深刻化する教員不足 学校の教育サービスが低下・停止する(中原淳)

立教大学教授 中原 淳
民間企業で言えば、事業継続の危機

 臨時委員として参加している中央教育審議会の「『令和の日本型学校教育』を担う教師の在り方特別部会基本問題小委員会」という会議で、教員養成系大学の在り方、教職課程の在り方、教員の人手不足問題をどうするかについての話し合いが行われている。

 周知のとおり、今、学校現場は未曽有(みぞう)の教員不足に陥っている。それをどのように課題解決するか。

 私としては、この会議で、毎回毎回、この問題の根本的な解決のためには、教員の長時間労働是正、待遇改善、人(リソース)の補充しかないと繰り返し述べている。安心・安全に働ける職場こそが「採用のメッセージ」になるし、「離職防止」につながるからだ。この問題は、とても深刻で、なりふり構わず、あの手この手を尽くしても、何とかなるかならないか、の瀬戸際だと思う。実際、今、現在で、すでに人は足りていないからだ。非常勤を集めても集まらない。教頭先生や校長先生が教壇に立つ学校も少なくない。

 この現場の深刻さを前に、中教審でも議論が進められているが、適切な課題解決をスピード感をもって実施していくことが必要だ。私自身も、その構成要員の一人であるので、自らの責任を感じる。国が、もっともっと本気でこの問題に取り組まなければ、学校の教育サービスが低下・停止する事態に陥る。現状は、民間企業で言えば、すでに人手不足で事業拡張できないレベルを超えて、事業継続ができないと判断するレベルだ。民間の人事部長ならば、必ず、そう判断すると思う。

将来予測がないから、ゴールをイメージできない

 適切な課題解決をスピード感をもって実施するとはどういうことか。まず、必要なのは目標をクリアにすることと、5年後の予測を立てることだ。

 この会議では、2021(令和3)年度始業日時点で小・中学校の教員が計2086人足りていない(不足率0.35%)などという現状は示されていた。しかし、それが5年後にどうなって、10年後にどうなっていく、という予測値と、それに基づく要員計画が見えない。どこで、どれだけ人が足りなくなる、という数字を適切に把握できていなければ、どれだけ増やさなくてはいけないか、何人を確保しなくてはいけないか、その数値目標も示せない。目標がイメージできなければ、適切な課題解決もできない。

 全国レベルで数字を予測することが難しいなら、自治体単位でも構わない。子供の数はどうなっていくのか、自然減で教員がどれぐらい少なくなって、採用を強化することでどれぐらい充足できるのかの予測と目標値を立てることだ。

 イメージできないものは、マネージできない。ゴールがイメージできないものは、課題解決ができるはずがない。もちろん、ぴったり正確な数字は出せないことなんかは、分かっている。しかし、それでも、目指すものを決めることだ。

 人はそんなに簡単に一人前の教師にはなれない。単純な話、教員養成系大学を出るだけでも4年かかる。ということは、いますぐ、最低でも5年後に充足率がどうなっているかを予測しておく必要がある。

 会議では、教員不足解消に取り組んでいる自治体の事例が発表された。それぞれは興味深い取り組みではあった。が、一方で、私はこうも思った。その取り組みによって、不足する教員人員を、どれだけ埋めることができるだろうか、と。

 くどいようだが、貴重な取り組みであり、現場の努力には頭が下がる。しかし、その解決策で、現状と目標の間のギャップをどの程度埋められるだろうか、と考えさせられた。おそらく、教員の人手不足問題の課題を解決するためには、より多くの打ち手を、なりふり構わず、打っていく必要がある。もう、事態は、そこまで深刻なのだ。

