じる。すると、不思議なことに一緒にいるような感覚が出てくる。

 考えてみると、オンラインというのはほとんど、五感のうちの視覚と聴覚だけで成立している。でも、同じものを食べることで、味覚や嗅覚というのも、実は共有できたりする。さすがに「さわる=触覚」はできないけれど、五感のうち四つは共通の体験ができる。そのことによって、「いまここにいる私たち」という感覚を持つことができたのは、私としては驚くような発見だった。

 私もワークショップが終わるのが寂しくなって、少し涙ぐんだりしてしまったし、参加者もなかなか退出ボタンを押そうとしない。曽和具之先生(神戸芸術工科大学)が作ってくれたリフレクションムービーも流れた。感動的な体験だった。一手間かけて、一工夫して、いま自分たちができる最善のことをやろうとチャレンジすれば、いろんなことが可能になる。オンラインだからできないと諦めるのではなく、常にどうすれば良くなるかを考える姿勢が大切だろう。

「共に学ぶ」体験の補完が必要

 学校もこれから、謝恩会や卒業式というシーズンに入っていく。オミクロン株の流行がどうなっていくか分からないが、例年通りに実施するのは難しい状況も生まれるかもしれない。諦めて中止してしまうのは簡単だが、できることはいろいろあるはずだ。

 私たちも難しいことをしたわけではない。客観的にみれば、チョコレートと紅茶とTシャツを送っただけ。むしろハードルは低くしている。ワークショップの中で、みんなで一緒に体を動かそうという場面を劇団の井上けいとさん、秋月ひえこさんらが作ってくれた。振り付けを覚えて踊るのは難しいけれど、おそろいの服を着て、肩を回すとか頭を振るとか、その場でできるパフォーマンスをみんなで同時にやるだけで、けっこう盛り上がる。ほんのひと工夫だけでいい。できることはたくさんある。

 いまや、オンライン授業をやっていても、誰もカメラをオンにしない、という状況は大学でも珍しくない。共にいる、共に学んでいるということが見えにくくなっている。そこは少しでも補完する努力が必要ではないだろうか。

 「共にいる」という感覚は、ぜひ持った方がいい。いま、学びはどんどん個人化していて「個別最適」という言葉がはやっている。AIを使って、その子に合わせて学びをカスタマイズして最適なものを組んでいく、そういうことが要請されている。最適化は同時に分断でもあって、共に学ぶという体験は少しずつ失われている。

 ある程度の学齢になったら、授業はどうすれば良くなるだろうとか、イベントはどうやったらできるだろうとか、自分たちで解決策を考えることは教育効果としても大きい。先生方も大変な状況で苦労されていると思うが、できないと諦めてしまうのではなく、一緒に挑戦する姿勢をみせてほしい。できないことを嘆くより、誰かを批判するより、その方が、ずっと楽しい。

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