スゴイ校長を期待するのは問題だらけ(妹尾昌俊)

教育研究家、学校業務改善アドバイザー 妹尾 昌俊

 ほんと学校は毎日が台風、嵐のように忙しい。加えてコロナ対応も続き、疲れがたまっていたことと思う。夏休みに入って、多少はマシになっただろうか。

 さて、そんなときだからこそ、少し立ち止まって考えたいことがある。「校長先生のあいさつはなぜ退屈なのか」…ではなかった(笑)。「校長の役割、資質能力として、どんなことが大切だろうか」についてだ。

 というのも、以下の文科省の文章に引っ掛かるものを感じたからだ。

 

 校長に求められる基本的な役割は、大別して、学校経営方針の提示、組織づくりおよび学校外とのコミュニケーションの3つに整理される。これらの基本的な役割を果たす上で、従前より求められている教育者としての資質や的確な判断力、決断力、交渉力、危機管理等のマネジメント能力に加え、これからの時代においては、特に、さまざまなデータや学校が置かれた内外環境に関する情報について収集・整理・分析し共有すること(アセスメント)や、学校内外の関係者の相互作用により学校の教育力を最大化していくこと(ファシリテーション)が求められる。

 出所)公立の小学校等の校長及び教員としての資質の向上に関する指標の策定に関する指針(改正案)より抜粋

意味のある文章なの?

 読者の皆さんはどう感じただろうか。「うんうん、まっとうなことを書いている」「確かにそうだな」と感じた方も多いかもしれない。すーっ、と読み飛ばす人も多いかもしれない。

 だが、私のような意地の悪い人間は、どうかなと思った。この文章の問題そのものというよりも、教育政策や校長の在り方を巡る問題が潜んでいるように思うのだ。3点に整理しよう。

 第1に、非常に曖昧な内容だし、当たり前のことを言っているだけかもしれない。例えば、「さまざまなデータや学校が置かれた内外環境に関する情報について収集・整理・分析し共有すること」はどの程度のことを求めるのかによるが、こうした下敷きがなにもない中で学校運営をする校長はほぼいないだろう。つまり、判断力、決断力、危機管理等のベースとなるのだから、文科省はここで、なにをわざわざ言いたいのか、よく分からない。「学校内外の関係者の相互作用により学校の教育力を最大化していくこと」も程度の差はあれ、学校の教育力の向上が校長の使命、役割の一つであることは、誰も否定しないだろう。

 論理的にもおかしい。「A、B、Cなどに加えて、D、Eが求められる」という文章なのに、DはA、B、Cの一部ではないかとか、Eは他よりも包括的な概念ではないかなど疑問で、ABCDEが並列な関係とは思えないのだ。

 つまり、書いても書かなくても大して変わらないことを、わざわざ官僚作文しているだけかもしれない(文科省の人から反論はあるかもしれないが、ぜひお寄せいただきたい)。なお、「校長のリーダーシップのもと」といった文章も、文科省や中教審の文書で頻出するが、同じ問題がある。

スーパーマンばかりではない

 第2に、「これからの時代には、〇〇力が求められる」というロジックでは、次々と校長に求められることが安易に増やされていく。しかも「〇〇力」の定義も曖昧で、かなり広範囲なことが含まれうる。教員等についても同じ問題があるのだが、教育政策は“ビルド&ビルド”ではないか。

 第3に、先ほどのアセスメントやファシリテーションについて、どのような内容をどのくらいの水準まで求めるのかにもよるが、難易度の高いものを求める場合、そんなになんでもできて「どんと来い」的な校長は、どれだけいるのか。スーパーマン、スーパーウーマンばかりを期待していて、大丈夫か。

 言い換えれば、教職員をやる気にさせるのがうまくて、悩みを抱える教職員にはじっくり話を聞いて的確な助言や支援を行い、児童生徒へのケアもできて、危機管理にも敏感で、ICTなどを使いながらさまざまなデータをある程度分析した上で経営方針などを作っており、保護者や地域の方との関係づくりもうまい、なおかつ、できれば、あいさつや講話も退屈しない。そんな校長はたくさんいるのか。

 一人にあらゆることを期待するのは無理がある。得意なことを発揮しやすい環境をつくって、苦手なところは補い合えるチームであることが望ましいのではないか。校長だけでなく、副校長・教頭、主幹教諭、学校事務職員、教育委員会、外部の専門家などと分担、協業していくことが大事だろう。

 文科省や中教審は、強い校長像を描きがちで、個人力任せでなんとかなるはずだ、という前提、根拠なき楽観論がどうも強いように思う。だが、現実にはそれではうまくいっていないことが多いし、多くの校長が悩んでいる。文科省、教育委員会に必要なのは、「〇〇力」などをどんどん増やしていくことよりも、校長らの悩みにもっと寄り添い、どういう環境と支援をしていけるといいのか知恵を出し、予算をかけることではないか。

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