【シリーズ 先を生きる】 先生の幸せを本気で考える(上)「幸せ先生」を増やすには

eye-catch_1024-768_cl-saki-ue_fin「もっと幸せな先生を増やしたい」と、学校での働き方の見直しを支援する専門家がいる。先生の幸せ研究所の澤田真由美氏だ。小学校教師の経験を生かし、現場の教師が「やりたい教育ができる」環境づくりを支援する。澤田氏は、教師の状況を「カラカラ先生」「お疲れ先生」「仕事どっぷり先生」「幸せ先生」の四つに分析。仕事も私生活も満たされた「幸せ先生」を増やすには、どんな変化が必要なのか。澤田氏が支援する「教育の質を上げる働き方の見直し」と今後のビジョンに迫る。


■保護者は教師の働き方を知らない
――働き方を見直すときに、意外に議論されていないのが保護者の存在だと思います。澤田さんは保護者の関係についてどうお考えですか。

まず言えることは、保護者は教師の働き方を知りません。だから第一段階はまず知ってもらうことです。実際に保護者向けに「学校の応援者になろう」という講演することがありますが、先生が忙しすぎて授業準備がままならない、という話にびっくりしています。

働き方改革の一環として、留守番電話を設定するといった取り組みがありますが、保護者の多くは、そもそも教員の勤務時間を知りません。講演を受けた保護者からは「一般企業では考えられない働き方で驚いた」「遅くまで電気が点いている理由が分かった」と言う声、そして「私たちもできることをしよう」という声が出てきています。

第二段階は、保護者と教員が一緒に考えていくことです。実際、保護者と教員が一緒にワークショップをしました。保護者から「先生がここまできめ細やかなことをやっているなんて」と驚きの声が出ました。保護者と教員が一緒に考える場があれば良い。学校は何のために、何を育てるのか、そこを突き詰めていくことです。こうしたことは、今から新たに場を設定しなくても既存の場を使ってできます。住田昌治さん(現・横浜市日枝小学校長)はPTA総会を、保護者と教員の協働の場としてとらえて実践されています。

――PTAの役割は本来、そういうものでしたよね。

いわゆる「モンスターペアレント」も、一見すると、保護者だけの問題のようですが、そもそも学校が本来の役割を示していないので、保護者をお客様にしてしまっている節があります。学校教育と家庭教育の本来の役割を確認したうえで、お互いがパートナーであり協力者として臨機応変にできることが望ましい。保護者はどこまでが学校の範囲なのかを知らないので、学校が何でもやってあげていると、悪気なくそういうものだと勘違いしてしまいます。

担任レベルでもできることがあって、学級懇談会・保護者会の使い方もアイデア次第です。ポイントは保護者同士の横のつながりを強化させることです。子供同士のトラブルも親同士顔を知っていると大きくなる前に解決できることは多いはずです。保護者同士が仲良くなり安心していれば、その安心感は子供に伝わります。それが学校でも子供の安定につながります。そうなるように担任が保護者会の場を対話の場にするなど積極的にデザインしていくことです。

クローズアップ2■満たされること、やりたい教育ができること
――澤田さんの連載「教員のワーク・ライフ・バランス~制度を変えてなくてもできること~」はとても好評でした。澤田さんの取り組みについて教えてください。

主に学校管理職・働き方見直し担当者・教育委員会事務局など行政担当者からの相談に応じて、現場で研修を行ったり、ワークショップや講演をしています。

私自身、東京と大阪で小学校教員をしていました。そこで学校現場の働き方の課題を感じ、「もっと幸せな先生を増やしたい」という気持ちが強くなり、独立しました。

――「先生の幸せ」を本気で考えている方は、案外少ないと思います。澤田さんの考える「先生の幸せ」とは何ですか。

仕事(ワーク)と私生活(ライフ)それぞれの最上価値であることに必要な時間をかけられて満たされること、やりたい教育ができることだと思います。満たされた先生こそ、子供たちに輝きを与えられると考えています。

私はライフの時間を、「休む」「遊ぶ」「学ぶ」「暮らす」の四つの要素に分類しています。これらに必要な時間をかけられているかが重要です。どれもがワークに良い影響を与えます。例えば、休まないまま疲れて教壇に立っても、子供たちの前で最高のパフォーマンスはできません。遊ばないと満たされず心のゆとりがないので、仕事の質は落ち子どもに良い影響を与えられません。本を読んだり世界を広げたりして学ばなければ新しいアイデアは出てきません。そして日常で必要な事(銀行や自分の通院や家の掃除など)といった暮らしの営みをないがしろにしては、仕事にも余裕がなくなります。

