旭川市いじめ なぜ教委は適切に対応できないのか(藤川大祐)

千葉大学教育学部教授 藤川 大祐

事案の経緯

 本紙電子版4月18日付で報じられているように、北海道旭川市の中学生女子生徒が遺体となった案件で、調査委員会が中間報告でこの中学生に対するいじめ6項目を認定した。この案件について各種報道から事実関係を時系列でたどると次のようになる。

 2019年4月、被害生徒が中学校に入学。同年4~6月に、この生徒は、上級生から性的行為をしている様子をビデオ通話で送るよう要求され続けたり、目の前で性的な行為をするよう求められたりした。その間に、この生徒の母親はいじめを疑い学校に相談したが、学校はいじめとしては対応しなかった。

 そして、同年6月22日、上級生からからかわれたことをきっかけに、この生徒は「もう死にます」と言って川に入り、パニック状態でいるところを教員に保護され、その後、病院で受診し、入院した。

 母親は娘の携帯電話からわいせつ写真や動画を見つけ、それらが拡散されたことを確認し、学校に相談したが、この段階でも学校はいじめとは判断しなかった。北海道教委が旭川市教委に対していじめとしての対応をするよう指導したが、市教委がいじめとしての対応を学校に求めることはなかった。

 その後、この生徒は転校したが、不登校が続いており、21年2月13日、ネットで知り合った人に「きょう死のうと思う」と連絡して行方不明になり、3月になって公園で凍死体となっているところを発見された。

 なお、上級生らの行為は強制わいせつ罪、児童ポルノ製造罪、強要罪といった犯罪に該当する可能性があるが、警察によって1人については児童ポルノ製造罪に該当することが確認されたものの、この1人が当時14歳未満であったため、刑事罰には問われず触法少年としての措置がとられるにとどまった。警察の捜査についてはあまり報道が多く出ておらず、いじめでなくて犯罪として対処されるべきだろうという声も出ている。警察の捜査に関する検証が、もっとなされることを期待したい。

旭川市教委の重い責任

 この案件に対する旭川市教委の対応は、明らかにいじめ防止対策推進法に反している。被害生徒は死ぬことを口にして川に入ったのであるから、自殺未遂をするほどの苦痛を上級生の行為によって受けていたと考えられる。しかも母親からもいじめだとして相談がなされているのであるから、上級生の行為は同法第2条の「いじめ」の定義を満たすことは明白であり、同28条が定める重大事態のうち生命等に重大な被害が生じた疑いがあると認められる場合(1号重大事態)に該当することも確実である。さらには、北海道教委がいじめとして対応するよう指導もしているのである。

 公務員である教育委員会職員が法令に従って業務を遂行すべきことは、当然のことである。しかし、旭川市教委はこの当然の態度をとらず、法に反した対応をかたくなに取り続けた。被害生徒が川に入った時点でいじめ重大事態としての対応をとっていれば、生徒が死なずにすんだ可能性がある。この意味で、旭川市教委の責任は極めて重い。

 すでに関係者処分に関する報道も出始めている。旭川市教委は、なぜこのような法令違反の対応をかたくなに取り続けたのかについて徹底的に検証し、責任ある関係者に相応の処分をした上で、再発防止策を策定し実施すべきである。

被害者にも非があると考えられていなかったか

 本件に関するこれまでの報道で気になる点がある。被害生徒が中学校入学直後に、なぜ上級生たちと関わるようになり、呼び出しや性的行為の要求に応えるようになったのかが、判然としないのである。知り合ったきっかけはオンラインゲームのチャットだとされているが、短期間のうちに深刻な被害が生じるような関係になった経緯は報道を見ても分からない。

 もしかすると、学校の教員らは、上級生たちも被害生徒も、素行が悪いと見ていたのではないだろうか。呼び出しや性的行為を求めた上級生たちはもちろん、そうした求めに応じる被害生徒も、生活態度に問題があると見られていたとしても不思議ではない。いじめを認めない学校や教育委員会関係者の発言で「生徒間のトラブル」という言葉が使われることがある。本件も生活態度に問題がある生徒たちの間のトラブルと見られていたのではないか。

 もちろん、いじめかどうかと生徒間のトラブルかどうかは別問題であり、生徒間のトラブルで苦痛を感じている者がいればそれはいじめである。だが、被害生徒側にも問題があるような状況での「生徒間のトラブル」について、学校が被害者側に批判的になってしまい、いじめとしての対応がなされないことがある。被害者に非があるのであれば、被害者が苦痛を受けても自業自得だという心理が働くものと考えられる。

 仮に旭川の事案においても、関係者にこうした心理が働いたことが影響しているとしたら、再発防止策はこうした心理の克服を含むものでなければならない。被害者にも非がある事案をどう受け止めるかについて、関係者で徹底的に議論し、どうすればそうした被害者を心配していじめとしての対応を進めることができるのかを真摯(しんし)に考えることが求められる。

 他方で、市教委がいじめ防止対策推進法等に従わない状況が珍しくないことを踏まえれば、対応した法改正などの検討も必要だろう。教委が法令に反している場合の相談窓口を国に設け、国が都道府県教委を、都道府県教委が市町村教委を強く指導できるようにする改正が考えられるべきだ。

あなたへのお薦め

 
特集