分析 国際学習到達度調査(PISA)2015

OECDが12月6日に公表した、2015年実施の国際学習到達度調査(PISA2015)の結果、日本は、科学的リテラシーと数学的リテラシーは好成績を維持した一方で、読解力は前回調査(PISA2012)よりも低かった。新井紀子国立情報学研究所教授は「近年の基礎基本をしっかりと身に付けさせる教育が実を結んでいる」と評価しつつも、「読解力の課題は社会を挙げて認識し、取り組むべき」と指摘する。同教授に結果についての見解をまとめてもらった。


新井国立情報学研究所教授
新井国立情報学研究所教授
【全体】

▽TIMSSで過去最高の成績、PISAでも科学的・数学的リテラシーで高得点および高順位を達成したことから、近年の「基礎基本」をしっかりと身に付けさせる教育が実を結んでいると感じる。
▽一方で、読解力について、(科学的リテラシー、数学的リテラシーに比べ)相対的に低い成績になっているのが気になる。

【CBT導入の影響について】

CBT導入の影響については、次の2点がいえる。

▽科学的リテラシー・数学的リテラシーも同様の質問形式でCBTを導入しているが成績は上がっている。このことから「一般的に生徒がコンピュータに慣れていなかったから」とは言い難い。特に科学的リテラシーの問題で答えを「ドラッグ&ドロップ」しなければならない問題の正答率が9割であったことから、コンピュータの操作そのものについては、特に問題はなかったと考える。

▽読解力の問題において、過去に出題された問題で、今回有意に成績が落ちている問題があり、それについて分析すると、本文や資料が複数ページにわたっており、紙に比べて一覧性が極めて低い問題がある。これはPISAの問題の設計ミスと思われる。また紙に比べてコンピュータの画面での一覧性の低さが誤読を引き起こす可能性を示唆する興味深い例である。

【読解力についての分析】

▽読解力については前回より成績が「有意に落ちた」といえるが、過去数回のPISAの読解力調査の結果などから考えると、日本の読解力のレベルはおおよそ、OECD中8位程度と見るのが自然な解釈ではないか。つまり、今回の成績が「実力」ということではないか。

▽アメリカやフランス、カナダに比べて、日本は移民が少なく、日本語を母語として育っている15歳の割合が圧倒的に高い。そのことから考えると、読解力で8位は楽観できる順位からは程遠い。

▽TIMSSの問題を詳細に検討すると、たとえば「円の面積の3/8が塗られた図を選ぶ」問題の正答率が、方程式を解くような難しい問題に比べて低いことが気になる。これは、分数の意味はわからないし、イメージもわかないが、分数の計算や文字のある方程式はドリル的反復練習を経たことにより「できている」ということを示唆する。これでは、意味はわからないが解けるAI(人工知能)と変わりない(というより、劣る)。

▽本来、人間には、意味がわかって解く、意味がわかって読む、というAIにはできない力を伸ばしてほしい。

▽PISAの調査が始まってから、指導要領はゆとり、脱ゆとり、朝読書など様々な工夫を重ねてきた。それは、直接的には読解力に影響を及ぼしていないとデータ上は見ることができるのではないか。

▽一方、PISA調査が始まって以降、変化していないことで読解力に関わる問題として、国語という教科の位置づけが挙げられる。日本の中高の国語では、現代および古典の文学作品の鑑賞を読解の中心に据えている。しかし、PISAの読解力問題からわかるように国際的には、国語で読解の対象とすべきドキュメントは文学作品、という認識はない。では、PISAが読解力で対象としているようなドキュメントの正確な読解をどこの科目で扱っているか、というと、現在は存在していない。

▽次期指導要領では、「論理国語」という科目の導入が検討されている。これは評価したい。ただし、必修ではなく選択科目であり、どれだけの学校がこの科目を設定するか。

▽現在、検討されているセンター試験の後継となるテストでは、PISAが扱うようなドキュメントを用いて、記述式のテストを実施することが検討されていると聞いている。このような動きがよい刺激になり、科目「国語」を、より幅広く「日本語で書かれた多様なドキュメント(図表やグラフを含む)」を正確に読解し、吟味し、評価した上で、自らの意見・判断を記述できる生徒を中等教育で育成する、ということに向かうことを期待する。

【環境要因】

海外の読解力に関する研究結果から、読解力は、語彙とワーキングメモリーの量と相関することが広くしられている。ワーキングメモリーは、努力で増やせるものではあまりないため、語彙の量が重要なパラメータとなる。

子供の語彙量は、大人同士の会話や大人が日常的に接するメディアからピックアップする場合が圧倒的に多い。そこで、子供の語彙を増やすには、①大人同士の会話に家庭や地域で十分に接しているか②家庭に大人が読むような媒体(新聞、書籍)が、子供が触れられるようなところにあるか――で大きく左右される。

文科省の調査によれば、新聞を購読する家庭が年々減少している。大人が読む文字の多くが、大人がプライベートに有する電子端末の中で閉じる傾向が強まっている。また長時間労働が改善されない中で、「ワンオペ育児」という言葉に代表されるように、母子がマンションなどの一室で閉じこもりがちな育児を行っているような環境では、子供の語彙環境が細っているのではないかと危惧される。

学習指導要領の改訂は10年に一度だが、家庭や社会の環境変化はそれよりも圧倒的に早いスピードで起こっており、読解力の課題は社会を挙げて認識し、取り組むべきことだと感じる。