私は二度の教員経験で、効率を上げることは決して教育の質を下げるわけではなく、むしろ質を上げることに繋がると実感しました。

――独立したきっかけは何ですか。

まずは大人である先生が輝くことが子供を輝かす近道だと思い、大人に関わっていこうと考えたからです。より多くの先生たちに関わるには学校の外に出た方が早い、と思いました。

■「カラカラ先生」は隠れている
――今の教員を取り巻く状況をどう見ていますか。

私は教員の状況を四つに分類しています。一つは「カラカラ先生」です。家ではほとんど寝るだけで仕事への意欲も湧いてこない状態です。二つ目は、疲労している「お疲れ先生」。三つ目は私生活を犠牲にする「仕事どっぷり先生」。四つ目が私たちの目指す「幸せ先生」です。

問題なのは、「カラカラ先生」なのかどうかの見分けがつかないことです。身も心もボロボロの「カラカラ先生」は鬱寸前ですが、家でぐったりしていたり本当は仕事から逃げ出したかったりしても学校では元気なふりをしていることが多いのです。忙しくても仕事が充実して楽しいという人たちの方が学校では多数派なので、その中でしんどさを隠しています。

そして、仕事が大好きな「仕事どっぷり先生」も長い目で見ると肉体的に厳しい状態です。仕事の面白さで疲労は簡単に麻痺することがわかっており、意識して休まなければいけません。また、学校にこもっていてライフでの外の世界とのかかわりが少ないと新しいアイデアも湧かず、仕事が大好きな割には仕事の質が大きく上がりません。将来社会に出る子供たちを育てる先生が社会とつながりがないのでは必要な教育もできません。

また、バランスのいい時間の使い方ができている人でも、自己嫌悪に陥っている人がいます。私たちと関わって、「これで良かったんだ」と安心されることが多いです。

――バランスを大事にして働いていても、自己嫌悪になるというのはどうしてなのでしょうか。

学校組織の体質の問題です。例えば管理職が遅くまで残っていた教員に「遅くまでありがとう」と言っている場面を目にします。言った管理職にはその気がなくても、「遅くまで残ることが良い」という意識を植え付けていることがあります。集中したり工夫したりして時間内で終わらせている人は肩身が狭くなっていたり疑問を持っていたりすることがよくあります。

クローズアップ3■働き方の見直しは、学校が目指す子どもの姿への近道
――実際に学校現場では、これらのバランスを取りにくいのでしょうか。

取りにくいですね。私は、学校現場は職人的な世界だと思っています。一見すると仲がいいのですが、教室でどんなふうに叱ってどんなふうに褒めているのか等、どんな指導をしているかは実際に見ないと分かりません。しかし、お互いにそれらを見るゆとりも意識もないのです。研究授業や初任者の時は公開されますが、それ以外はおのおのの価値観に任されています。

私が支援させていただいた学校の校長は、「働き方の見直しは、学校が目指す子供の姿への近道だ」とおっしゃっていました。

――働き方の見直しは教育の質も上げる、という声が現場からも出ている、ということですね。

その校長は、「子供たちにとって本当に効果のあることを突き詰めるきっかけができた」とおっしゃっていました。単に時間を作るという取り組みから、教育目標を柱に学校が目指す子どもの姿を実現させる取り組みへと昇華させることができました。

学校全体で取り組まない場合でも、先生個人をヒアリングしてどんどん掘り下げていくと、先生一人一人の「核」となる大事になるものが残ります。それこそが、先生自身の持ち味であり働き方見直しの基準になります。

ある先生の「核」は「感じのいい子を育てたい」でした。それが先生の指導の軸になるし、子ども達に与えたいメッセージです。「核」が決まるとほめる・叱るの基準もおのずと決まりどっしりとした教育観をもって指導できるようになります。私の「核」は「すでに存在が素晴らしい」と伝えることでした。どんな子にも必ず才能があります。それを伸ばしていく指導には力を最大限注ぎました。「核」が決まると、それを優先させればいいと分かるようになります。力の注ぎ具合の緩急がつけられるようになります。時間は有限ですから優先順位はとても重要です。

その「核」に力を注ぐことは、先生のやりたい教育ができるようになることにつながります。それがやりがいであり目指す子供の姿への近道になります。(「下」に続く)

(中原佑一朗、藤井孝良)


澤田真由美氏

【プロフィール】
澤田真由美(さわだ・まゆみ)氏
1981年生まれ。 青山学院大学卒業後、東京都と大阪府の小学校教員として勤務。 教師として悩みぬいた自身の経験から、幸せな先生・大人を増やしたいと、2015年4月に独立し先生の幸せ研究所を設立。学校専門ワーク・ライフ・バランスコンサルタント 教育お茶会主宰。 私生活ではやんちゃな一児の母。本紙連載「教員のワーク・ライフ・バランス~制度を変えてなくてもできること~」を執筆。