ウクライナ危機 児童生徒と対話する際の8つのポイント(藤川大祐)

千葉大学教育学部教授 藤川 大祐

 ロシアのウクライナへの侵攻から1カ月となった。戦況は連日報道され、子どもを含む一般市民が犠牲になったり、避難生活を余儀なくされていたりする様子が伝えられている。

 この戦争について、当然、子どもたちの関心は高いだろう。だが、現在進行中の問題について本格的に授業で取り上げるのは難しいと考える教員が多いのではないだろうか。

 そこで、朝の会や授業が早く終わりそうなとき、あるいは休み時間など、この戦争について児童生徒と短時間の対話をするときを想定し、8つのポイントを挙げて、どんな話題について対話することが考えられるか、整理してみたい。

1. 不安・恐怖について

 悲惨な戦争の様子を見て、多くの子どもたちが感じるのは、不安や恐怖であろう。子どもがこうした感情に陥るのは当然であるし、子どもによってはストレスが強過ぎて心身の調子を崩してしまうかもしれない。特に、戦争の背景などについて理解が難しい幼い子どもや知的障害がある子どもなどには、状況が理解できないまま恐ろしさばかりが伝わってしまうかもしれない。

 こうしたときこそ、教員が子どもたちのストレスに敏感になり、共感的に話を聞いたり、落ち着いた態度で安心感を与えたりすることを意識する必要があるだろう。特にストレスが強いと思われる場合には、家庭でも悲惨な映像を見過ぎないようにしたり、甘えさせてあげるようにしたりと、配慮してもらうよう促すことも考えられる。

2. 安全や平和の大切さ

 子どもがある程度抽象的なことを理解できるのであれば、私たちが生活していく上で安全や平和が重要であることの大切さについて、あらためて確認することも重要であろう。このことは、教室の中で誰かが嫌なことをしてきたり、地域や家庭で暴力や盗みがあったりしたらどうかということと、関連付けて考えることも可能だ。

 残念ながら安全や平和が脅かされることがあるが、そうした場合には人々が力を合わせて解決することが大切だということ、実際に多くの人が解決のために力を尽くしていることなども話題にできたらよいだろう。

3. 基本的な地理・歴史

 子どもたちがこの戦争について何かしたいというときに、まず考える必要があるのが、ウクライナやロシアの地理・歴史について知ることではないだろうか。それぞれがどのような国かを知らずして、何かするというのは無理がある。地図や地球儀、書籍やインターネット上の情報などから、基本的な知識を得ることを推奨したい。

 広大なロシアの領土の中でのモスクワの位置やロシアとウクライナの位置関係、キエフなどウクライナ各都市の気候などを知れば、現地の状況についてイメージが湧きやすいだろう。両国の平均寿命が日本よりかなり短いことも、さまざまな問題を想起させる。また、ロシア帝国やソ連時代のウクライナの状況など、大人でもあまり知らなかったことがある。

4. 産業・エネルギー

 西側諸国などからロシアへの経済制裁などに関連して、ウクライナやロシアの産業やエネルギーに関して注目が集まっている。こうしたことについて調べて話題にすることもよいだろう。農水省のサイトを見ると、ウクライナは「ヨーロッパの穀倉」と言われるほど農業が盛んだということが話題になるが、とうもろこしや小麦といった農作物はあまり日本に輸入されていない。他方で、ウクライナから日本への輸入額が最も大きいのは、たばこだったりする。

 エネルギーについては、日本もロシアから天然ガスや石油を多く輸入しており、影響が懸念されている。また、ロシアがウクライナ国内の原子力発電所を攻撃しており、ウクライナのゼレンスキー大統領が日本の国会で行った演説でも述べていたように、原子力発電所に関わる放射能汚染の懸念も生じている。

5. 国際組織・国際法

 今回の戦争の背景には、ウクライナがNATO(北大西洋条約機構)に加盟するか否かという問題があった。国連をはじめ、G7、EUといったさまざまな国際組織・枠組みが話題になっている。特に、戦争の問題を扱うために設けられたはずの国連安全保障理事会が、常任理事国であるロシアや中国に拒否権が認められているために、今回の戦争に関しては有効な決議ができない状況が注目されている。

 また、戦時国際法と言われる戦争に関する国際法の在り方も話題になっている。攻撃目標は敵の戦闘員か軍事目標に限られるなどのルールがあるが、戦争の実情とは乖離(かいり)している。

 絶対的な権力がない国際政治において、国際組織や国際法について理解し、理想的な在り方を考えるということも一つのポイントであろう。

6. 民族

 ロシアは、ウクライナへの侵攻を、ドネツク地区のロシア系住民の救済を目的とすると主張した。また、プーチン大統領は、論文においてロシア、ウクライナ両国の民族の一体性を主張している。しかしながら、こうした主張は、ウクライナ側にロシアへの従属を求めるものであり、歴史にも合っていないという批判がなされている。

 中高生であれば、民族とは何か、民族と国家との関係はどうあるべきかという話題で対話をすることもよいだろう。

7. 自由と民主主義

 今回の戦争は、民主主義陣営と権威主義陣営との戦いだという見方がある。異なる意見を認めず、権威主義の傾向を強めるロシア故に、他国への侵略を行うような事態になったとも考えられる。ミャンマーやアフガニスタンでも、民主主義政権から権威主義政権への移行が見られる。

 権威主義への移行は、言論の自由への制限を伴う。自由や民主主義といった価値について、考えることも大切だ。

8. 戦時プロパガンダ

 ロシアやウクライナの情報発信の在り方にも、注目が集まっている。国連でのロシア大使の発言などが批判される一方で、ウクライナはゼレンスキー大統領が精力的に情報発信し、効果的に支持を得ようとしている。

 戦争においては、国内外の支持を得ることが重要となり、時にはなりふり構わぬ情報戦の様相に至る。こうした戦時プロパガンダに注目し、関係国の情報発信に注目するのもよいだろう。

 当然だが、対話の際には、児童生徒やその周囲に多様なルーツを持つ人がいることを忘れず、差別や偏見につながることがないよう配慮するようにしたい。現に起きている問題を扱うことは難しいかもしれないが、教員には、子どもの問い掛けには応えられるようであってほしいと思う。

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