 この問題を考えるとき、「教育業界の人材に関する考え方」と「企業における人材の考え方」には、大きな違いがあることを痛感させられる。

 企業の場合は、店舗に人手が集まらなければ、事業継続ができず、直ちに利益が止まる。だから、企業の人材マネジメントの基本中の基本は「要員計画」を立てることであり、そこに対する解決策を考える。ビジネスを止めないため、進めていくために、人手は、必要不可欠なことだから。ビジネスが止まれば、給料が払えず、ご飯にもありつけないから、必死で、人手不足問題に対処する。業務の現況と将来像を考えて、どこそこの地区、どこそこの部署に、どういう人材が何人必要なのかを考える。

 もちろん、予測は予測だ。正確な数字など、出せるわけがない。ただ、目指す方向性が決まらなければ、解決はありえない。たとえ粗い計画でも、その計画に合った人間を採用し、育成して、現場に絶対に届けるのが、人事部門の仕事だ。実際、現場から「人が足りない」と情報が上がってきてるのに、「人は採れません」では絶対に済まない。「じゃあ、何としても、人手を集めてください」となるだけだ。

 しかし、教育業界では、これがまかり通る。現場には諦めムードが漂っている。しかも、採用ができてもできなくても、現場が渋々カバーし合う。現場の苦労は計り知れない。「みんなで頑張ろう」になり、長時間労働がますます進む。教頭、校長が教壇に立つ。彼らマネジメント層が現場に立つということは、その分、マネジメントが手薄になる。長時間労働が放置され、マネジメントがおざなりになれば、さらに職場環境は悪化する。職場環境が悪化すれば、ますます、人が採用できなくなる。職場環境の改善こそが「最大の採用メッセージ」だからだ。

 先日、私のブログの読者である横浜の教員の方からメッセージをもらった。「10年後の職員室はどうなっているか」という未来予想をしていて、教頭は30歳代になる一方で、60歳代後半、70歳の人も教壇に立っている。教員免許を持っている人は誰でも採用、それでも人は足りない、みたいな世界を想定していた。 

 現状を知るというのは、悪くないことだ。でも、その先、教員不足の問題をどうするかを考えるなら、ここではこれぐらい足りなくなるから、こういう手を打とう、と綿密に取り組んでいく必要がある。正確な数字でなくてもいいので、まずは要員計画を立てることだ。みんなの頭の中に「10年後にどうなってしまうのか」というイメージがなくてはならない。深刻さが共有されないと、デフレスパイラルはさらに進行していく。

令和型の就活・採用にアップデートが必要

 くどいようだが、教員不足問題は、あらゆる手をなりふり構わず打って、打ち尽くしても埋まるかどうか分からないレベルだと考えている。600万人程度の労働人口が不足する予測の立っているわが国にあっては、この不足が解消することは、まず見込めない。教職課程も、教員の採用も「昭和モデル」を捨てて、「令和型の就活・採用」にアップデートする必要がある。知恵を絞って覚悟を決めれば、工夫できるところはたくさんあるのではないか。質を落とさず、量を確保する方法を、工夫するほかはない。

 まず、採用で工夫できるところがあるだろう。例えば、試験時期を少しずつずらして、複数の地域を受験できるようにするとか、採用試験を共通化してハードルを下げる、とかもあるだろう。試験の内容の精選も必要だ。本当に、現在の採用試験の問題は、全てが必要なのか。学生に負荷を与えていないか。試験問題の分析も必要だろう。

 大学3年生の春から企業のインターン応募が始まることを想定して、試験の時期を弾力化することもありえるかもしれない。教育実習を前倒しして行い、負荷を下げることも一計かもしれない。教員は教える経験を通じて、学ぶ。だから、教育実習が不要ということはありえない。しかし、問題は、その時期とやり方だ。

 もうすでに多くの自治体で試みられているが、試験を免除される教員養成セミナーなどを実施して、採用チャンネルを増やすこともありえる。しかし、こちらにも応募数が減っていると聞く。大規模な広報が必要だろう。

