教員は学習随伴者 ドイツの先端教育事例(下)

個別の学習プランに従い学習アトリエで静かに集中して学ぶ生徒
個別の学習プランに従い学習アトリエで静かに集中して学ぶ生徒

◇GMSの誕生と進展◇

南西ドイツのバーデン=ヴュルテンベルク州では、中等教育段階(5学年から)にGMS(ゲマインシャフトシューレ=社会的な学校)が急増している。2016/17年現在、304校を数える。初等学校を除く学校数が約1600校であるので、GMSは無視できない規模である。

この学校種は、2011年の同州での歴史的な政権交代によって実現したものである。そこでは学校制度を通じた生徒の社会的統合とその分化という、教育学の基本テーマに関わる試みがなされている。

すなわち、学年が上がるにつれて、生徒の資質や個性を伸ばすことと、彼ら、彼女らを市民や国民として「一人前」に社会化することとの葛藤が生まれる。前者を強調すると学校間・学校内で生徒を分ける方向をとり(「個に応じた指導」)、後者を強めれば生徒の多様性にもかかわらず、また多様だからこそ共同や協調を求める(「仲間づくり」)からだ。

この構図の中で、今の政権は「多様なことは豊か」との理解のもと、「多様であってこそ能力をより高める(”Vielfalt macht schlauer”)」と考え、それを実現する場にGMSを位置づけている。

そこでは、連帯、異質性、達成、責任、生涯学習、効果、参加等が基本理念であり、画一性の排除、多様性と社会移動の促進、そして社会的階層の再生産の遮断を目指すのである。

◇GMSの1日◇

ここでは、筆者が3年来訪問を続けている、オーストリアとの国境に近いGMSヴァンゲン・イム・アルゴイ(GMS Wangen im Allgau(J・リンドナー校長(Hr. J.Lindner))を紹介したい。

朝7時半過ぎ、生徒が登校する。GMSに限らず、ドイツの学校のスタートは早い。1時間目が8時前から始まるからだ。この学校には従来の教室とは異なる「学習アトリエ」があり、1つの大きな部屋に1学年70人余の生徒分の机と椅子、さらにロッカーが傍に置かれ、個人スペースとして利用できる。

週ごとに渡される個々の学習プランに従い、生徒は活動を開始するが、ここでは静寂を保つことが強く求められ、教員から説明を受けたい、グループ活動をしたい等の場合は、部屋を出なければならない。このため、生徒は壁のボードに名札を貼り、自分の行き先を示すのだ。

別の部屋や廊下、階段下のホールなどにも机と椅子が置かれ、自立的に行動できると認められた生徒は、屋外にも出られる。トイレに行くのも自由である。

週時間の半分近くはドイツ語・英語・数学に充てられ、基本的に個別に学習を進めていく。もっとも、「入力(インプット)」の時間は一斉教授的だが、その場合もせいぜい十数人の生徒が、例えば30分と短めの時間を過ごし、残りは個人や2、3人で好きな場所に陣取る。教師の説明が長々と続くことはない。

この3教科では、生徒が獲得すべき内容とその到達度合いの二軸が明示され、自分のペースで目標に到達するように求められる。教科書を読む。プリントに臨む。PCでテキストを打つ。アプリで課題を解く。クラスメート相手に発表の練習をする。ペアで語彙の意味を確認する。と様子はさまざまだ。

目標は、学年が上がるほどに「基礎」「標準」「発展」と3種類に分かれていき、各々が基幹学校、実科学校、ギムナジウムと従来からの中等学校の修了水準に対応する。生徒の学習チャンスを保持するべく、あらかじめ修了段階を設定しないGMSでは、コーチングと呼ばれる2週に1度の教員との面談などを通じて、生徒の進路を次第に決めていく。ギムナジウムに進むのならば6年生でフランス語を始めるというように。

また学校生活を通じて生徒の個性を伸ばし社会的能力を高めるために、週3日以上は午後も学校が開く「終日学校」であることがGMS設置上の要件である。スクールソーシャルワーカー、音楽学校、スポーツ教室等の学校外関係団体と連携して、主に午後のプログラムが提供される。このため宿題は課されない。

◇教員の役割が変わる◇

教員は「学習随伴者(レルンベグライター)」(Lernbegleiter)と称される。教員は教授者ではなく、生徒の学習過程に寄り添い、彼ら、彼女らを観察し、目標に向けて課題を提供し、コーチングとテストを通じて支援する。体系的で個に応じた単元とその内容・方法を開発し、更新すること、そして生徒を適切に評価し、ガイドすることは教員の重要な職務である。

このため職務の多くは複数で担われる。生徒の時間割は多様で活動場所も特定できないので、多くの教員が各生徒を知る必要があり、また観察と評価には複数の目が求められる。コーチングも直接の担当とは別の教員があたる。いわゆる担任が原因で学習が進まない場合を想定してである。

GMSはこうした教員の役割変容も導いている。これから9学年それ以上へと生徒が進む中で、GMSの理念はどんな結果をもたらすだろうか。