【平川理恵×荒井優】膨張する公教育(3)

eye-catch_1024-768_saki-taidan03 共に民間出身の横浜市立中川西中学校の平川理恵校長と、北海道の私立高校、札幌新陽高校の荒井優校長による対談「膨張する公教育」――。第3回では、保護者をはじめとする、外部との連携の進め方を語り合った。


開かれた学校の具現化

学校の「開け方」

――公教育が膨張していった結果、多様化する社会からのニーズや要求を次々に取り込んでいくようになり、学校現場に余裕がないという点はどうでしょうか。

平川 (そういうことは)いたしません。「あれをやれ」「これをやれ」と言われても、やりません。食育やキャリア教育など、いわゆる「○○教育」は250ほどあると言われていますが、それも取捨選択です。どれもやらないわけじゃなくて、どこに注力するかということだと思います。

――そういう意味では、膨張して苦しんでいる現場は、管理職が何でも引き受けすぎているのが問題なのかもしれないですね。

平川 そうです。部活動も教育課程外ですから、「その顧問の方針に同意できない人はお辞めください」と言えばいいのです。「一切そのようなクレームは受けつけません」と、私も保護者に言っています。クレームは全くないですよ。

――本当に保護者から何もないんですか。

平川校長(左)と荒井校長
平川校長(左)と荒井校長

平川 全然ないです。特に今年に入ってからは全くない。留守番電話も導入しましたが、クレームは全く来ませんでした。

荒井 そうそう、僕はその話を聞いて感動したんです。生徒や保護者に対しての、平川さんの「開け方」ですね。結局、保護者が信頼しているから、自分の子供に問題が起きても、平川先生なら安心だと思って、クレームにならない。相談や質問はあるのかもしれないですが。

平川 PTAでお茶会をやっているんです。アポなしで、お茶飲みながらざっくばらんに話し合う会というのを定期的にやっていて、毎回百人くらい来ます。学校に対して「言ってやる」という人は、絶対参加するんですよね。「何か質問ありますか」と聞くと、「はい」と手を挙げて、「ダンス部を作ってもらえませんか」なんておっしゃる。すると他のお母さんが、「あなた、さっき校長先生の話を聞いた? 大変だって言っていたでしょ」と……。私は、にこにこ笑って聞いているだけで、そこで浄化されてしまうんです。留守番電話についても、PTA会長が「良いんじゃないですか」と言ったら、他の保護者も「良いんじゃないですかモード」になって、あっという間に広がっていきました。留守番電話は、朝に聞いても3件ぐらいしかない。そのほとんどが、うっかり掛けてしまった無言電話か、生徒の欠席連絡くらいです。先に手を打って仲良くしておく。先手必勝です。

中と外をつなぐのが校長の仕事

――学校の中と外をつなぐ役割として、平川先生の学校では、広報誌もありますよね。

平川 学校だよりに「おじゃまします、授業拝見、お仕事拝見」というコーナーがあります。教職員は全員載るんですけど、臨時、非常勤を含め、事務員も養護教諭も司書教員も、私が取材をして、授業風景などをカメラで撮って、記事にしています。

新陽高校では、大学生のインターンも受け入れている。荒井校長は「これも出会いと体験」と話す
新陽高校では、大学生のインターンも受け入れている。荒井校長は「これも出会いと体験」と話す

荒井 僕もフェイスブックを使っています。これは元文科審議官の寺脇研さんにアドバイスをいただいたんですが、卒業後、大学生になる人もいれば働く人もいて、消息が分からなくなってしまう。そこで、高校の先生が情報発信して卒業生とつながっていければ、すごく良いと思ったのです。情報発信の手段はホームページでもいいんですけど、やはりすごく見られていますよ。生徒や保護者、それに受験生、ライバル校の先生も見ている。みんな見ているという前提で、良いことしか書いていませんが……。

――学校のホームページにもフェイスブックとインスタグラムのアイコンがありますが、あれはそういったものを意識しているんですか。

荒井 はい。そうですね。まさにつなげていく情報発信をトップがやっていく。逆に言えば、僕は授業を教えるプロではない。僕がやれるのは、外と学校をどうつなぐかです。今、自殺対策に関する北海道の施策を作るための委員会に、校長会の代表としてメンバーに入っています。それで感じるのは、例えば若い人たちを啓発しなければいけないとなると、文科省は学校に意思決定を伝えます。でもすでに、学校現場はほとんどのことをやっている。それをさらに、「もっとこれをやれ、あれをやれ」と言われて、本当にたくさんの資料が、毎日のように積まれていきます。僕も一生懸命、日々反抗しています。取捨選択しないと、はんこを押すだけで1日が終わりかねない。それをさばいていく人のスキルは、すごく大事です。公立の場合には、特に平川さんのような「ちゃきちゃきしたお姉さま」が必要かなと思いますけど……。

――理念や、こういう学校にしていこうという観点で、日頃から情報を発信して、信用、信頼を獲得し、対話しながらやっていくということですね。

平川 なぜ学校だよりを頑張っているかというと、生徒、保護者、地域、それから教職員、ここをどうつなぐかを考えたときに、やっぱり学校だよりが一番良いんですよ。生徒で千部、地域で千部。それから、小学校などのステークホルダーとなる方々にお送りする。結局それが簡単で、一番いいミニコミ誌になるような感じですね。

