GIGAの山を登る⑧ 本格運用2年目を迎えて(松田孝)

合同会社MAZDA Incredible Lab CEO・東京都小金井市立前原小学校前校長 松田 孝

必須アイテムは「個別最適な学び」

 前人未到のMt.GIGAの頂へのAttack直前。

 改めてその頂の位置と姿をしっかりと確かめよう。もしかするとGIGAの本格運用が始まって1年がたち、メンバーはICTの使用と利用ができるようになり、Attackチームにはちょっとの安堵(あんど)感、もしかすれば油断、慢心が漂っているかもしれない。

 しかし濃霧に覆われやすいその頂は、ルート上の手前のピークと間違えられやすく、オーバーハングする姿はなかなか目にすることはできない。

 さまざまな困難を乗り越え、最終のベースキャンプにたどり着いた今、目指す頂は「学びに向かう力」の核である「自己調整力」の涵養(かんよう)にあることを今一度、肝に銘じよう。Attackする頂の位置と姿を再確認すれば、ICTの使用と利用にとどまるだけでは真の頂へは登頂できないことが分かる。手前のピークをGIGAの頂であると勘違いするか、オーバーハングに耐えられず滑落してしまう。

 言うまでもなく「個別最適な学び」が、真の頂に登頂するための必須アイテムだ。

 この1年間のICTを巡る議論を俯瞰(ふかん)すれば、「個別最適な学び」は「協働的な学び」と対になって語られていることが多い。それはこの「個別最適化」が「知識・技能の習得」における学習方法として考えられ、教師からの教授後、習熟のためにAIドリルなどを使った学びが孤立化することへの憂慮を払拭(ふっしょく)するために使われているからだ。

 しかし「個別最適化」を「学びに向かう力」の核となる「自己調整力」の涵養のための学習過程に位置付ければ、そこでは「協働的な学び」が「個別最適な学び」に必然と包括されてくる。

「振り返り」活動による「自己調整力」の研磨

 「自己調整力」は、子供たちが自らの学びを維持し、効果的に行う力であって、「知識・技能の習得」にとどまることなく、その子供の「キャリア形成」や生涯にわたる「個性伸長」に資する力である。そしてその力は「メタ認知」「学習方略」「動機付け」という3つの要素を磨くことで涵養が可能となる。アイテムを活用するとは、この3つの要素を研磨する「振り返り」活動の充実に他ならない。

 何かしらの学習活動を踏まえ、子供たちが「振り返り」(メタ認知)を行う。アナログ環境下では、この「振り返り」を活かす学習活動が十分に組織できずに形骸化してしまっていることを、多くの教師が実感している。

 しかしICTを使うことでこの「振り返り」を活かして、真に「自己調整力」を涵養する学びを組織できることは、このオピニオン欄でも繰り返し述べてきた。ICTの一覧共有機能を使って、子供たちの「振り返り」を発表させる活動は多く見られるようになってきた。ただ教師がICTの使用と利用のフェーズで納得、安堵、または慢心していれば、学びはここで止まってしまう。

 もったいない。ここから本当の「個別最適な学び」がスタートするのだ。

 活動の「振り返り」をそのまま、学習支援システムが提供する共有機能で一覧させてもよいが、ここでいったん弊社開発のAIレコメンドコンテンツShuffle.(シャッフル・テン)を絡ませてみよう。

動画の視聴「感想」の一覧共有

 Shuffle.は、子供のたちの「振り返り」(自由記述)をAIが形態素解析して、キーワードを抽出、そして子供たちの興味・関心に沿うような動画を10本レコメンドする。この動画視聴の「感想」を一覧共有することで、その相互啓発が、深い学びに向かうアプローチとなったり、子供が自らの「自己調整力」を「自己評価」する刺激となったりする。これこそが協働的な学びの具体である。

 「深い学び」は、学習指導要領が例示する4つのアプローチである、①知識を相互に関連付けてより深く理解したり、②情報を精査して考えを形成したり、③問題を見いだして解決策を考えたり、④思いや考えを基に創造したり--することによってさらに深めることができる。

 視聴動画の感想を分析すれば、子供たちの記述(文の動詞)にこれら4つのアプローチの萌芽(ほうが)を読み取ることができる。

「自己調整力」を涵養する

 根本の疑問が、私にはある。

 ある基準を設けてそれとの比較(対比)において「自己調整力」を他者(教師)が評価すれば、そしてその結果を返すことによって、子供は素直に学ぶ動機を醸成するのだろうか。

 いや、子供たち一人一人の自己評価に対する教師(信頼できる他者)からの共感性こそが、学ぶ動機を醸成するのだと実感している。この積み重ねが子供たちの自己評価能力の向上とともに教師との信頼関係を構築していくのだとも実感している。

 これは私が学校現場で培ってきた実践知だ。

 中教審の報告書(「児童生徒の学習評価の在り方について 」)は、「学びに向かう力」の評価方法として次のように述べている。

 「ノートやレポート等における記述、授業中の発言、教師による行動観察や、児童生徒による自己評価や相互評価等の状況を教師が評価を行う際に考慮する材料の一つとして用いることなどが考えられる」

 Shuffle.のポートフォリオ機能は、レコメンド動画を視聴した「感想」などを貴重な自己評価情報として子供に掲示する。そしてその自己評価は、中教審の報告書が例示する2軸(「粘り強さ」と「自己調整力」)をスライダーで自己決定する仕組みとなっている。

 またShuffle.はこの2軸による自己評価結果をグラフ化するので、教師は子供の自己評価結果に対して共感性をもってさまざまな助言や示唆を行うことができる。その行為は個別のコーチングであり、メンタリングそのものである。

 さらにShuffle.は子供の「振り返り」、動画視聴の「感想」、自己調整力の「自己評価」を「学びのプロファイル」として打ち出すことができる。これは「学びに向かう力」の評価における重要な根拠の一つとなり、子供および保護者に対する説明責任を果たす貴重な資料ともなる。

 この一連の過程こそが、真に「自己調整力」を涵養する「個別最適な学び」モデルである。そしてこの過程は「子供たちのより良い成長に関わりたい」という願いをもつ教師にしかできない(決してAIが代替えできない)役割を果たすことによって、初めて成立するものだと考える。

いざ、Attack

 新年度の教育活動が始まる。

 ICTを活用した学びは、教師の役割を大きく変えることの自覚と覚悟が濃霧を払い、Mt.GIGAの頂はその姿をAttack隊の前にしかと現す。

 校長のリーダーシップのもと、怯(ひる)むことなく前人未到の頂にAttackしよう。

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