【平川理恵×荒井優】膨張する公教育(5)

eye-catch_1024-768_saki-taidan05共に民間出身の横浜市立中川西中学校の平川理恵校長と、北海道の私立高校、札幌新陽高校の荒井優校長による対談「膨張する公教育」――。最終回である第5回は、経営者としての校長の使命について語り合った。


経営者としての校長の使命
■校長の仕事とは

平川 開かれた学校なのに、開かれた教育課程になっていないことは、まだあると思います。授業の中に世の中の風が入ってきていないことは多いと思うので、あえて入れないといけない。その仕掛けではないですが、教科会に管理職である私が出ています。場所がないから校長室で教科会をやるというのもありますが。

――先生方は、すごく緊張しますね。

平川校長(左)と荒井校長
平川校長(左)と荒井校長

平川 要するに、テストや進路の話ばかりしていたので、「ねえ、指導方法もちょっと話し合ってよ」と言うんです。

荒井 それはすごいですね。

平川 例えば理科の先生方が「一昨日と昨日の天気図を持ってきて、今日の天気を予想するという授業をやりたいのですが、iPadもないし、100円ショップで白板を買ってきてやろうと思うのですが、いいでしょうか」と聞いてきます。「いいよ」と、二つ返事です。

――逆にそういうのも言いやすいのですね。

平川 そうです。それで「いつやるの?」と聞いて、取材に行って、写真を撮って学校だよりに載せるのです。

荒井 さすが。教科会を校長室で行う。これは相当すごいですよ。無駄に長い会議にならずに済みそうですしね。

――開かれた学校という点で、荒井先生は外部との連携をどうされていますか。

荒井 東北の復興の仕事をしたとき、社会教育の方々とつながりが多かったので、特に公民館の活動はすごく大事だと思います。それから、民間企業との提携事業もどんどん増やしていきたい。でも、最後に残る本当の牙城は教育課程であり、教員が教える一つ一つの授業だと思います。平川さんのお話はいつも勉強になりますが、僕はまだ、そこまでではない。僕は自分自身が授業のアマチュアだと思っていますので、プロフェッショナルである副校長と教頭に授業の改善は委ねています。僕のメインミッションは、全体の経営管理と生徒募集だと思っています。

平川 「今日の授業は何点だったの?」と。

荒井 そうやって振り返らせるんですよね。

平川 「じゃあ、100点にするためには、何をどう変えるの」「もう1回やるとしたら、どこを変えますか」と。

荒井 そういうことも伝えながら、副校長が僕の代わりにやってくれています。開かれた教育課程をどう作っていくか。また、もう一つのチャレンジとして、「探究コース」を新たに作ります。うちの探究は国立大の理系を目指すわけではなく、民間企業の発想に近い。さらに既存のコースと、このあと新たに作る1コースを、どこまで探究に近づけていけるか。ある種のフィジビリティスタディーだと思っています。

――なるほど。既存の教員はなかなか変わらないと思いますが、新しい取り組みは可能なのですか。

荒井 「既存のところから変えていこう」「既存の授業を変えていこう」とすると、皆ためらいます。「日本の高校教育の新たなデファクトを作るつもりでやろう」と伝えたら、アイデアを出したり、チャレンジしたいという教員が出てきたりしました。

平川 高校ならではのやり方だと思います。中学校は時間的な「余白」がないから、教科の中に入れていくしかありません。その代わり、生徒募集をかけなくてもいいので、クオリティーコントロールが校長としての私の仕事です。

私立、公立かは関係なく、どうあるべきかを考えないといけない
■Dear 校長
生徒が校長先生に手紙を投函できる「公聴ポスト」
生徒が校長先生に手紙を投函できる「公聴ポスト」

平川 校長室前に「Dear 校長 公聴ポスト」というものを設置していて、私宛ての手紙が1年であふれるくらい来ます。

――生徒や保護者からの手紙ですか?

平川 いろいろな意見が来るんです。例えば、「担任がクラスの意見を取り入れずに、自分だけの意見を通そうとする」「外からの熱風が入ってきて、今にも倒れてしまいそうだ。家庭科室にエアコンをつけてほしい」「2年生男子一同は革命委員会を作る」とか。

手紙に名前が書いてあったら、返事を書くようにしています。「被服室の椅子に割れ目が入っているような気がします。座っているとガタガタします」という手紙に、「ご指摘ありがとう。早速確認します。椅子で指を挟んだりしたら、けがをして大変ですものね」なんて。

荒井 すごいですね。

平川 風通しをよくして、どこか言いやすいところを作っておけばいいんですよ。

■「讃岐うどん屋」のような学校を目指す

――最後に、先生方の今後のビジョンを教えていただけますか。

平川 小学校教育は今、教育先進国では全部「総合学習」です。教科学習はしない。関心、意欲、態度を上げて、勉強に対して嫌という感情を持たずに、中学生、高校生になってほしい。そういう子供は、中・高で教科学習が入ってきてもついてきます。ですので、小学校の改革は必要だと思います。もちろん中学・高校についても、今いる生徒たちにやっていかないといけません。

公立なので、「中川西中学に来てよかったな」と卒業するときに思ってもらうのが目標です。

本来は私立、公立にかかわらず授業料は無料で、どの学校を選んでもいいのが公教育の一番の理想です。たぶん不登校もなくなります。日本は着るものや、食べるものが、これだけ自由なのに、どうして教育だけがこんなに窮屈なのでしょう。もっとオルタナティブといわれる、シュタイナーや、モンテッソーリ、イエナプラン、ダルトンなど、いろんな教育を認めていけばいい。

引きこもりが全国で57万人。その人の人生を考えたときに、ずっと誰とも関わらず、家にいて、自己有用感もないのはかわいそうです。寄る辺のないインターネットだけが唯一の窓というのは、いびつだと思います。

荒井校長も校長室を開放。休日、他校の生徒も交えて「高校生未来cafe」を開催した
荒井校長も校長室を開放。休日、他校の生徒も交えて「高校生未来cafe」を開催した

荒井 僕は讃岐うどん屋みたいな高校を目指したい。本校は280人しか定員を取れない。その280人のためだけの特別な教育は何なのかを突き詰めればいい。「うちは讃岐うどんしか出しません。その代わり100円で、どの店よりもおいしい讃岐うどんを出しますよ」と伝えられれば、お客さんは来るかもしれない。まさに一つのマーケットニーズです。

もう一点は、北海道は35年後には人口が4割も減ると言われていて、そうすると、地域から高校がどんどんなくなっていくわけです。JRもなくなり、高校もなくなれば、地域がなくなる。このままでは、札幌と旭川と函館ぐらいにしか高校が残らないかもしれない。若い世代は、みんなそこに出ざるを得なくなる。本当にこれが正しい施策なのか、僕は疑問です。地域にとって高校はどうあるべきか。これはもう私学という立場を超えています。

今、北海道では、道立から町村立に移管する高校がすごく増えています。高校の経営は私立、公立かは関係なく、どうあるべきかを考えていかないといけないステージに来ている気がします。