教育実践研究家 菊池省三氏に聞く 今の教育動向をどう見るか

「リーダーシップを取る教員が授業観を変え、組織を高めていくことが必要」

“ほめ言葉のシャワー”で知られ、本紙で『「成長の授業」を創る―菊池実践11の柱―』を連載している、元小学校教員で教育実践研究家の菊池省三氏。2017年末からはドキュメンタリー映画『ニッポンの教育~挑む 第二部~』が各地で公開されており、さらに、その取り組みに注目が集まっている。菊池氏に活動の現状と、今の教育動向をどう見ているかを聞いた。


今の教育動向を語る菊池氏
今の教育動向を語る菊池氏

■広がる輪
――全体的な活動内容は。

教育特使を務める高知県いの町で年間50日ほど活動しているほか、大分県中津市、三重県松阪市、兵庫県西脇市にも定期的に行き、教育委員会などに顔を出している。18年度からは、岡山県浅口市でも活動する予定。研究会や研究団体に呼ばれることもある。

週末には主催する菊池道場のセミナーや講演会を行っている。道場は全国に約60支部あって、私の地元福岡には4つある。道場の若い教員を中心に月1回ペースで勉強会が開かれているので、各支部に年に1回は行くようにしている。

指導法としては、子供が成長、変容していく部分にスポットを当てて考えることを大事にしている。

――主宰する菊池道場の現状と今後は。

道場に来ている教員たちは、20代、30代が中心。女性だとベテランの方もいるが、男性は少ない。男性にはプライドがあるので、変わる勇気がないというか、覚悟がないというか、変わりたがらないというか、傷つくのが嫌なのか……。それは仕方ない。少しでも取り入れてもらえればと思っている。「これからの時代に必要な教育の在り方を、みんなで考えていきましょう」というスタンス。

教育現場では、戦後にいろいろな人が出てきて、さまざまな実践が試みられては、一種のブームに終わってきたのではないかと思っている。

菊池道場で掲げた指導法を拡大、充実させる方向に突き進み、バトンを渡し続けていかなければならない。

菊池道場の輪は広がり、一緒に取り組む地方自治体も増えている。学校での実践を通じて理解されるようになり、今は手応えを感じている。

■いまの教育動向
――新学習指導要領に対する印象は。

私の指導法は、新学習指導要領で重視されている「アクティブ・ラーニング(AL)」と同じだと思っている。30年ほど前から取り組み、やっと時が来た。

なかなか変わらないこの教育の世界で何十年もやってきて、悶々と考えていたとき、国が新しい方向性を示した。

タイミングがいいと思ったのも、学校を辞めたきっかけの一つ(15年3月に小学校教員を退職)。

ただ、新指導要領で示された方向に、今すぐかじを切ろうとしている教員がどれくらいいるのか。まだまだごく少数だ。

実際に授業が変わるかというと、そんなに変わっていない。主体的な学びを長年実践してきた私には、そう見える。

学級づくりや人間関係の質を上げないと、新指導要領で示す方法をまねしても、ALのバブルで終わる。小学校でも中学校でも、時間割の中に1時間くらいコミュニケーション科が生まれればいいと思っている。

知識だけではなく、子供の成長、変容、学級集団の成長を核と考えた教科が当たり前になってほしい。教員時代、私なりに考え取り組んで、それに子供たちが応えてくれていた。ALがバブルで終わらないように、その大切さを伝え、理解してもらい、少しでも役に立てればと思う。

――全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)をどう捉えているか。

教育指導の充実や学習状況の改善などに生かすという、文科省の方針でいいと思う。

マスコミがテスト結果の順位を過熱気味に報道するが、それに左右されることが間違っている。人間関係がちゃんと築けている教室は、目に見える学力の数値も高い。

全国規模の調査でもはっきりしているし、私も現場で実感している。

誰が考えてもそうだ。嫌いなクラスメートがいるのに、一生懸命勉強するわけがない。安心して自信を持って、皆で学び合える環境だからこそ、集中して勉強できる。

しかし、学力か学級経営かと二項対立で捉え、互いに足の引っ張り合いをしているのが現状だ。それはばかげている。

なぜ「点数を上げる」「順位を上げる」と血眼になるのか。

――指導死など、指導をめぐる問題が起きている。教員が持つべき指導観とは。

高知では知識重視の授業を、「カチカチ」した授業という。そういう授業をする教員は、勉強ができているか、いないかで子供を見る。

要するに減点法だ。減点法になれば、子供は追い詰められていく。

勉強ができない子供に教員が激高して、より厳しい指導を通そうとする。痛ましい事件や事故を生み出す背景には、指導観の問題がある。

「カチカチ」した授業観に基づいた指導で子供が追い詰められる状態が生まれるのは、残念だが当然のことだと思う。

「小学校の低学年なのに」「中学校なのに」と子供を型にはめていく。そうすると、絶対的弱者の子供に対して、教員の歯止めが利かなくなるのかもしれない。一人の人間として対等に接すれば、指導死のようなケースまでエスカレートしないのではないかと思う。
カウンセリングやアンケートから問題は見えてこない。ないよりはあったほうがいいが、それは対症療法に過ぎない。

