【シリーズ 先を生きる】一緒に学校を作らないか?(前編)

一緒に学校を作らないか――。2020年4月、長野県軽井沢町で新たな学校が産声を上げる。「軽井沢風越(かざこし)学園」は、「同じから違うへ、分けるから混ぜるへ」をコンセプトに、3歳から15歳までが一つに学ぶ学校を目指す。

開校に向け、全国から開校スタッフ志望者が集まり、着々と準備が整いつつある。同学園準備財団の理事長を務める本城慎之介氏は、三木谷浩史氏と共に楽天株式会社を創業し、取締役副社長を務めたのち、30歳で退任。05年に当時最年少の民間出身校長として、横浜市立東山田中学校に赴任。2年間、職員室で同僚と机を並べた。

本城氏のモットーは「既成事実が世の中を変える」。前半と後半の2回にわたり、同氏のビジョンに迫る。


既成事実が世の中を変える
■学ぶことが多かった校長時代
本城慎之介氏
本城慎之介氏
――楽天副社長を退任して、当時最年少の民間出身校長として、横浜市立東山田中学校に赴任しました。在任の2年間はいかがでしたか?

とても学ぶことが多い2年間でした。何より、たくさんの人たちがサポートしてくれました。私は時代の変化に合った公立学校を目指したいと思っていました。リーダーである校長の仕事は、スタッフがやりがいを持って活躍できる環境づくりです。

そのため、私は校長室に閉じこもるのではなく職員室で机を並べていました。そうしないと、相談や共有をしにくい職場になってしまうと思ったからです。

――校長室にいない校長先生は珍しいですね。子供たちや教職員はどんな様子でしたか?

現場に立って改めて感じたのは、子供たちはすごく学びたがっているということです。どんなに勉強が苦手でも、学びたいという欲求があることに気付かされました。

そして教職員は「本当はこれをやりたい」「こうしてあげたい」という想いに溢れていました。色々な制約条件がある中で、なかなかできないものがあります。そこをサポートする校長でありたいと思いました。

なので、やりたいことがなかなかできない人には、「小さくてもいいから始めよう」「未完成でもいいから、既成事実を作っていこう」と言っていました。

学ぶことが多かった2年間だったと思います。みんなで学校を作った、という実感を持てました。コミュニティスクールで、地域の人たちがどんどん関わってくれるようにもなりました。

■一緒に学校を作りませんか?
――そして、軽井沢風越学園ですが、なぜ、あえて、自身で学校を一から作ろうと考えられたのでしょうか。

ゼロから作る面白さと、可能性を感じたからです。学校教育はもっと多様であってほしいと思います。小規模の学校が各地で増えて、いろいろな教育が展開されてほしいと思います。

――軽井沢風越学園が目指す学校とは。

3歳から15歳までが同じ校舎で学ぶ、幼・小・中の混在校です。「同じから違うへ、分けるから混ぜるへ」をコンセプトに、軽井沢の豊かな自然の中で、学年や年齢を越えてゆるやかに共存する学校を目指しています。

私たちは、子供たちの学ぶ力と学校教育の可能性を信じています。学校教育の新しい在り方を軽井沢から発信していきたいと考えています。

理想とするのは、多くの人が「自由だ、幸せだ」という実感と共に生きる社会の担い手を育むこと。

岩瀬直樹さん(東京学芸大学大学院教育学研究科・准教授)と、苫野一徳さん(熊本大学教育学部・准教授)にお声掛けして、2016年6月から具体的な構想を始めました。

岩瀬さんとなら、面白いことができそうだと思ったからです。実はそこまで深く面識がありませんでしたが、数カ月悩んだ末、「一緒に学校を作りませんか?」とメールしました。実際にじっくり話をしたところ、喜んで引き受けてくださいました。

さらに、『教育の力』(講談社現代新書、2014)で書かれているビジョンを実現したいと思っていた、著者である苫野一徳さんを紹介していただき、本格的に始動しました。

それぞれの強みである、実践・哲学・経営の分野を担いつつ、20年4月の開校に向けて準備を進めています。用地は取得済みなので、来年に認可申請を出していきます。

本城氏(中央)と苫野氏(左)・岩瀬氏(右)
本城氏(中央)と苫野氏(左)・岩瀬氏(右)
■3つの軸
――どのようなカリキュラムを考えていますか。

「自己主導の学び」「協同の学び」「探究の学び」の3つの軸です。これまでの学校では、何を、どう、どこまで学ぶかを大人が決めていました。いわば「学びのコントローラー」は大人が持ち、「わたし」よりも「みんな」が優先されていたのです。

