【平川理恵×荒井優】膨張する公教育(4)

eye-catch_1024-768_saki-taidan04共に民間出身の横浜市立中川西中学校の平川理恵校長と、北海道の私立高校、札幌新陽高校の荒井優校長による対談「膨張する公教育」――。第4回では、仕事の見直しをテーマに語り合った。


教員の仕事のリストラクチャリング
「KKD」の生徒指導はもうやめよう

――教員の働き方が話題になっています。確かに教員は多忙だと思います。仕事に際限がない。学校現場で多忙化を解決する方策には、どんなことがあるのでしょうか。

部活動や教員の働き方も「平川流」で改革する
部活動や教員の働き方も「平川流」で改革する

平川 これは日本企業にも言えますが、生産性が悪すぎる。何を成果とするのか、ちゃんと教職員と話さなければいけないと思います。それがない限り、この働き方改革は意味がない。私は教職員と相当話しました。その結果は2つあります。

まず、「私たち公立中学校の教員とは一体何か。何のためにいるのか。どういう役割なのか」を、先生たちと共に考えました。役割は2つあって、1つは生徒一人一人の自己実現を支援する。一人一人の将来に向かって、人生を生きていくという自己実現、時と場合にもよるし、いろいろな形がある。それを支援してあげるのが、私たち公立中学校の教員の役割で、これ以上でも以下でもない。

もう1つは、セーフティーネット的な役割です。貧困問題など、学校が見つけて支援ができるようにつないであげることが必要だと思います。だけど、私たちはカウンセラーや医療機関ではないので、「これ以上はやりませんよ」という線引きは決めておかないといけない。

そして、「これに適合しないものは除外する」という前提で、何が問題か話し合ってきました。問題として出てきたのは勘と経験と度胸、つまり「KKD」。何の裏打ちもされていない。これまでは春に1年生が入ってきても、「この生徒の家庭、何か変だよね」と気付くのが秋ごろでした。すったもんだして、夜な夜な生徒指導して。そういうのは、もうやめようと思いました。

そこで、4月に外部テストを入れました、「AAI」というテストや学力テスト、知能テストをやるんです。複数のテストを実施すると、偏差値に対して、オーバーアチーバーなのか、アンダーアチーバーなのかが分かります。つまり、バッテリーは充分にあるのに、そのバッテリーをテストという場面で発揮できているか、発揮できてないか。できていないとしたら、どういう心理的な要素があるのかが分かるのです。

それから、QUというテストでは、その子の社会性が分かり、支援の要・不要などが判定できます。全生徒にそのテストを実施して、結果は2、3週間で出てきます。要支援の生徒はそこでピックアップして、すぐに家庭訪問しなければいけない生徒、家庭と連絡を取り合わなければいけない生徒が誰で、どのくらいいるかが大体分かります。

その結果、特に若い先生から、「自分の見方が正しいと自信が出ました」と言われました。これまでのKKDの指導に、S=サイエンスが加わるのです。やるべきことが明確に見え、わけの分からない中で生徒指導する必要がなくなります。

――確かに。生徒が抱える問題も多様化していますね。

平川校長(左)と荒井校長
平川校長(左)と荒井校長

平川 肝心なのはバッテリーと、バッテリーに対してどれぐらい発揮できているか。実はオーバーアチーバーすぎても、だめなんですよ。つまり、頑張りすぎているから、そういう生徒は「キレる」。

荒井 「キレる」とは、どういうキレ方のことを言うんですか?

平川 ずっと、いっぱいいっぱいなんです。実力はないのに、親からのプレッシャーがあり、「もう疲れました」と、いつ白旗が上がってもおかしくない状況。その場合は保護者に、「よく頑張っていますが、思春期だから、それ以外に大事なこともあるのでは?」という働き掛けができます。

逆に、もっと頑張れるという場合は、この子にとって何が阻害しているのだろうと考える。例えば、論理的思考なのか、別の何かというのが各教科でもっと分かれば、もっと適切な指導ができるわけですね。

仕事の仕方を見直す

平川 もう一つありました。80時間以上は過労死ゾーンだというのを徹底する。会議や委員会などでは、一切書類を作らない。あとは意識の問題。

――そこが一番難しい。多忙感ですね。意識とは、どういうことでしょう。

平川 仕事が切れない。特に初任の先生は、そもそも仕事ができないですから。本人を呼んで、「過労死ラインは月80時間。1カ月を4で割って、週20時間、月火水木金で1日4時間以上、夜9時以降学校で働いていたら、超えるんだからね」と言い聞かせました。

