【シリーズ 先を生きる】 対談 膨張する公教育(1)

eye-catch_1024-768_saki-taidan01生徒指導や部活動、増え続ける「〇〇教育」など、学校現場の役割や負担は年々大きくなっていく。風船のように膨張する公教育をこのままにしていいのだろうか。横浜市立中川西中学校の平川理恵校長と、北海道の私立高校、札幌新陽高校の荒井優校長は、共にリクルート出身の民間人校長という共通点がある。 Teacher’s Lab.代表理事の宮田純也氏がコーディネーターとなり、学校の外と内の両方の視点から、膨張する公教育に風穴を開ける2人の学校経営にスポットを当てる。全5回。


民間人校長が見た「学校」と「先生」

先生は職人、校長は職人のまとめ役
コーディネーターの宮田氏
コーディネーターの宮田氏

――今回は、民間から見た学校現場ということで、女性初の民間出身の公立中学校長の平川理恵さんと、同じく民間出身で校長としては最年少クラスである荒井優さんに、「膨張する公教育」というテーマで、お話を伺います。まず、民間と学校では当然違うところは多いと思いますが、学校に求められるものがどんどん増えていく中で、どんなことに驚いたでしょうか。

平川 一番驚いたのは、こんなに先生たちがやっているんだっていうことですね。世間からは「楽をしている」「公務員だから」「隠蔽している」などと言われるんですけど、それを先生たちはよく耐えているというのが、私の驚きでした。問題点は言わないと改善しないのに、先生たちは何も言わないし、何も言えない。でも、その苦しさはやっぱり分かってもらわないと、いつまでも世間と学校で相互理解は図れないと思っています。私は代弁者として、通訳のような役割になればいいなと思っているんです。

――民間人校長というと、民間の方が学校より進んでいるから、教員を見下すような感じでうまくいかないという例が、メディアで一時期発信されたのですが、そういう話とは全く違う印象です。

平川 全然違います。先生はすごいですよ。生徒指導のスキルとか、子供の発達段階における見方など、おおよそ私ではできないような指導の仕方と見取りをきっちりされるので、それはやっぱり専門職じゃないとできません。最近では、保護者の学歴の方が高いと、先生を見下すという風潮がありますが、じゃあ、学歴が高い人がいい先生になるかというとそうではないんですよね。東大や京大を出た先生がいい先生とは限らない。私だって、英語は話せるけど、教えられるかって言われれば教えられないわけですよ。だから、学歴や何かのスキルなどと、先生としてのスキルというのは異なると思います。職人みたいなものですよね。

――職人ですか。荒井さんはいかがですか。

荒井 僕はまだ校長になって1年10カ月ですので、平川先生とは経験が違いますが、現場の先生に対しての尊敬はすごくあります。先生たちは思っていたよりもすごく一生懸命で、予想以上にパッションがあると思いました。民間企業はどちらかというと定量的に物事を判断しますが、先生たちは定性的に判断するところがあります。クラスにいる1人の生徒をちゃんと見ています。これは予想以上でした。

平川校長(左)と荒井校長(右)
平川校長(左)と荒井校長(右)
そもそも学校は誰が経営しているのか

荒井 一方で、義務教育と高校教育って大きく違いますよね。要は、大学への入り口なのか、中学の延長なのか、非常に微妙な立ち位置で、そもそも行かなきゃいけないのかも含めて分かっていない。高校ってそもそも何なのかということを、もっとみんな真剣に考えて良いのではないでしょうか。特に、僕は私学の校長ですから、ある種の民間企業体として公教育を担う組織の作り方とはどうあるべきなのかを常に考えているのですが、その立場から言うと、先生たちは組織に縛られやすい気がします。

まさに平川先生がおっしゃるような自己主張がなかなか言えない組織では、何のために教育をやっているのかというところを忘れがちになりやすい。公教育や学校という、大きな組織の設計が今、曲がり角に来ているし、私学だって、もっと自分たちで変えていいんじゃないのと思っています。

そもそも学校は誰が経営しているのかというのは、公立も含めて大きなイシューじゃないでしょうか。ちなみに、私学の経営者は校長じゃなく、理事長です。しかしながら、理事長はちゃんと学校を経営しているのかというのは、どの私学ももっと問うべきだと感じます。現場はみんな頑張っていても、ちゃんと経営してないから苦しんでいる私学もある。公立校の校長先生が、本当に学校の経営者たりえているのかどうかというのも、もっと突き詰めていいんじゃないでしょうか。

――それぞれの理念に基づいた学校づくりということに対して、どういうトライをされているのかを伺ってもいいでしょうか。

平川 建学の精神はありませんけど、教育基本法第2条に「こういう人材を育てましょう」というのはあるので、あんなパーフェクトな人は作れませんけれど、それに準じた形で、各学校で校長が指針を出して、あるいはみんなで出していってやっていくというのが公立だと思うんです。でももう1つは首長で多少変わる面はあります。ただ、今日本テレビのドラマでやっている櫻井翔さん主演の「先に生まれただけの僕」のような、校長が代わってドラスティックに変わるというのはないですね。そういう点では「雇われマダム」じゃないので(笑)。逆に言うと好きにできます。