私たちはそのような学校の姿から一歩先に進みます。「学びのコントローラー」を大人ではなく子供自身が持ちます。それが軽井沢風越学園の目指す学びのスタイルです。軽井沢風越学園では、何を、どう、どこまで学ぶかを一人ひとりの子供自身が決めて、学んでいきます。そして学びの質を深めるために、自分自身の学びを問います。これを私たちは「自己主導の学び」と呼びます。

「協同の学び」は遊びと深く繋がりがあります。こんなシーンを想像してください。ブランコに乗っている小さい子がいました。足が地面につかなくて、思うように前後に揺れなくてつまらなそうです。そこに少し大きい子がやってきて、隣のブランコに乗り、楽しそうに揺れています。大きい子の様子をじっと見て「どうやったらできるの?」と小さい子が聞きます。大きい子がブランコを降りて、小さい子の背中を押しました。大きくブランコは揺れ、別の世界が見えました。誰かの力を借りること、誰かに力を貸すこと。子供たちが遊びの中で行っている自然な助け合いが、学習の中でも展開されること。これを私たちは「協同の学び」と呼びます。

もう一つ別な側面の例です。砂場でシャベルを使って山を作っている子がいます。そこに水の入ったバケツを持ったもう一人の子がやってきて、そこに水を注ぎます。山に川が流れ、新しい世界が生まれます。一人ひとりの遊びがつながることで、互いに刺激し合い、新たな遊びが創造されます。子供たちが遊びの中で行っている相互触発が、学習の中でも展開されること。このことも私たちは「協同の学び」と呼びます。

気兼ねなく「教えて」「助けて」と言える関係。他者の学びに刺激され、対話を深める中で、新たな発見が生まれる関係。このような関係が軽井沢風越学園をしなやかな場にしていきます。他者と出会い、共に生きていく。遊びも学びもこうして豊かになります。

「探究の学び」の重要性は、もうすでに皆さんも理解しているところだと思います。「言われたことを、言われた通りに」「決められたことを、決められた通りに」。そんな出来合いの「答え」を詰め込んでいくだけの学習の在り方は、すでに過去のものになりつつあります。

変化の激しいこの時代、絶対の正解のないこの社会において、子供たちが未知の問いに向かって探究し続けられる力を私たちは育んでいきます。自己主導と協同の学びをベースに、教科の枠を混ぜあわせた「探究の学び」を深めることが軽井沢風越学園のカリキュラムの大きな柱です。

一人であるいは複数人で、さまざまなテーマについて、「わたし」や「わたしたち」なりの問いを立て、それぞれのやり方で、心と身体と頭を存分に使って「わたし」や「わたしたち」なりの答えを出していく。それが「探究の学び」です。

■挑戦心に溢れる人が集まりつつある
――今年2月にメディアに向けて発表した反響は。

現在採用活動中ですが、有り難いことに、150人ほどの、たくさんの応募をいただいています。共通しているのは、挑戦心に溢れる人です。いつか地元の学校に戻りたいという人や、大学に行って教員養成に携わりたいという人もいます。軽井沢風越学園をステップの一つとして捉えてくださるのはうれしいことです。

――どのような年代・職の方が集まっていますか。

およそ半数が20代、3割が30代の方です。現役教員だけでなく、新卒の学生や、教員免許を持つ一般企業に勤務している方など、さまざまな方が全国から集まっています。これからも追加募集をする予定ですので、興味のある方をお待ちしています。

◇ ◇ ◇

後編は、エリート教育からの転換を中心に、本城氏の目指す教育の方向性を探る。


〈プロフィール〉

本城慎之介(ほんじょう・しんのすけ)=72年生まれ。慶應義塾大学大学院在学中に三木谷浩史氏と共に楽天株式会社を創業、取締役副社長を務めた後、株式会社音別を設立し、教育界に参画。公立中学校長、私立学校法人理事を経て、09年より軽井沢で野外保育「森のようちえんぴっぴ」の保育に携わる。16年に軽井沢風越学園設立準備財団を設立、理事長に就任。