 大学教育の中でなるべく早く魅力的な先生に出会わせて、大学生に教師という仕事の魅力を伝える。ブラックな職場だというイメージを拭い去るために親向けの説明会を開く、などなどやれることはたくさんあるはずだ。以上は私が机上で考えたものだ。現場の声、学生の声に耳を傾ければ、やれる工夫はいくらでも出てくると思う。企業がもし、なりふり構わず採用する、ということになったら、ここに書いたことぐらいは間違いなく全部やる。これらをやった上で、さらに、他の施策をやるだろう。それだけやっても、現状と目標の間の「ギャップ」を埋めることは極めて難しいのである。

 ちなみに、いまの教員養成は、教員養成系大学などで学んだ人を対象に、4年生の春に採用試験をして、受かった人だけで人が足りるという前提になっている。でもいま、多くの大学生は3年の春には就活に動いていて、どんどん一般企業に取られてしまっている。もっと早くアプローチしないといけない。

 立教大学経営学部の場合、1年生で就職活動の一部を経験している学生が27%ほどいる。12%の学生は、1年生でインターンシップに参加している。就活開始予定時期は、2年生と回答した学生が56%、3年春と回答した学生が29%である(18年度・立教大学経営学部付属データアナリティクスラボ調べ:田中聡助教報告)。昭和型の就活は、この時代には、もう存在しない。令和型の就活・採用にアップデートしなければならないのだ。

 早期に学ぶ意欲をもたせるため、彼らが就職するような企業と接点を作って、コラボレーション型の授業などもやっているし、企業とコラボしたゼミ運営も盛んだ。

 環境は激変していている。初年次の学生に何もアプローチしないまま4年生で選考をするだけで、人がおのずと集まった時代は、すでに過去のものだ。今の採用は「組織が選んでいる」ようでいて、「学生に選ばれている」のである。教員ならば、教員の魅力をがんがん訴える。そういう努力を重ねていくしかない。

 長時間労働の問題がこれだけメディアで騒がれて、そもそもイメージが悪くなっている。かつては振るい落としていればよかったけれど、小学校教員は地域によっては競争率(採用倍率)が1.4倍とか、落とせないというレベルにまで近づいている。教員的な感覚で言うと、採用率が2倍以下では「選抜」という機能は働かない。誰でも採用することになってしまうと、苦労するのは現場だ。イメージアップを図ることも必要だし、あなたなら採用しますよ、と早めに内定を出すようなやり方を考えてもいい。旧態依然とした手法には、もうリセットボタンを押すべきだ。

リスキリングを前提に中途採用も柔軟に

 今後は、中途採用にも可能性があると考えている。例えば、ITエンジニア。スキルと仕事が見合っていればいいが、40代ぐらいになると厳しくなって、セカンドキャリアを考える人も少なくない。でも教育現場にとってはチャンスかもしれない。IT企業でエンジニアとしてバリバリ働いて、40代からのセカンドキャリアは学校で子供たちにITについて教えることもできる。あるいは兼業・副業で、オンライン授業を担当してもらうこともできるだろう。免許制度の改訂、中途採用の仕組みの整備、彼らを定着させるためのオンボーディング施策(On Boarding:定着支援)を整備することが必要だ。

 英語についても、例えば、商社で海外赴任を重ねてきて、50代になって次のキャリアを考えようという人もいる。教員免許をどうするかと言う問題はあるが、リスキリング(人材の再教育・能力開発)を前提にして、より多くの人が教壇に立てる仕組みを作ってしまえばいい。柔軟に考えていかなければならない。

 私も教員だが、教員というのはやりがいのある仕事。教えた子供の成長が見られるのはとても楽しい。でも、労働環境的に厳しい面はある。あの手この手を尽くして、なりふり構わず手を尽くさないと、教員不足を解決するのは難しい。

 私も、臨時委員の委嘱を引き受けたので、当事者の一人だ。責任を感じている。議論を前に進めることに、及ばずながら、引き続き貢献していこうと思う。

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