対症療法をいくら手厚くやっても、減点法を改めない限り、いろいろな問題が出てくる。

その子の成長に合わせた指導に、重点を移すべきだ。

■指導観を変えるには
――減点法の原因は何か。

一つには、教員自身がそういう教育しか受けてこなかったのが根底にある。

もう一つには、教員の仕事を「教えること」と捉える向きが強い点が挙げられる。言い換えれば、成長するという視点を大事にしていない。

(映画の舞台になった教育特使を務める)いの町の先生たちに向かって、「小学校の先生は『教える』が中心。保育所の先生は『育てる』が中心」と話したことがある。

保育所や幼稚園の先生たちからは、「よくぞ言った」と拍手が起きた。

要するに「育てる」という視点が弱い教員がいる。「教育」なのだから、本来は両方大事だ。

教科書の内容を教えるだけなら、1年間で終わるので見通しが立つかもしれない。

ただ、それは「教」の1年間。「育」の1年間ではない。そうした教員は、1年間の見通しが不十分なのではないか。

担任として1年間クラスを持つにもかかわらず、学年が始まったばかりの4月の段階で、子供に「これは駄目だ」とすぐ注意する教員がいる。これは間違っている。

今は駄目かもしれないが、「学年末の3月までには」と1年間の見通しを持って育てる意識があれば、違うアプローチが見えてくると思う。

でも、教員がどの子供に対しても「今が、今が」となれば、「気になる子供」は続出する。結果的に減点法になっていく。

「気になる子供」は、周りが変われば変わる。周りが変わらない限り、その子だけ変わることはない。だから周りも育てないといけない。その子も関係性のなかで生きているわけで、周りが育たないと変わらない。その子が変われば、周りの子供も成長する。

セミナーや講演会で発表する教員の中に、事実だけで説明する人がいる。そういう教員は、対話的な学びに対するイメージが弱いのではないかと思う。

テストで100点を取る優秀な子供のイメージはあっても、自由に育った子供のイメージが湧かないのかもしれない。

だから私は、あえて黙って静かにきちっと座って話を聞き、その教員に示すようにしている。「カチカチ」な授業をしていると。

「カチカチ」な授業で子供を叱責すればどうにかなると思い、教員自身の経験で押し通そうとする。気が付けば「育」の視点がない指導になって、勉強ができない子供を叱責する減点法になっていくのだろう。

――指導観を変えるには、トップダウンかボトムアップか。

トップダウンでは一時的に浸透しても継続しないかもしれないので、基本的にはボトムアップがいいと思っている。

「ほめ言葉のシャワー」は、子供同士がつながり、教員と子供がつながり、ひいては学力も上がる。誰も反対のしようがない。

そういった空間をつくっていくのは、教員にとって一番の楽しみ、喜びのはずだ。

「当たり前のことを少し丁寧にやって、いろいろな子供が活動する教室をつくりましょう」、そう言いたいだけだ。それは、どの教員も大事にしないといけないこと。そこに現場と管理職の違いはないと思う。

しかし、そうした指導法に異を唱える管理職や学年主任がいる。結局、自分の経験に固執して、取り入れること、変わること、傷つくことを怖がっているのではないか。怖いから、誹謗中傷を浴びせる教員が出てくる。

20代、30代の教員がベテランの方と組むと、授業観やスタイルが違うため、理解を得られずにぶつかり、悩むと聞く。

学校でリーダーシップを取る教員が授業観を変えて、学年を組み、学校を経営して組織を高めていくことが必要だ。

■必ず幸せなことが待っている
――教育新聞の読者へメッセージを。

成長していく子供の営みの核になれるのが教員の仕事。子供の成長に喜びを感じて教員になったと思う。

でも、心が折れそうになることがある。保護者対応の問題、「気になる子供」の問題、進路の問題、同僚との問題……。

現場では、学力テストの点数を上げるよう言われたり、教科書をきちっと進めた事実が要求されたりして、苦しんでいる教員もいるのではないかと思う。

今から30年ほど前に1年間だけ担任した吉崎英治くん(編集部注:吉崎エイジーニョさん)が、大人になってから私の本を2冊も書いてくれた。

たった1年しか担任していないのに、30年近くたってから自分のことを本で形にしてくれた。

教育の成果は、もっと先にあると思う。テストの点数を上げるのも大事だが、それだけが全部ではない。必ず幸せなことが待っていると信じて、頑張ってもらいたい。

「教員になろうと思ったときの気持ち。教員免許の合格通知をもらったときの気持ち。教員1年目の始業式で子供たちと出会ったときの気持ち。それを忘れたくないですよね」

「始めは『カチカチ』した授業をやろうとしたんじゃないですよね。ましてや学力テストの点数を上げるため、子供たちの前に立ったわけでもない。それをもう一回、思い起こしませんか」

そう言いたい。

 

映画『挑む ニッポンの教育』
映画『ニッポンの教育~挑む 第二部~』

◇プロフィール◇

愛媛県生まれ。山口大学教育学部卒業。北九州市の小学校で33年間勤務。現在は、教育実践研究家として、全国で年間200カ所での講演活動などを行っている。全国ネット菊池道場・道場長、高知県いの町教育特使などを務める。ドキュメンタリー映画『ニッポンの教育~挑む 第二部~』の上映予定は、特設ページへ。

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