教員の養成・採用・研修 制度改革でどう変わる?

教員の養成・採用・研修の一体的な制度改革を実行するための改正教特法などの関連3法が、11月28日に公布された。慶應義塾大学教職課程センターの佐久間亜紀教授は「日本の教員養成の大きな波。この制度改革については、教員養成関係者の間でも意見が割れている」と話す。12月4日には日本教師教育学会が早稲田大学で、公開シンポジウム「中教審答申で教師教育はどう変わるか?」(同学会、早稲田大学教育・総合科学学術院共催)を開く。同教授に、同制度改革で何がどう変わるのか、聞いた。


佐久間慶應義塾大学教授
佐久間慶應義塾大学教授

――同制度改革をどう位置づけるか。

日本の教員養成の歴史における、3度目の大きな波だと捉えている。日本の教員養成は明治5(1872)年に始まり、明治時代に基本的な制度ができた。これが最初の波。そして第2次大戦後に、新憲法下で教育基本法に基づいた教員養成のシステムが作られた。これが2回目の波だ。今回は3回目の波で、2回目の時に作られた大きな柱が初めて改革される。

まず、教員養成の制度が大きく変わる。今まで養成は大学が、研修は各自治体が、という役割分担で、両方を国がある程度、指導管轄して、均衡の関係が保たれてきた。しかし、このたびの制度改革では、国が養成・採用・研修とも大きな権限を握る。

――メリットとデメリットは。

メリットは、国が一挙に権利を握るので、改革がトップダウンで早く進む可能性がある。デメリットは、「教員はこうでなくてはいけない」というような、ある方向に進んでいった場合、歯止めをかけられる制度が何もない。この制度改革をプラスと見るかマイナスと見るかは、立場によって変わると思う。教員養成関係者の間でも意見が割れている。

――具体的には、どう意見が割れているのか。

例えば、教育職員免許法の構造が変わる点について。これまでは教科に関する科目と教職に関する科目の2本柱だった。それが、新しい教免法では一本化される。今までは教科に関して大学レベルの学問を勉強する部分と、その上で教職に就くために専門的に必要な知識と技術を学ぶ2本柱だった。だが改正では、この区分が無くなってまぜこぜになり、「教科および教科の指導法に関する科目」という新しい括りとして一本化された。総単位数は変わっていないが、何を勉強するかの総枠が変わった。

これを変えた理由は、今まで教員になりたい学生から、教科に関する科目が「つまらない」「もっと教育と関係させた内容にしてほしい」と、評判が悪かったからだ。数学教員志望者に数式を黒板にずっと書き続けさせるなど、「意味が分からない」と評判が悪かった。「中学生に、数学をどう教えていいかを教えてほしい」というニーズが大きくあった。そのリクエストに応えて法令化された形だ。今まで教科に関する科目を担う大学教員が、自分が教員養成の一端を担っているとの意識を十分に持っていなかったり、学生の興味関心に十分な配慮をしてこなかったりしたのは、確かに問題だった。

従って、この改革を評価する見方としては、「教科に関する科目」という柱が撤廃されることによって、教員養成を担う大学教員が、もっと教育現場での実際の授業を意識した科目内容を創り出していくきっかけになるだろうという期待がある。教員免許を取得するための科目内容の構造が変わり、教職の勉強が実践的で即戦力になるという期待だ。

――批判したり心配したりしている関係者はいるのか。

たくさんいる。まず、誰が教えられるのか、だ。学校現場の授業がどう行われているかとか、学習指導要領の内容を熟知している数学の専門家・研究者がどれだけいるのかが問題になる。

――担当できる人材はいないのか。

大学教員は各学問分野の専門家・研究者として、その分野や領域での専門的な知見を持っている。しかし、教育現場は知らない。数学の専門家が新しい科目内容を創ろうと努力してくれればよいが、この科目を実際に担当するようになるのは、元校長や現職教員など、学問の専門家というよりは、学校現場の人になってしまう可能性が高いのではないか。

だから、関連する2つ目の批判として、この改革で結局、教員免許の学問的な水準を保証する基準が無くなってしまうという問題がある。高等教育の水準に即した教職課程を保証する枠組みが無くなる。また文科省がこれに絡めて、教員養成版のコアカリキュラムを作るとしているのを合わせて考えれば、最悪の場合は、政府の方針に則した内容しか大学で勉強できなくなる可能性がある。

例えば、社会科教員養成課程では、領土問題とか従軍慰安婦問題など、事実認識や解釈の分かれる問題については、多様な立場の見解が学べなくなってしまう懸念がある。

――今後の課題は。

課題は、「注視してください」としか言いようがない。まずは、新法に基づいて文科省が省令として出す細かな規則が、具体的にどのようなものになるか。良い方向に行けばいいが、悪い方向に行かないように気をつけなければいけない。

――採用と研修の改革内容については。

採用については、今後は教育委員会の労力を軽減するために、採用試験の共通問題を国が作ることになるという。国がどのような問題を出題するか、今後、社会全体で注目していく必要がある。例えば、「竹島は日本の領土か」「卒業式で国歌を斉唱しなければならないか」など、立場や価値観によって回答が変わるような問題が出題されれば、特定の考え方の学生しか採用されなくなってしまう危険がある。そして研修については、十年経験者研修と教員免許更新講習の重複を軽減するなど、現場のニーズや要望を踏まえた改革も含まれてはいる。だが、最も大きいのは、独立行政法人教員研修センターが一括して全国の教員研修を見ていくとしている点。地方自治体ならば現場との距離が近く、地域の課題や抱えている教育状況に基づいて研修メニューを出せていたが、それでさえ現場のニーズを踏まえた有効な研修作りは大変だった。

現場からさらに距離の遠くなる教員センターが、教員一人ひとりのニーズにあった研修が作れるのかが問われる。

――12月4日の公開シンポジウムの概要を。

早稲田大学の小野記念講堂で、午後0時半に開場し、午後1時から午後5時まで開催する。一般公開し、入場無料で、申し込みも不要。シンポジストは松木健一福井大学教授、坂井俊樹東京学芸大学教授、油布佐和子早稲田大学教授、浜田博文筑波大学教授、コーディネーターは前田一男立教大学教授。司会は新井保幸淑徳大学教授と私が務める。この改革の意義や課題はまだ十分に議論されておらず、1人でも多くの方と議論を深める機会にしたい。ぜひ参加していただきたい。

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