常に時代を先読みする力を 「校長学」のススメ(喜名朝博)

東京都江東区立明治小学校統括校長、全国連合小学校長会顧問 喜名朝博

忘れられない2人の校長

 吉村英明先生(故人)は、今でも忘れられない校長先生のお一人だ。初任校で最初にお世話になった先生は、ご経験もお人柄も教育者としても、まさに尊敬できる大校長だった。師範学校ではサッカー部、ご専門は国語。書家でもあった先生は達筆で、週案のコメントが解読できないこともあった。そんな先生に何度か食事に誘っていただいたことがあった。

 いろいろお話をしてくださったが、今になって思うと、この若い教師をなんとか一人前にしなければと思われていたのかもしれない。そして、口癖のように「喜名さん、いいぞ」と声を掛けていただいたことが、どれだけ励みになっただろうか。

 翻って、自分は若い教員を励ましてきただろうか、できていないことばかり指摘してこなかっただろうか、人間味ある温かな人材育成はできたかと反省させられる。

校長が前向きだと学校全体が明るくなる

 もうお一人は、児島邦宏先生(東京学芸大学名誉教授)だ。兼務ということもあって週1、2回のご勤務だったが、その存在感は絶大だった。毎週の全校朝会でのお話は、全ての子どもが目を輝かせて聞いている。短く、分かりやすく、余韻を残す、すごい校長講話だった。そんな講話を目指したが、足元にも及ばなかった。子どもが大好きな先生はいつも移動教室や臨海学校を楽しみにされていた。テーマごとのグループ活動を自ら担当され、ネーチャーガイド顔負けの解説をされていた。

 いつも穏やかな先生も、研究会では研究者としての厳しい顔を見せた。まさに理論と実践をつなぐ偉大な先生だった。学校の研究が実践報告の域を出ないのは、理論の裏付けがないからだ。校長自身が教育理論と教育研究の手法をしっかり身に付けていなければ、いつまでも教育の質は向上しない。

 教育委員会で仕事をするようになって、たくさんの校長先生と出会った。ふらっと校長室に伺うと、どの校長先生も子どもたちや先生方の活躍の様子を自分事のように話してくださった。校長職を楽しんでいるようにも見えた。校長先生が前向きだと学校全体が明るくなることも確信した。

 昨今、校長が集まるとどうしても愚痴が多くなる。それでも、子どもたちも教職員も頑張っており、校長はそんな人々に支えられているということを忘れてはならない。

日本の小学校教育を支える校長会

 全国連合小学校長会(全連小)は秋の全国大会の他に、地区ごとに研究大会を開催している。コロナ前、隔年開催の四国と全国大会を兼ねる東北地区を除く6地区の大会に参加させていただいた。どの地区も担当の校長会が中心となり、参加校長の学びが充実するよう最大限の工夫をしている。校長会という組織の力、職能団体としての底力を目の当たりにした。そして、日本の小学校教育はこのような校長会が支えているのだという実感をもった。

 全国大会では秋田と京都の校長先生方にお世話になった。2000人規模の大会は、3年前から準備を始める。ここでも、校長の学びが充実するように、担当の先生方が何度も協議を重ね、さまざまな場面で実際にその手法を試して改善されてきた。「そんな地道な取り組みが、校長の力を確かなものにしている」と話してくれた、秋田の校長先生の顔が目に浮かぶ。

 コロナ禍にあって、2020年度の 京都大会は誌上発表になった。京都の校長先生方の思いを考えると断腸の思いであったが、その研究冊子を基に学習会を開いたという校長会もあり、京都の先生方の思いに応えていただいたことが大変ありがたかった。まさに、校長の「学びに向かう力」を体現していただいた。

学校経営を校長の学びにする

 先輩校長も含め、校長の数だけ学校経営のベストプラクティスがある。しかし、そのまままねしてもうまくはいかない。自校の実態や課題に合わせてカスタマイズし、最適化を図る必要がある。そして、この過程で校長の信念としての教育観や思考の深さが試されることになるのだ。

 さらに、新たな課題を解決するためには、新たな発想が必要となる。そのヒントは教育界ではなく、世の中の最新情報の中に見いだすことができる。常に時代を先読みし、次は何をすべきかを考える校長でありたい。時代に乗り遅れないようにするのではなく、時代の流れを創っていく力を子どもたちに育んでいくのがこれからの学校教育である。それは、校長自身にも求められている。

 そのためにも、学校経営を校長の学びとして捉えていきたい。日々の営みから得る気付きを蓄積し、整理していけば他の校長と共有し、継承可能な「校長学」となるはずである。

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