荒井 リクルートに新卒で入ると、こういうお姉さんに、「早く帰れ」と怒られながら帰ります。「ちゃんと成果も上げてこい」も言われますが。僕は以前にも平川先生からお話を聞いて、相当衝撃を受けました。目からうろこが落ちたわけです。だから、僕にとっては、本当に平川さんのお話自体がすごくいい研修です。他の校長先生たちも平川先生の話を聞いて、「じゃあ、うちでもそうだよな」となればいいですね。

平川 覚悟を決めてやれば、ですね。

荒井 そう。やる必要がある。だって、やれますから。僕もこの領域はまだ全然やれていませんが、公立でやれるのだったら、私立でもできる。だから来年は、平川流でやろうと思っています。来年1年かけて、働き方や人事制度、教職員の在り方、そして部活動の在り方を皆で議論しながら変えていきたい。

部活動は社会教育に

――保護者が子供を預かってほしいから、部活動をもっとやってほしいといった声は?

平川 外でやってくださいと言います。部活は「やりたい」という生徒がいて、「面倒を見てもいい」という先生がいて、1年ごとに契約を結ぶようなものです。

年の初めに、それぞれの部活動の練習量は、表にしてはっきり示します。要するに、きついのか緩いのかが分かる。嫌だったら、よそに行ってもらえばいい。

――放課後に放っておくと、子供は何をするか分からないから見てほしいという声はありませんか?

平川 ボランティア同好会を作りました。略してボラ同。部活動も入っておらず、運動も苦手だという子は、ボラ同でボランティアをするんです。例えば、地域のお祭りで手伝ってほしいという話が来たら、ボラ同の部長に伝えると適当な人数を集めて行くわけです。当日は地域の方にお任せもできます。

――顧問の先生は、やりたいという人を優先していますか? それとも基本的には、全員何かしらの顧問をやることに決まっていますか?

平川 全員加入ですが、できる人がメインで、できない人は会計でお手伝いというふうに、役割分担しています。第4顧問までいますが、実質いないのと一緒ですよね。例えば、うちのソフトテニス部は人数が多くて、男女計100人もいます。2人の先生がメインでやっていたのですが、去年、その1人が出身地の採用試験に受かり、帰郷しました。そのためメイン顧問が1人だけになるので、新しく顧問の補充がなければ、男子に関しては新規募集はなしとはっきり伝えました。

――荒井さんの学校では、むしろ部活動を強化されていませんか? 全国大会に出る部のプレスリリースを拝見しましたが。

札幌新陽高校では、教員の自己実現も応援。ヒマラヤ登山に挑む教諭の姿が、学校パンフレットの表紙を飾った
札幌新陽高校では、教員の自己実現も応援。ヒマラヤ登山に挑む教諭の姿が、学校パンフレットの表紙を飾った

荒井 女子硬式野球部ですね。着任1カ月目のときに、地元の方から要請があり、私が作りました。でも教育課程外の部分に、どこまでリソースを割くのかは、常に気を配らないといけないと思っています。本質的に言えば、部活動で学校を経営していくのは王道ではないということです。

僕は高校とは別に法人を作ろうと思っています。実はもう準備はできていて、NPO法人の総合型地域スポーツクラブを立ち上げます。部活動の多くはそちらで運営していきます。僕の考えでは、これしかソリューションはありません。北海道の地方の高校は生徒が少なすぎて、そもそもすでに部活動が成り立たないわけです。そのような状況で、高校で部活動を運営していく必要性があるのでしょうか。

部活動をやりたい大人や子供がいるなら、その人たちと一緒にやればいい。うちの体育館を使ってもらって、地域の人たちと一緒にやっていく。試合のときだけ、新陽高校のウェアを着て高校生だけで出場する。部活動の顧問も、部活動を教えたい先生はそのNPOと兼務して、学校の勤務とは切り離して活動してもらう。NPO側から費用を支払います。もちろん、練習中に何か事故があった場合は、そのNPO側で責を負うという形になります。その責任は僕になるわけですが。

――部活動は社会教育に移行する。

荒井 まさに、そうです。小学生や大学生が同じチームにいて、一緒にやる。社会教育の場、公民館的な活動主体として、総合型スポーツクラブが望ましいと思っています。

(第5回に続く)