教員人気の低下(下)長く楽しく働くために(木村泰子)

大阪市立大空小学校初代校長 木村泰子
若手教員の病休や離職が増える理由

 教員採用倍率が低下している背景には、若手教員の病休や早期離職の増加により、教職に対するイメージが悪化しているという現状もあると考える。病休や離職の理由はさまざまだとはいえ、学校現場に必ずと言っていいほどいる、何十年も前の学校教育を引きずったままの「化石」のような、いわゆるベテラン教員とのあつれきで苦しんだというケースは多いだろう。

 大学などで新学習指導要領に沿った教育を学んだ若手教員が、探究型授業や問いを中心とした授業を展開し、子ども一人一人に寄り添った指導をしようとしても、発言力を持つベテラン教員に阻まれ、ギャップに苦しむことがあるのではないか。

 大空小学校では子どもが自由に職員室に出入りできるようにすることで、「職員室に行けば助けてくれる大人がいる」という安心感を抱かせることができたが、同じことを実践しようとしても、「職員室に子どもを勝手に入れるな。規則を守れ」とベテラン教員から阻止される、という話を聞くことがある。「決まっている規則が何より大事だ」とベテラン教員から指導され、自分が理想だと考える教育の在り方との乖離(かいり)に悩んで学校を離れてしまう若手教員もいるのではないか。

 こうした従前の教育にとらわれたままの学校では、ベテラン教員の圧力に加え、保護者が「これまで通りの規則を守るべきだ」「『教える授業』をしてほしい」などと強く訴えることで、意欲ある若手教員を病休や離職に追い込む状況が起こりうる。実際に、教員の学び合いの場として設立されたNPOに関わる中で、リーダーを務める若手教員の一人から「ベテラン教員らの圧力に耐えられない。もう限界だ」と打ち明けられ、結局その教員は離職してしまったということがあった。

 これほどもったいないことがあるだろうか。宝を捨てているのと同然だ。

 学校訪問した際に校長から相談された事例では、一部の保護者から「子どもへの指導が甘い」と繰り返し詰め寄られた新任教員がうつ病になり、医師の「離職以外に治る道はない」という判断に従い離職した。ところがその後、別の保護者から「子どもが安心して通えなくなった」「別の担任になったことで不登校になった」とのクレームが相次いだといい、校長は「私も辞めたい」とこぼしていた。

 このような事例では、子どもが大人に不信感を抱くようになるだろう。こうした負の連鎖は断ち切らなければならない。

今、学校に求められるルール

 若手教員の病休や離職を食い止めるには、まず「これまで通りの規則」を一から見直すべきだ。多様な価値観の中で生きる子どもに必要なのは、正解を教えることではない。それぞれが自分で考えて行動する力を養うことだ。

 例えば、かつては「廊下や階段では右側を歩く」というのが当たり前のルールだった。このルールが守れない子どもは「発達障害」など何らかのレッテルを貼られ、多くの子どもから隔離するようにされていた。

 考えを一転させて、「ぶつからないで移動しよう」と合意形成したらどうか。右側を歩けない子どもがいたら、周囲がぶつからないように気を付けるようになるのではないか。そうすれば、教員が「左側を歩いたら迷惑だ」などと叱らなくてもよくなり、その子は一人で自由に移動できる。隔離されず、他の子どもと同じ空間で過ごせるようになる。

 実際に大空小学校では、子どもたちはぶつからないで移動するにはどうしたらいいかを自分で考えて行動していた。誰もいない廊下で自由に走る子どももいた。「右側を歩く」というルールを守らせる指導を続けて、周りを見ずに歩く子どもを育てるだけでは、これからの社会に通用する力を育んでいるとは言えない。求められるのは主体的に行動できる力だ。

 このようなルールに限らず、今の学校には問い直しすべきことが山ほどある。時代に合わせ、必要に応じて変化することもまた、教員の仕事の一つだと言えよう。そしてそのための問い直しには、「ベテランか若手か」「上か下か」は関係ない。誰もが対等の立場で、互いの違いを尊重し合いながら、当事者として問題に向き合うことが求められる。

自分が幸せになるために教員を続ける

 教員人気が低下している昨今、私が声を大にして伝えたいのは、教員は楽しい仕事だということだ。生まれ変わっても教員になりたい。

 一方で、教員を続ける理由を「子どもたちの幸せのため」と捉えていたり、保護者の機嫌を損ねず行動しようとしていたりすると、「つらい」「しんどい」と感じるようになる。

 他者からの評価にとらわれる必要はない。「自分が幸せの源だ」という意識を強く持ち、自分が幸せになるために教員を続けるという感覚を持ち続けることが、教員として長く楽しく働く秘訣(ひけつ)だと考える。

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