やまないいじめをどう防ぐか~対策推進法見直しを機に

やまないいじめを、どう防ぐか――。いじめ防止対策推進法が施行から3年が経過し、見直しの時期を迎えた。同法案作成に力を注ぎ、中心的役割を担ってきた馳浩前文科大臣に思いを聞いた。また横浜市ではいじめ解消に向け、全市立小学校に「児童支援専任教諭」を設置した。同市教委にねらいを、他校に先行して設置した同市立星川小学校に取り組みを聞いた。

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学校調査の原則情報開示も視野に 馳浩前文科相に聞く

「法律の改正に向けてじっくりと議論をしていく」と語る馳前文科相
「法律の改正に向けてじっくりと議論をしていく」と語る馳前文科相

いじめ防止対策推進法施行から3年が経った。文科省が今年10月に公表した平成27年度児童生徒の問題行動調査では、いじめの認知件数が過去最高を記録した。その一方で、いじめを苦に自殺する子供が後を絶たない。同推進法の見直しに向けた議論が本格化する中で、その成立に携わった馳浩前文科相に、問題点などを聞いた――。

27年度の問題行動調査では、いじめの認知件数が22万件と過去最高を記録した。これには、同法が施行され、全ての学校に設置が義務化されたいじめ対策組織が機能した影響があるのではないか。いじめの認知件数が増えたのは評価できる。教員だけでなく、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーの専門人材との連携が功を奏した結果でもあると思う。

今後は、第2段階として、いじめに向けた対策の充実を図る必要がある。

その布石として、文科省の有識者会議がいじめ防止対策推進法の施行状況に関す意見をまとめた。教職員間での情報共有の義務化や自殺予防、いじめ対応を最優先事項として位置付けるよう促すなどと提言している。これらは、法改正をしなくてもできる対策だ。

まずは、文科省がこうした取り組みを周知徹底していくのが先決だ。例えば、教員研修で同法の趣旨を徹底させるなど、まだたくさんある。

さらに、自殺などの重大事態については、アンケートなどの結果を被害児童生徒の保護者に開示するようにするべきだと思っている。学校が保護者とコミュニケーションを取り、しっかりと説明していかなければならない。

同法では、重大事態の対応について、いじめを受けた児童生徒や保護者に「必要な情報を適切に提供する」としている。だが、こうした情報共有は学校の裁量となっている。

青森県青森市立中学校2年生の葛西りまさん(当時13)が8月にいじめを訴える遺書を残して自殺した。遺族と学校の間で、情報がまったく共有されていなかった。むしろ、学校の隠ぺい体質が露見した。学校や教委でのこうした事実隠しが目立つのであれば、学校が得た情報を、原則情報開示としてはどうかと思っている。今後、超党派で法改正に向けて議論していく。11月17日には、勉強会を開いた。

また教員に向けては、子供たちの思春期は一瞬にして変わっていくのを見逃さないでほしい。そして、いじめに遭った子供たちがいたのなら、情報を多角的に収集し、適切に対応しなければならない。つまりは、教員が子供たちと、じっくりと向かい合わないといけない。子供の生命と安全を最優先する。それが全てだ。

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丁寧な問題把握と組織対応 横浜市の児童支援専任教諭

横浜市教委の蒲地課長(左)と宮﨑指導主事
横浜市教委の蒲地課長(左)と宮﨑指導主事

児童の問題行動を早期に発見し、組織的で細やかな指導を展開――。横浜市教委では、全市立小学校341校に「児童支援専任教諭」を配置。同教諭の働き掛けで学校全体や保護者、地域との連携体制を構築し、いじめや不登校などの確実な問題把握と有効な組織対応を実現している。学区ごとの小中連携の中で、同教諭が中学校の生徒指導専任教諭と交流も深める。注意を要する児童生徒への指導点や配慮を共有し、円滑な小中接続や指導改善にもつなげている。

児童支援専任教諭は、現在、全市立小学校に1人ずつ置かれ、市全体で341人が活躍している。校内のいじめや不登校など児童の問題行動の把握と対策、発達障害児への対応を中核的に担う。役割に専念できるよう学級担任は持たず、授業の持ち時間も限定。そのため、各学校で高い指導力を発揮し、信頼されている教員が任命される。地域との広い関係づくりも求められる。

全担任教員や地域のスクールカウンセラーなど学校内外のさまざまな関係者との連携窓口役にもなる。児童や保護者などの困り感を的確に把握し、問題解決への組織的対応の中核となる。自ら解決に動くよりも、関係者の仲立ちとなり、コーディネーターとして尽力するのが特徴。

