具体化へ実効性ある議論を 自民党・いじめ撲滅提言(藤川大祐)

千葉大学教育学部教授 藤川 大祐

法施行後の問題点に向き合った内容

 本紙電子版5月13日付で報じられているように、自民党文部科学部会の「学校現場のいじめ撲滅プロジェクトチーム(PT)」は、校長権限によるいじめ加害者への新たな懲戒制度の創設を含む「学校現場におけるいじめ撲滅に関する提言(原案)」を了承した。この提言案は、5月中に末松信介文科相に提出される予定とのことだ。

 この提言案は、いじめ防止対策推進法施行後も残る問題に正面から対峙(たいじ)したものだと評価できる。特に、次の2つの問題に対峙していると言える。

 1 学校や教育委員会がいじめを認知しても適切に対処せず、被害が深刻化する事例が後を絶たない。

 2 加害者への出席停止措置がほとんど講じられず、加害者が登校しているのに被害者が登校できない状況が生じやすい。

 こうした問題については、私を含め、いじめ問題に関わる有志がずっと指摘してきたことであり、記者会見などで提言を公表している(以下の記事参照)。※子供の命守る「いじめ防止法」改正を 被害者調査踏まえ提言(本紙電子版2021年10月8日)※いじめ加害者 中学教員の45.8%「出席停止にすべき」と回答(同21年12月13日

「いじめの重大性の評価」「首長の権限」

 自民党PTの提言はよく考えられているものだが、今後具体化するにあたり検討が必要な点もある。

 まず、問題1の学校や教育委員会が適切に対処しない点について。自民党PTの提言では、警察や児童相談所との連携の強化や首長が関与する仕組みの検討が盛り込まれている。これらは、重大ないじめやその恐れがあるいじめについて、学校や教育委員会のみに情報をとどめないこと、そして学校や教育委員会が適切に対応しない場合に被害者側が首長部局の窓口に相談できるようにしているというものであり、問題1への実効性ある対応として期待できるものである。

 具体的に検討が必要な点として、次の2点を挙げたい。

 第1に、いじめの重大性の評価についてである。自民党PTの提言では加害者の行為が犯罪に相当するかを中心にいじめの重大性を評価している。確かに、暴行や強要などの犯罪に相当するいじめについて迅速に対処することは重要である。しかし、いじめ防止対策推進法が定める重大事態は、被害者の受けた被害の大きさをもとに判断されるものであり、冷やかしやからかいなど加害者の行為が犯罪に相当するとは言えない行為でも重大事態になりうる。こうした重大事態への対応が遅滞なくなされるための仕組みについても、検討が必要だ。

 第2に、首長の権限についてである。一般論として、教育委員会には独自の職務権限があり、首長がこれらの職務権限に踏み込んで教育委員会に対して指示命令することはできない。このことを踏まえ、首長が関与する仕組みをどのように実効性あるものとするかについては、工夫が必要だろう。自民党PTの提言では、首長部局への相談窓口の設置や学校による対応が困難な場合の調査の実施が挙げられている。大阪府寝屋川市が市長部局に「監察課」を置いていじめに関する調査・要請・勧告を行えるようにしていることなどを参考にし、教育委員会の職務権限を侵さずに適切ないじめ対応を可能にする仕組みをどのように作るか検討することが求められる。

加害者の「分離措置」を巡る3つの検討点

 次に、問題2の加害者の出席停止が機能していない点について、自民党PTの提言では校長による新たな懲戒処分として、学校の敷地に入らないことを命じることなどによって集団的な学習活動への参画を制限する「分離措置(仮称)」を設けることが示されている。いじめ防止対策推進法に示されている出席停止措置に比べれば機動的な対応が可能になるものと評価できる。

 この措置に関しては、具体的な検討が必要な点として次の3点を挙げたい。

 第1に、「分離措置(仮称)」実施中の加害者への教育や指導をどのように行うかである。学校への立ち入りを禁じるだけでは、必要な教育や指導を行うことが困難になる。むしろ、別室登校や教育センターなどの施設に通うことを義務付け、必要な教育や指導を行うことを原則とすべきではないか。

 第2に、「分離措置(仮称)」を校長がちゅうちょなく実施できるよう、この措置をとるための条件や手順をどのように規定するかである。例えば、①加害者によるいじめがあった事実が確認されている②被害者の苦痛が解消していない③加害者が同じ教室などにいることによって被害者の苦痛が増大すると考えられるなどの条件があるときには校長は「分離措置(仮称)」をとらねばならないこと――とし、上記①~③について加害者およびその保護者に説明する文書を交付することをもって即日「分離措置(仮称)」が実施されるという手順になるだろうか。その上で、加害者側がこの措置を不服とする場合の対応を定めることも必要である。

 第3に、加害者を教室から外す措置が一律に懲戒処分であってよいのかという点がある。懲戒処分であれば相応の調査が前提となり、加害者側は処分を避けようとして調査に非協力的になる恐れがある。懲戒処分としての「分離措置(仮称)」をとる前に、緊急避難的に校長の命令で加害が疑われる児童生徒に対し、懲戒処分とはしないながらも一時的に教室から退去させることを可能にすることも検討されるべきではないか。

 今回の自民党PTによる提言案は、大変重要なものである。具体化に向けた議論が遅滞なく進むことを期待している。

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