「原発いじめ」を問う 神田外語大学客員教授 嶋崎政男

「福島へ帰れ」「放射能がうつるから来ないで」「お前らのせいで原発が爆発したんだ」――。福島県から避難している児童生徒へのいじめが、平成28年度には129件あった。その実態が、文科省のフォローアップ調査で明らかになった。「原発いじめ」はなぜ起きるのか。どうすれば防げるのか。問題点と防止策を、嶋崎政男神田外語大学客員教授が考察した。


 

再発防止目指す危機管理を

◇「原発避難いじめ」の実態◇

文科省通知「東日本大震災により被災した児童生徒を受け入れる学校の対応について」(平成28年12月)を受けて実施された、福島県から避難している児童生徒へのいじめの実態調査結果が発表された。

28年度の認知件数は129件。千人当たりの認知件数10.9件は、27年度のいじめ全般の全国16.5件を下回る。大震災または原子力発電所事故に起因・関連するいじめ4件は、「冷やかし・からかい」の事案であった。

件数の多寡や事案の軽重(当事者からすればすべて「重」であるが)が問題なのではない。あらゆるいじめが許されないのは自明の理であるが、艱難辛苦の真っただ中に暮らす児童生徒に対するいじめには、言葉にできない悲憤を感じる。

◇不十分なナレッジマネジメント◇

いじめ防止対策推進法の見直しを受けて改定された国の「いじめの防止等のための基本的な方針」(平成25年10月11日文科大臣決定・平成29年3月14日最終改定)の「別添2 学校における『いじめの防止』『早期発見』『いじめに対する措置』のポイント」には、被災した児童生徒に対し、「心のケアを適切に行い、細心の注意を払いながら、被災児童生徒に対するいじめの未然防止・早期発見に取り組む」との文言が加わった。

ここで明示された「細心の注意」も、先の通知に示された「格別の配慮」も、改めて注意喚起するまでもなく、学校として当然の留意事項である。本事案の問題点の第一に挙げられるのはナレッジマネジメントの不十分さである。

ナレッジマネジメントは、リスク(未然防止)、クライシス(危機対応)に続く、再発防止を目指す危機管理の一つである。他校で起こった出来事から、その原因・対処法・配慮事項等を学び、自校での同様事件・事故の防止に努めなければならない。

◇問われる「大人の責任」◇

前述した実態調査では、平成27年度以前のいじめ被害9件を確認しているが、大部分が「放射能がうつるから来ないで」「放射能がつくから近づくな」等の言葉の暴力であった。「バイ菌」扱いのいじめは、古典的いじめの典型だ。

本事案の第二の問題点は、「大人の責任」である。大人社会でも(時には政治の世界でも)、被災地や避難した人々への「バイ菌」同様の差別的発言が報じられた。

「教職員の不適切な認識や言動が、児童生徒を傷つけたり、他の児童生徒によるいじめを助長したりする」事態には、繰り返し警鐘が鳴らされている。にもかかわらず、本事案に関わっても、こうした事例が報告されている。

まだある。家庭内で「賠償金がもらえてうらやましい」「〇〇は放射線が心配」など、子供に偏見・誤解を与える会話をしなかったか。テレビ番組などで「いじり」の行き過ぎはなかったか。芸人がお客の笑いをとる。子供が友人の笑いをとる。かたや「芸」でかたや「罪」と、子供に理解できるであろうか。

◇開発的・予防的取り組みの一層の充実を◇

同法第15条には、いじめ防止に資する力として、「豊かな情操」「道徳心」「対人交流の能力の素地」の育成が明記され、国の「いじめの防止等のための基本方針」(別添2)でも詳細に記述されている。これらは「いじめに向かわない態度・能力」を育む開発的機能を重視したもので、いじめ防止の基礎・基本である。

本事案は道徳教育・人権教育の充実度が問われる問題である。改定された「基本方針」には、特別活動の推進が、「別添2」にはいじめの法律上の扱いの学習が加えられた。さらなる開発的取り組みの充実が期待される。

「原発避難いじめ」調査発表の日、文科相から児童生徒に向けたメッセージが出された。「ふるさとを離れてなれない環境の中で生活を送る友達のことを理解し、よりそい、一緒に支え合いながら学校生活を送ってほしい」。このメッセージが児童生徒一人ひとりの心に届くよう、開発的・予防的な取り組みの一層の充実を願う。