出会いと体験が求められている

平川 教職員とは、年に必ず3回以上の人事面談をするし、授業も見ています。保護者にも、茶話会とかPTAを通じて、かなりコミュニケーションを取っています。何をやってもあまり文句を言われないのは、そういうことだと思いますね。例えば先月、LGBTの方に学校に来てもらったんです。前任校のときは、原発もやりました。静岡県の浜岡原発の方に来ていただいて。ちょうど「3.11」の後でした。福島第一原発の問題がある一方で、うちの学校では、修学旅行は広島に行くんです。それなら、1日5千件以上のクレームを受けている原発側の人にも話を聞こうと思いました。クレームが出るかと思ったら、全然出なかった。誰を呼んでも「そんな人を呼ぶなんて」とは、絶対にならないんです。

荒井 1年にどれぐらい、外から人を呼んでいるんですか。

キャリアチャレンジデーでマダム由美子さんに質問する生徒
キャリアチャレンジデーでマダム由美子さんに質問する生徒

平川 毎月何人か呼びますね。12月は「キャリアチェンジデー」といって、1年生8クラスを対象に、12人の人を呼びました。逗子市長やエレガンシストのマダム由美子さん、それから、地域の木工会社の方も。学校の前に住宅展示場がありまして、その営業マンの人や銀行マン、それから、ITで起業した人も呼びました。それで、そのうち好きな人3人を選んで、話を聞くという会があんです。

荒井 それは何時間するのですか。

平川 午後の4、5、6時間目です。各時間、12人の方には同じ話をしてもらいます。キャリア教育ということで、意志と役割と能力という、3つに沿って話していただくんです。例えば、同じコミュニケーション力でも、介護職のコミュニケーション力と住宅営業マンのそれは、また違うわけですね。営業マンは説明する方がコミュニケーション力だろうけど、介護では、相手の様子を観察する方が重要ですよね。それを分解して、自分の言葉で語ってもらうというのが、この「キャリアチャレンジデー」なのです。それで、事前と事後で、「人はなぜ働くのか」について聞いて、比べるんですね。そうすると、最初は「お金のためだ」と言っていた子が「いや、人のために役に立つことだろう」と、いろいろ変容が見えます。だから、そういうカリキュラム作りをして、協力してくれる人たちを呼んでくる。生徒にはオーラを感じてもらう。それも、「おまえ、この話を聞け」ではなく、選ばせる。それがやっぱり大事だと思う。

荒井 うちも似たようなことをやっていますが、1時間しかやっていないから、1人の話しか聞けません。でもそれを考えたら、確かにその方が断然いいですね。今年、うちの学校の、高1の中退率は、1%を切っているんです。これは今までの新陽高校から考えると、ものすごいことなんです。その要因をずっと考えていて、今、僕の仮説では、やっぱり出会いと体験だと思います。授業は正直、まだそれほど変わっていないわけです。改革はしていますが、まだ1年目なので。だけど、僕もできるだけいろんな人に会わせようとしています。

今のお話を聞いて、まだ改善の余地はあるなと思いましたけど、やっぱり学校の先生だけではなくて、いろんな人たちに会ってもらって、「あ、そういうことなんだ」と、生徒はすごく反応してくれます。学校も、受験勉強に資する教育課程ではない部分が必要とされていて、僕は、この出会いと体験がそれだと思うのです。

(第4回に続く)


平川理恵(ひらかわ りえ)

横浜市立中川西中学校校長。京都市生まれ。1991年同志社大卒業。リクルート入社。営業MVP賞を受賞、 年間で4億円売るトップセールスに。 1997年南カリフォルニア大学大学院へ留学し経営学修士(MBA)を取得。1999年起業を志し退社、 留学支援の会社を設立、事業売却まで10年間、 無借金・黒字経営を達成。2009年に校長試験を受け大阪と横浜で合格。2010年全国で女性初の公立中学民間人として 横浜市立市ヶ尾中学校に着任。現在は、横浜市立中川西中学校長として中央教育審議会教育課程企画特別部会委員にも参加。著書に『あなたの子どもが『自立』した大人になるために』(世界文化社)など。

荒井優(あらい ゆたか)

学校法人札幌慈恵学園札幌新陽高校校長。1975年生まれ。早稲田大卒業後、リクルートに入社。2008年にソフトバンクに入社し、社長室に配属。通信・教育事業に携わる。グループ会社の取締役を歴任し、2011年7月より(公財)東日本大震災復興支援財団の専務理事を兼務し、復興支援活動の責任者となる。東北の高校生が米国カリフォルニアでリーダーシップを学ぶ「TOMODACHI ソフトバンクリーダーシッププログラム」や、経済的に困難な高校生への給付型奨学金「まなべる基金」の創設などに取り組む。また、「福島県立ふたば未来学園高等学校」の開校に民間委員として関わる。2016年に札幌新陽高校の校長に赴任。スローガンは「本気で挑戦する人の母校」。

宮田純也(みやた なおや)

未来の先生展2017実行委員長、一般社団法人 Teacher’s Lab.代表理事。早稲田大学教育学部卒業。日本最大級の教育イベント「未来の先生展2017」実行委員長。一元的な目標や価値観に向かう収束型教育システムから、目標や価値観を多元的に生成する発散型教育システムへの移行を実現したいという思いから、2016年に一般社団法人Teacher’s Lab. を設立し、代表理事を務める。「未来の先生展2018」を企画中。

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