それから、公立中学校は家庭の経済力や能力に関係なく生徒を選ばない。むしろ、うちみたいに大きい学校だったら、もうこれ以上入らないよってことはあります(笑)。私が公立にこだわっている理由はそこです。どんな子供も公立校に通って、それなりの教育も受けられる。もちろん、私学に比べるとファシリティや施設の面で見劣りする部分は多々ありますが、内容でならば、公立もやればできる。でもやっているかと問われると、どうなのかなあと。

私学が本気を出せば公立が敵うはずがない

――確かに公立の理念は広すぎますね。他方で、自分たちで決めるという点では、人の入れ代わりはありますけど、やりやすいのかもしれないですね。

平川 よいところ悪いところ、あると思うんです。荒井先生の学校もそうですが、古くからやっている学校にはやっぱり建学の精神があるし、卒業生も活躍しているし、歴史と伝統に育まれたものっていうのがあります。申し訳ないけど、ぽっと出の学校はサスティナブルかどうか疑わしい。良い教育にはどれだけ金が掛かるかと気にしながらやっていくのは、大変だと思うし、オーナー(理事長)による雇われマダム(校長)になってしまうと、オーナから「マダム交代」って言われれば、アウトなわけです。公立とは違って、そういう大変な側面が私学にはあるだろうと捉えています。

――そういう意味では、荒井先生はまだ校長になられて2年目ですよね。

荒井 はい。学校としては59年目ですが、校長としてはぽっと出です(笑)。ただ、本校はつぶれかけていたんです。サスティナブルじゃなくなっていた。でも本当に今の高校はどこも経営が大変だと思います。けれども、僕は高校教育に関しては私立が本気を出せば、公立が敵うはずがないと思っています。それはなぜかと言えば、生徒募集を常にやらなければいけないからです。中学3年生やその保護者というマーケットに対し、常に、直に向き合わなきゃいけない。これまでは「一番できる子は自動的にあの学校に行って、できない子はあの学校に、そこにも入れなかった子たちが滑り止めとして私立に行く」というのが北海道の感覚でした。でもこの2年で、ちょっと本気を出せば、ガラっと変わりました。何を学校として目指しているのか、何を実現するのかっていうのがはっきりすれば、ちゃんと結果が出てくるので、それを見せれば人も増えます。その点で、公立と比べて我々は必死なので、負けようがないわけです。今日はちょっと強めに言わせて頂きます(笑)。

平川 でも、そう思いますよ。ただ、こちらは公立である以上、最終的なセーフティーネットです。多分これは、地域の中学校っていうことと、偏差によってある種セグリゲートされる高校とでは、少し違うとは思うんですけれども。

(第2回に続く)


 

平川理恵(ひらかわ・りえ)

横浜市立中川西中学校校長。京都市生まれ。1991年同志社大卒業。リクルート入社。営業MVP賞を受賞、 年間で4億円売るトップセールスに。 1997年南カリフォルニア大学大学院へ留学し経営学修士(MBA)を取得。1999年起業を志し退社、 留学支援の会社を設立、事業売却まで10年間、 無借金・黒字経営を達成。2009年に校長試験を受け大阪と横浜で合格。2010年全国で女性初の公立中学民間人として 横浜市立市ヶ尾中学校に着任。現在は、横浜市立中川西中学校長として中央教育審議会教育課程企画特別部会委員にも参加。著書に「あなたの子どもが『自立』した大人になるために」(世界文化社)など。

荒井優(あらい・ゆたか)

学校法人札幌慈恵学園札幌新陽高校校長。1975年生まれ。早稲田大卒業後、リクルートに入社。2008年にソフトバンクに入社し、社長室に配属。通信・教育事業に携わる。グループ会社の取締役を歴任し、2011年7月より(公財)東日本大震災復興支援財団の専務理事を兼務し、復興支援活動の責任者となる。東北の高校生が米国カリフォルニアでリーダーシップを学ぶ「TOMODACHI ソフトバンクリーダーシッププログラム」や、経済的に困難な高校生への給付型奨学金「まなべる基金」の創設などに取り組む。また、「福島県立ふたば未来学園高等学校」の開校に民間委員として関わる。2016年に札幌新陽高校の校長に赴任。スローガンは「本気で挑戦する人の母校」。

宮田純也(みやた・なおや)

一般社団法人 Teacher’s Lab.代表理事。早稲田大学教育学部卒業。日本最大級の教育イベント「未来の先生展2017」実行委員長。一元的な目標や価値観に向かう収束型教育システムから、目標や価値観を多元的に生成する発散型教育システムへの移行を実現したいという思いから、2016年にTeacher’s Lab.を設立し、代表理事を務める。「未来の先生展2018」を企画中。