学長として私が果たしたこと(ウスビ・サコ)

京都精華大学教授 ウスビ・サコ

 この春学長任期を満了し退任した。アフリカ系出身者として初めて日本の大学のトップに就任して4年間、一研究者では経験できない数多くの場面と出会い、判断を下し、普段お会いできない各界の皆さんとも関わり合うことができ、得難い日々だった。これからの私の人生の糧となったことは間違いない。この場を借りて、私を支えてくれた学内外の多くの皆さんに感謝したい。

学生の定員割れに危機感

 この機会に学長の4年を振り返ってみたい。そもそも私が学長選に立候補したのは、デシジョンメーキング=決定権の問題意識からだった。私は大学で過ごすうちに幸いにして、いくつかの役職を経験させてもらった。教務主任時代が長かったのだが、そのうちに大学で大きな変化をもたらしていくためには、やはり学部長、学長となって決定権を持たなければならないということを痛感したのだった。

 当時、同じ学部の賛同者、仲間や若い教員たちと一緒にタスクフォースを作って、これからこの大学、学部をどのようにしていくか、自分たちで「勝手に」将来構想を練っていた。そして当時の学部長や理事会にどんどんそれを突き付けるプチリボルーションみたいなことをやっていた。

 本学の当時の最大問題は、10年近く学生の定員割れが続いているということだった。学長になったときには定員の6割近くにまで落ち込んでいたのだ。出生数が少ない今の日本で、大学の生き残りを懸けた競争は激しくなっている。このままでは大学の存続が危ぶまれた。受験生たちに選ばれる大学になるにはどうしたらいいのか。そのためには、やはり大学の魅力を上げて、いかに情報を発信できるかだと思っていた。

構造改革に腐心

 本学は、マンガ学部があるため、「漫画」のイメージがどうしても先行していた。私の先代学長は漫画家の竹宮惠子先生でもある。確かにそれで大学の知名度が上がったのは確かだ。だが、その反面、私たちが指導していた人文系学部の存在が埋もれがちだった。受験生にもあまり知られていなかった。しかも、数年前に人文系は世間的にあまり役立たない学問と思われていた風潮もあって、学部の将来に不安を抱えていたのも事実だった。

 人文系学部がいかに学内において重要な存在なのかを教職員らとともに議論し、学長になる前からマンガ学部とのバランスについて腐心していた。入試改革では、多くの選択肢を設けることで多様な人材に来てもらえるよう配慮した。同時に、私は学内の構造改革にも着手した。これは日本社会の縮図なのか、どうしても学部単位の縦割りの組織となりがちだ。自分のそばでせっかくさまざまな学問が展開されているのに、それを知らないというのはもったいない。学部同士の交流を活発にし、先代の学長が始めた共通教育改革をより前進して、学部横断型のプログラムを作るなどして学生たちに刺激を与えた。

ダイバーシティ

 私が常に意識していたのは、ダイバーシティだ。学内にさまざまな人を招き、常に変化を起こし、にぎやかにしたかった。私がかつてそうであったように、特に留学生の存在は必須だと思っていた。学長になったときに10%ぐらいしかいなかった留学生が、今では30%近くになった。せっかく本学を選んでくれたのに、コロナ禍でなかなか来日できなかった留学生たちは気の毒だった。このほか、女性や外国人の教員採用を積極的に行った。そういった雰囲気というのは徐々に学内での意識改革に通じていったのではないだろうか。きっと受験生たちの耳にも届いたであろう。相次ぐ改革で教職員の皆さんは驚くことも多かっただろうが、おかげで今では定員を回復することができた。

ウィズコロナ

 思い出深いのはやはり新型コロナウイルスとの闘いだった。学内の改革とともに任期後半の2年間は日々、この対策に追われた。当初は情報も少ない状況の中で、学びを維持しながら学生たちと教職員たちをどう守るかということに、トップとして次々と判断を下さなければならなかった。中でも、コロナが広く感染し始めた2020年後期に、早々と全授業の80%を対面授業に踏み切ったことは最大の決断だった。

 私には学校を閉じることで、学生とキャンパスとの関係を断ち切ってしまうことへの戸惑いがあった。本学は、授業などでの議論のほかに、芸術系学部での制作という大事な要素もある。いつ正常化するのか分からなくても、私はできるだけ早くキャンパスを取り戻したいとの思いがあった。そのためにはウィズコロナの教育現場を作っていくしかないと思ったのだ。あの非常時に、教職員からは中途半端な指示はほしくないと言われた。だから私が思い切って決めたことに対して、みんな一つになってついてきてくれた。迷いが生じてしまっていたら、きっとうまくいかなかったと思う。

 いま、私は一研究者に戻るとともに、全学の研究機構を統括する立場となった。4年間の学長経験をもとに、より学生たちに寄り添って研究成果の向上を目指すとともに、本学から引き続き情報発信していきたいと考えている。

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