残業の見えない化は問題だらけ:何のための勤務記録か(妹尾昌俊)

教育研究家、学校業務改善アドバイザー 妹尾 昌俊

 先日(4月27日)放送されたNHKのクローズアップ現代では、教員の過重労働が特集されていました。その中で、ある公立小学校の教頭が教育委員会に提出する在校等時間を改ざんしているという事実を報じていました。「実際は22時8分まで勤務していたんだけれども、そこまでいくとまずいので、このように17時8分というような状況で改ざん。こうせざるを得ない現状が現場にある」とは、この教頭の言葉です。

 ここまでひどい例はまれかもしれませんが、こうした状況では、働き方改革が進んだ、とは到底言えません。見掛け上の残業が減ったように見えているだけで、実際は「残業の見えない化」、「問題の見えない化」が進行しているのですから。

なぜ、残業の見えない化が起こるのか

 内田良教授(名古屋大学)が2021年11月に調査したところ、公立小学校教員の15.9%、公立中学校教員の17.2%が「この2年ほどの間に、書類上の勤務時間数を少なく書き換えるように、求められたことがある」と回答しています。また、熊本県教職員組合が21年に実施したアンケート調査でも、勤務時間(在校等時間)を小学校教員の約39%、中学校教員の約47%が「正確に記録していない」と回答しています。

 文科省は「万が一校長等が虚偽の記録を残させるようなことがあった場合には、求められている責任を果たしているとは言えない上、状況によっては信用失墜行為として懲戒処分等の対象ともなり得る」と教育委員会などに通知しています 。

 この通知を細かく知っているかどうかは分かりませんが、虚偽の記録が(なんとなくでも)よくないことは、多くの校長、教頭、教職員は知っていることでしょう。

 なのに、なぜこうしたことが起こるのでしょうか。

 問題があっても、ふたをしてその場を乗り切れればよい、とでも言うのでしょうか。

 さまざまな背景、事情はあると思います。業務量がすごく多い中、「残業を減らせ」とだけ言われてもつらい、というのは、多くの校長、教頭らの本音でしょう。また、忙しい現場、かつ教員不足まで生じているようなところで、「産業医と面談に行け」と言われても困る、といった事情もあるでしょう。

虚偽申告、過少申告は問題だらけ

 ですが、だからといって、「残業の見えない化」は百害あって一利なしです。以下では4点に整理します。

 第1に、勤務実態が見えなくなるため、教育委員会や校長の問題解決に向けた動きが鈍くなったり、施策を打たなくなったりするリスクが高まります。

 いまやどこの教育委員会でも、程度の差はあれ、あるいはまだまだ十分ではない点もあるとはいえ、学校の働き方改革には取り組む姿勢を見せています。ほとんどの都道府県などでは推進計画がつくられています。が、モニタリングしている勤務記録が過小で、見掛け上、学校が改善していると観察される場合、教育委員会や校長の多くは「少し前までは働き方改革とやかましく言われていたけど、もうだいぶ進んだな」、「自分たちの施策はそれなりに功を奏しているな」と安心してしまいます。

 その結果、働き方改革は骨抜きになるか、トーンダウンしてしまうでしょう。補助的なスタッフや部活動指導員など予算措置をしていたものも廃止・削減されるかもしれません。

 私は、教職員向け研修などで、タイムカード・ICカードなどは「ダイエットしたい人にとって体重計みたいなもの」とよく申し上げています。体重計にのるだけではダイエットにならない(運動や食事に気を付けたりすることが必要)のと同様に、勤務記録を付けるようになったからといって、ただちに負担軽減が進むわけではありません。

 ですが、虚偽申告、過少申告というのは、体重計が狂っているということですから、話になりません。

 第2に、教職員と教育委員会(あるいは私学であれば、教職員と学校法人)との間の信頼に溝ができます。

 加えて、実態が見えなくなった状態で、教育委員会などは多少安心してカラ元気なわけですから、教職員の多くは「あ~、やっぱり学校で働き方を見直したり、改善したりするなんて、無理なんだ」、「教職員数が増えないかぎり、なにやっても駄目だよね」と思って、職場では諦めモードが広がります。過少申告などの広がりは、現場の無力感につながりかねませんし、無力感が高いと虚偽申告も増えるという悪循環になってしまうでしょう。

なんのための記録か

 第3に、教職員の健康管理上、非常にまずい状態となります。なんのために勤務実態をモニタリングしているかと言うと、それは、文科省や教育委員会が求めているからというよりは、教職員の健康、もっと言えば、命を守るためです。先ほどの例え話の通り、体重計が狂っていたのでは、本人も状態や進ちょくを確認できなくなります。セルフケアがおろそかになります。

 しかも、万が一、過重労働のために倒れてしまった、仕事が続けられなくなったというとき、過少申告した記録がベースとなりますから、適切な補償や支援を受けられなくなる可能性が出てきます。「あなたは体を壊して気の毒だけれども、それは仕事のせいじゃなくて、もともとの持病のせいか、不運だったのでしょう」ということにされてしまいます。

 ですから、過重労働でなくなるのがもちろん一番ですが、万が一のときにあなたの家族や愛する人をさらに悲しませないためにも、記録は正確に付けた方がよいです。

 第4に、冒頭の例のような隠蔽(いんぺい)体質では、学生や社会からの学校への信頼を失墜させます。学校の過重労働は大きな問題ですが、それを隠そうとする職場で働きたいと思うでしょうか?
 
 今一度、なんのための勤務記録なのか、働き方改革はなんのためなのかという根本に立ち返る必要があると思います。ふりをするだけでは、誰もハッピーになりません。

あなたへのお薦め

 
特集