【シリーズ 先を生きる】対談 未来を生き抜く教師とは(上)

 

eye-catch_1024-768_cl-saki-taidan01_fin「未来を生き抜く教師」とは、どんな教師なのだろうか?教育新聞は1月下旬、一般参加者を募り、公開対談を都内で開催した。自立・探究型の学びを追求し続ける炭谷俊樹氏(ラーンネット・グローバルスクール代表)と、「先生発! 最新のICT技術で教育現場を変えるハッカソン」でグランプリを受賞した蓑手章吾教諭(東京都小金井市立前原小学校)が、「働き方改革」「主体的・対話的で深い学び」などに対する現場の本音と、教員の未来をテーマに語り合った。コーディネーターは、一般社団法人Teacher’s Lab.代表理事の宮田純也氏。全2回。


「働き方改革」をめぐる学校現場の本音

若手の教諭が普段の悩みや葛藤をゲストにぶつける場面も見られた
若手の教諭が普段の悩みや葛藤をゲストにぶつける場面も見られた
■「働き方改革」は「深い学び」につながるか?

宮田 学校教育の現場では、働き方改革をどう受け止めていますか。

蓑手 現場の期待感は非常に薄いです。そもそも、現場の教員は働き方改革を望んでいないのではないかと感じます。口では忙しいと言いながらも、教員の多忙感は「教育のため」「子供のため」という善意から来ているので、時間を掛けることに疑問を感じていません。子供のために時間をかけることが、教員自身のアイデンティティーになっています。

しかし現場の多忙感は、ものすごく強いです。今、3歳の子供を育てながら働いていますが、やはり余裕がない。子育て中の女性は特に大変です。忙しさが一因で、やるべきこともできない教員もいるはずです。

宮田 学校の先生は非常にパブリックな存在です。例えば、先生が夕方に退勤するとする。ただ、自分の中で役割が切り替えられても、社会的な存在として、コンビニにいても、スーパーにいても保護者に会えば教師として見られます。日常すら注目されている状況も、多忙感につながっているのではないでしょうか。

深い学びにシフトするために時間にゆとりが必要と語る蓑手教諭
現場の本音を語る蓑手教諭は、深い学びには時間のゆとりが必要と指摘する

蓑手 「先生あるある」の一つですね。働いている学校の学区内にいると、いたたまれない。すごく見られている感じがあります。定時退勤も理解されないのではないかという不安もあります。例えば、電話がかかってきたときに「もう帰ったのか」などと言われる可能性もなくはない。早朝や週末にも電話がかかってくる職場ですから。

宮田 働き方改革で業務を見直して授業に集中する時間ができれば、多忙感がなくなって教育の質が上がるのでしょうか。

炭谷 ラーンネットの民間学校では、公立学校とは違って教科書を使わず、テストもしません。一人一人を丁寧に見るため、1クラス15人程度と少人数で組んでいます。学校を始めた当初は、一人一人の様子を観察記録として残していましたが、ものすごく時間を取られて大変でした。そこで、記録を取ることに充てていた時間を、子供と向き合うために使うようにしました。先生が子供に向き合う時間が増え、子供の成長につながっていると感じます。新しいことを始めようと思えば、反対に何かを削らなければなりません。まず事務作業を削れればいいのです。

宮田 働き方改革は、深い学びの実現に寄与するのでしょうか。

蓑手 働き方改革と深い学びは両輪です。深い学びにシフトするためには、子供の将来を考える視点を持たなければなりません。だからこそ、時間にゆとりが必要です。

振り返れば、ゆとり教育のコンセプトや方向性はとてもよかった。しかし、教員の多忙感は解消されなかった。その原因は働き方改革がセットで行われなかったからだと思います。今回こそ、働き方改革と深い学びが一緒に実施されるべきです。

子供が将来、高校や大学を出て就職するとき、どういう力が社会的に必要になってくるのか。そういうことを考える余裕が出てきたら、いい方向に進むでしょう。

子供たちに多様性を教える先生自身が多様化しなければと話す炭谷氏
デンマーク駐在中に自身の娘が受けた教育に衝撃を受け、炭谷氏は教育に身を投じた

炭谷 教える側の時間の使い方が課題です。授業準備にどれだけ時間を使ったのか、事務作業にどれくらい労力を費やしたのか。教員自身がそれを把握する必要があるのではないでしょうか。

自分なりに、効率を高められる方法を考えられるといいですね。生産性を上げる方法は、人によって違います。私が働いていたコンサルティング会社では、仕事以外のことに時間を割く「20%ルール」がありました。20%の時間を捻出するためには、週5日分の仕事を週4日で終わらせないとなりません。とても大変だった反面、そこで得た経験や人脈は代え難いものになり、3年後、5年後に役に立ちました。

宮田 蓑手先生はまさに、業務を見直して空いた時間を自分に投資していらっしゃいます。子供に教えるだけでなく、先生も学校の外へ出て新しいことを学ぶ。そうして初めて、快適で深い学びを子供に提供できる。先生自身の学び方、在り方も問われています。

蓑手 現状の打開策としては、若い頃に仕事術を身に付けるといいですね。例えばタスク管理ひとつとっても、教員はうまくない人が多い。若いうちに仕事のスキルを上げておくと、時間を捻出できるようになります。忙しいのですが、少し余裕は出てきます。その時間を学校の外で使って、見聞を広めるといいと思います。

例えば炭谷さんは、デンマークで日本とは全く違う教育の姿を見たから、今がある。学校の外にすぐ出ることが難しいなら、PTAの人たちと話してみればいい。すごく多様な人たちがいて、勉強になる意見を聞けます。他校の先生から話を聞くのもいいでしょう。

