具体化に向けて実効性ある議論を こども家庭庁設置(藤川大祐)

千葉大学教育学部教授 藤川 大祐

 本紙電子版6月15日付で報じられているように、同日、こども家庭庁設置法とこども基本法が参院本会議で可決、成立し、来年4月にこども家庭庁が発足することが決まった。

 こうした一連の「こども」関連施策は、「こども」や子育て当事者の視点に立つこと、誰一人取り残さない支援、予防的な関わりの強化、エビデンスに基づく政策立案といったしっかりした基本理念に基づいて構築されている。内閣官房のサイトを見ても、こども家庭庁についての「こども向け資料」が掲載されており、「こども」の意見を尊重し、「こども」とのコミュニケーションを大切にして施策を進めていこうという姿勢が分かる。

混乱を招きそうな「こども」という用語

 まず、用語について確認しておきたい。

 こども家庭庁に関しても、こども基本法に関しても、「こども」については平仮名の表記が採用されている。しかし、2010年に施行された子ども・若者育成支援推進法では「子ども」の表記が使われており、その後、13年より文科省等は公用文書で「子供」の表記を使うこととし、内閣府でも「子供・若者育成支援推進大綱」等で「子供」の表記が使われている。

 表記が違うだけでなく、意味内容においても違いがありそうだ。内閣府の「子供・若者育成支援推進大綱」では乳幼児期からおおむね18歳が「子供」とされているが、こども家庭庁設置法やこども基本法では「心身の発達の過程にある者」が「こども」とされていて年齢についての言及はない。ということは、公用文書において「子供」と「こども」は異なる意味で用いられるということなのか。また、成人発達理論等によれば成人も知性や能力については生涯にわたって発達するものと捉えられるが、このように捉えれば誰でも「こども」になってしまうのか。

 このように、今回用いられた「こども」という用語は、混乱を招きそうな語である。

 用語についてさらに言えば、こども家庭庁は以前の案では「こども庁」という名称が用いられていたのが、「家庭」が入って「こども家庭庁」となった経緯がある。「家庭」が入った経緯については各所で報じられているのでここで掘り下げることは控えるが、児童虐待事案においては「こども」と利害が対立する「家庭」を名称に入れてしまうことによって、「こども」を中心とする考え方が伝わりにくくなるということは指摘しておきたい。日本大学の末冨芳教授が提案しているように、せめて略称を「こ家庁」でなく「こども庁」にしてほしいものである。

組織変革は、ゴールではなくスタート

 では、こども家庭庁が設置されると何が変わるのだろうか。大きく3つに分けられるようだ。

 第一に、これまで各府省庁に分かれていた政策について、こども家庭庁が「司令塔」となって政策を進められるようになる。子どもの貧困対策、子育て支援、児童虐待防止対策、放課後の子どもの居場所対策等、多くの課題がある。幼児教育・保育については、幼保一元化は見送られ、文科省とこども家庭庁の連携が挙げられている。

 第二に、新たな業務が行われるようになる。子どもの性的被害防止、子どもの死亡原因についての情報の収集・分析等が挙げられている。

 第三に、他の府省からこども家庭庁に業務が移管されるものがある。災害共済給付や障害児支援に関するもの等が挙げられている。いじめ防止対策については文科省との連携が挙げられている。

 こうして見ると、これまでのように内閣府が各省庁との橋渡し役となって個々の政策を進めてきたこれまでとの間に、目立った違いはあまりないように見える。期待された幼保一元化は見送られ、初等中等教育についてはほとんど変化なく今後も文科省が担当することとなる。いじめについてはこども家庭庁が一部担当するものの、基本的には文科省が今後も担当することから、学校のいじめ認知が遅かったり、要件を満たしていても教育委員会が重大事態であることを認めなかったりするような状況の改善につながるのか、不透明である。「こども」の声を大切にするとされてはいるものの、子どもの権利を守るためのオンブズマンのような制度の導入は見送られている。

 このように、こども家庭庁ができても、すぐに目に見える成果が出されるとは考えにくい。それでも、岸田文雄首相が約束したように関連予算が倍増となり、子どもたちの声が政策に反映されるようになれば、少しずつ成果が見えてくる可能性はある。こども基本法ができたことによって、子どもの権利に配慮がない状況が変わることも期待されるだろう。

 組織や制度を変えることは、決してゴールではなくスタートだ。新しい組織が核となって、新しい考え方で、効果的に施策が実施されるよう、こども家庭庁の今後に注目していきたい。

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