こうした専任教諭の配置は、平成18年、同市の小学校で児童の問題行動やいじめなどが拡大し、効果的な対策を模索する中で推進された。小学校段階で、児童の発達に応じた確かな生徒指導を展開し、早期の問題発見と組織的な指導を行えるようになるのを目指した。配置は、22年度から段階的に始まった。26年度には、全市立小学校での配置が完了した。

朝は全児童の登校を校門前で見守る。あいさつや声かけを通して、児童の細かな変調も把握する。給食時の教室訪問などでも、児童の様子を丁寧に見つめる。担任教員と学級状況について意見交換しながら、クラス経営の改善アドバイスなどをおくる。毎週定期的に、校区の中学校生徒指導専任教諭や地域の民生・児童委員などと情報交流する研修会に参加。中学校や地域とも連携を深め、幅広く継続的な子供の問題発見と支援を展開していく。

これまでの取り組みで、同市立小学校の児童1千人あたりのいじめ認知件数が、同教諭配置前の21年度には2.6件、26年度には9.7件と、3.7倍に増大。いじめ認知の感度が上がったのを物語る数値だった。

同市教委指導部人権教育・児童生徒課の蒲地啓子課長は、「児童支援専任教諭の活躍と幅広い組織的な目が広がる中で、児童の問題行動の軽重にかかわらず、『詳細な問題認知と発生状況の把握』が進んだ」と、専任教諭配置の意義を指摘する。

詳細な問題把握によって効果的な対応策も生まれている。同市立小学校のいじめの年度内改善率では、同21年度88.9%から同26年度には99.8%と10.9ポイント向上。不登校児童支援の改善率では、同22年度59.7%から同26年度67.2%と改善行動に結び付いている。

同課長は、「専任教諭の配置で、各学校で小学校段階で行う適切な生徒指導の意識と指導力、組織対応力が育まれた」と語る。「市が作成した子供の社会的スキル向上プログラムとアセスメントなどを同教諭が有効に生かし、問題行動の未然防止対策も深化させていきたい」とも。

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児童支援専任教諭配置校の実践 全校で組織対応を志向

新井校長(左)と遠藤児童支援専任教諭
新井校長(左)と遠藤児童支援専任教諭

横浜市立星川小学校(新井篤志校長、児童数362人) は、市内小学校では早期に児童支援専任教諭を配置。同専任教諭の活躍によって、全校で子供たちの様子をよく見取り、問題行動への組織的情報共有や対応体制を築いている。今春から児童支援専任となった同校の遠藤健一郎教諭は、全教員が何でも相談して話せる雰囲気づくりのために、「全授業を見て回り、良い点を褒め、指導に対する基本的な自信を持てるようにしている」と話す。「トラブルはチャンス」と、全教員が児童のあらゆる問題を持ち寄り、対処していく場づくりに尽力している。

■児童の登下校を見守り変化を察知

同校では、平成23年度から同専任教諭を配置。3代目の専任教諭となる遠藤教諭は、今年で教職13年目。新井校長は、同教諭の「子供を見取る力」「確かな授業力」を高く評価。校内と学外の多様な関係者を結んだ教育の要になってもらうのを期待して任命した。

専任教諭は学級担任を持たず、全学年とクラスの児童を見守る役割を果たす。主に、▽教科領域の授業視察と支援▽特別活動や給食での見守りと関わり▽保護者など学外関係者との窓口と協働――に携わる。あらゆる場面で問題発見や適切なアドバイス、支援のつなぎ役などを担う。

朝は校門に立ち、児童の登校を迎え、あいさつをおくる。全学年全学級の授業を気軽に視察しながら、児童の学習姿勢や様子を観察する。給食や昼休みには、さまざまな学級で担任や児童と一緒に給食を食べたり、交流したりしながら、子供や教員の戸惑いや変化を的確に察知し、相談や悩みなどに乗る。

保護者やPTA、警察、スクールカウンセラーなど、多様な学外関係者との窓口機能を果たし、子供の教育に関わる多方面の視点や気づき、要望などを受け止め、学校との協働や組織的で効果的な対処を実現させる。中学校教員との連携も行う。小・中学校を結んだ子供の成長を考慮し、両校種の指導改善策も検討する。

多方面とのコーディネート力が求められる中で、専任教諭は多くの専門研修を受講する。相手の思いや立場を受け止める傾聴力、多様な協働力などを磨く研鑽も積む。

■何でも話し合える関係から全教員が高め合う

同教諭は「児童が安心して学び続けるためには、各学級担任が笑顔と落ち着きを持って児童を迎えられる状況が大事」と強調する。

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