炭谷 ラーンネットでは、先生たちに副業を奨励しています。例えば週4日勤務で、残り1日を子供向けのボーイスカウトやボランティアに充てたり、自分で経営する会社の仕事に充てたりする。

子供たちに多様性を教える先生自身が、多様化する必要があります。だから、いろいろな分野で経験を積んだ先生がいるのです。私自身も他で働いています。

毎日毎日、同じ場所へ行って同じような仕事をしていると、どんどん世の中から置いてけぼりにされてしまうような感覚があります。教員自身が社会との接点、学校以外の接点を持つためにも、学校の業務を減らす改革を進めるべきです。

コーディネーターとして現場の本音と教員の未来を聞き出した宮田氏
コーディネーターの宮田氏が実行委員長を務めた「未来の先生展2017」は大成功を収めた
■「働き方改革」を巡る学校現場の本音

蓑手 今の学校現場では授業時間中、職員室に誰も残っていません。こういうタイトな状態について、特に海外から異常だと指摘されます。働き方改革では、職員室に担任以外の課外職員を置くようにしてほしいですね。

炭谷 何でもかんでも教員がやるのは大変です。ラーンネットの場合、担任と専任の2人で1クラス15人を見ています。ボランティアやインターンシップに手伝ってもらうこともある。そういった形で、教員以外の人たちにも手伝ってもらい、うまく組み合わせていった方がいいのではないでしょうか。

宮田 働き方改革で業務時間を短縮するために、学校以外との連携も一つの方法でしょうね。

蓑手 今の学校教育の現場では、本来やるべきことができていません。事務作業に忙殺され、翌日の教材準備や教材研究を始めるのが午後7時以降。しかし、今の仕事をなくさずに続けたい教員もいるのが実情です。本質的な仕事ができていない以上、多少痛みを伴ってでも仕事を削っていくべきです。

宮田 教員個人のライフステージの差も考慮すべきです。家庭を持っていたり、介護をしていたりする教員がいて、一人一人の状況は全く違います。

蓑手 現場にいる教員全員が仕事をこなさないと、誰かにしわ寄せがいく。現在はそういうシステムになっています。あいまいな共通理解の中で仕事が進められています。平等主義がすごく強い。

教員の質を担保して教育しようとすると、病気でも休みにくい。「保育園に子供を迎えに行く」と言って定時で仕事を上がるときでも、謝らなければならない雰囲気があります。もちろん、それを非難されるわけではないですが、他の先生が頑張っていることを知っている分、こちらも申し訳ない気分になります。

また、ベテランの先生は授業が上手で丁寧。事務作業も教材研究も短時間で済ませてしまいます。こういう先生が遅くまで学校に残って、若い先生が早く帰ったときに何か問題が起きると、若い先生はバツが悪くなる。だから遅くまで残って、仕事をするようになってしまうのです。

しかし年功序列の学校現場では、頑張っても頑張らなくても給料は変わらない。そこに不満を抱えている先生もいるのではないでしょうか。

公開収録にはさまざまな立場・方面から参加者が集まった
公開収録にはさまざまな立場・方面から参加者が集まった

炭谷 ラーンネットは個人の状況によって、仕事の中身も待遇も違います。例えば、独身でバリバリ働いている先生は、仕事量もそれなりに多い分、給料も優遇します。一方、子育てを優先して定時に退勤する先生は、仕事量を減らして科目も少なめにする。

授業はそれぞれの科目が得意な教員に頼む。教員自身が好きなこと、得意なことに打ち込んでもらえるよう、柔軟性を持たせています。ルールの柔軟性と調整が難しいですが、先生同士が協力して理解し合えば可能です。一人一人の頑張りには限界があるので、先生同士が学び合うような環境を整えるといいですね。

宮田 教員の業務量を削減する主体は、誰になるのでしょうか。

蓑手 校長でもいいですが、学校より上の立場にいる文科省や教育委員会がいいですね。何をやるにしても、「やってもやらなくてもいい」となると、保護者は必ずやってほしいと言います。その声を聞いたときに、校長はやめられないでしょうから。(次回に続く)


炭谷代表(左)と蓑手教諭(中央)、宮田代表理事
炭谷代表(左)と蓑手教諭(中央)、宮田代表理事
【炭谷俊樹】

ラーンネット・グローバルスクール代表、神戸情報大学院大学学長。東京大学大学院理学部物理学科修士課程修了。経営コンサルティング会社マッキンゼーでデンマークに駐在。一人一人の個性や自立心を伸ばす現地の教育に感銘を受け、帰国後に同スクールを設立。民間スクール、大学、企業などで自立・探究型の学びを実践する。

【蓑手章吾】

東京都小金井市立前原小学校教諭。都留文科大学文学部卒業。プログラミング教育研究主任。専門教科は国語。特別支援教諭免許を所有。「先生発! 最新のICT技術で教育現場を変えるハッカソン」グランプリ受賞。「未来の先生展」実行委員などを務めるとともに、セミナーや共著出版も行うなど、学校外でも活動。

【宮田純也】コーディネーター

一般社団法人Teacher’s Lab.代表理事。早稲田大学教育学部卒業。一元的な目標や価値観に向かう教育システムから、目標や価値観を多元的に生成する教育システムへの移行を実現したいとの思いで、2016年に同団体を設立。国内最大級の教育イベント「未来の先生展」では実行委員長も務め、大きな成功を収めた。