急いで変えるべきは教員研修なのか?(藤川大祐)

千葉大学教育学部教授 藤川 大祐

実効性のある負担軽減策が先ではないか

 本紙電子版6月27日付で報じられているように、文科省は「公立の小学校等の校長及び教員としての資質の向上に関する指標の策定に関する指針」(以下、「指針」とする。)改正案と「研修履歴を活用した対話に基づく受講奨励に関するガイドライン」(以下、「ガイドライン」とする。)案を示し、それぞれについて7月29日までパブリックコメントを実施した。

 今回の指針改正とガイドライン制定は、教員免許更新制廃止とともに教員研修の制度改革を定めた教育公務員特例法および教育職員免許法改正(本年5月成立)を受けて検討されているものである。教員免許更新制は、当初言われたような不適格教員の排除につながるものでなく、いたずらに教員の時間的・経済的負担を増やす上に、教員不足にもつながるものとして不評であり、廃止に至ったことは政府や国会の英断だった。だが、教員免許更新制を廃止すると教員の質が低下するのではないかという議論があり、研修の記録を作成することや校長・教員に対して指導助言がなされるようにするといった研修制度の改革が定められた。

 ここで当然生じる疑問は、せっかく教員免許更新制を廃止して教員の負担を減らそうとしているのに、なぜ教員の負担を増やすような研修制度改革を抱き合わせにするのかということである。こうした疑問は国会でも出されたようで、衆議院も参議院も改正法案の附帯決議として、「本法の施行によって、教員の多忙化をもたらすことがないよう十分留意する」ことなどを求めている。だが、研修の記録や指導助言を求める法律が施行されれば、それだけ教員の負担は増える。法改正によって教員の多忙化をもたらさないようにするのであれば、実効性のある教員の負担軽減策を別途定めることが先ではないか。部活動の地域移行については議論がなされているものの、まだ教員の負担減は現実化したとは言えない。

わずか5年で大幅な書き換え

 教員の負担軽減策について特に進展がない中、文科省は指針改正案とガイドライン案を作成し、中教審の会議で審議が行われた。教員の多忙化をもたらさないように教員の負担を増やす具体策を検討しなければならないのだから、審議に参加した中教審委員も気の毒である。会議録を見れば、多くの委員が異口同音に懸念を表明しており、慌てて部会長がガイドライン案の末尾に前向きな内容を書き込むことを決めている状況だ。

 しかも、指針を見れば、校長や教員に求める資質について、大幅な書き換えがなされている。だが、この指針は、2017年の法改正に伴って定められるようになったものであり、前回の策定から5年ほどしか経過していない。このように短期間で指針が改正されなければならないとは考えにくく、かなり無理なことが行われているものと考えられる。

検討すべきは給特法改正や正規教員の確保

 教員の多忙や教員不足が問題となってきた中で、教員免許更新制の廃止は事態の改善を進める貴重な一歩となる可能性があった。だが、教員免許更新講習は、個々の教員にとってみれば、10年に1回のイベントにすぎなかった。日常の業務を改善するためには、まだ他にすべきことがある。特に、「残業し放題」をもたらす給特法の改正や、教員不足を抜本的に改善できるはずの正規教員の比率増加といった策が、真摯(しんし)に検討される必要がある。

 大分県で小学校教員の志願倍率が1.0倍となるなど、教員人気の低下は限界を超えつつある。国が急いで取り組むべきなのは、教員研修の改革ではなく、全力で教員の負担を軽減して教員の待遇を改善し、教員人気を回復して正規の教員を多く確保できるようにすることのはずである。

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