【シリーズ 先を生きる】 先生の幸せを本気で考える(下)先生の自己満足になっていないか

澤田真由美氏

学校専門のワーク・ライフ・バランスコンサルタントとして活躍する、先生の幸せ研究所代表の澤田真由美氏は「自己満足に気付くべき」「保護者は教師の働き方を知らない」と指摘する。後編となる今回は、澤田氏の提案するフレームワークとビジョンに迫る。


■片手間ではなく本気でやっていこう
――具体的に、どのような支援をしているのですか?

ある校長先生から「行事を削りたいが、どうすれば良いか」という相談を受けました。そこで教職員の方々にヒアリングしたところ、意外と行事の削減の必要性にピンときていませんでした。探っていく内に、その学校の教職員の要望は行事を削るのではなく、「日々の業務効率をなんとかしたい」ということだと分かりました。それらの情報を集約して校長先生に伝えたところ、日々の業務効率と行事の精選の二本柱となり、学校としてのベクトルがそろいました。

また、トップの本気が学校を動かすということを校長先生に助言をして、働き方見直しのスタート時には校長先生から「片手間ではなく本気で働き方改革をやっていこう」と教職員へメッセージを伝えていただきました。

――先生からすると、子供たちが楽しみにしている行事を削るというのは抵抗があると思います。

そうですね。本格的に支援をスタートした9月以降、残業時間が大幅に減りました。印象的だったのは、教頭先生が残業時間の37%を削減できたことです。教頭先生は特に激務な立場にいるはずです。ご本人いわく、「自分事なんだと気付いた。自分で率先して姿勢を見せていかなければ」とのことでした。

他にも支援した学校で、ある先生は「土日に働かなくなり、パパ嫌いと言っていたわが子が、パパ好きと言ってくれた」とおっしゃっていました。お子さんを持っている先生は、わが子を大事にすることで目の前の子供をもっと大事にできるようになりました。

また、専科の先生への支援も行っています。ヒアリングしていくと、ある専科の先生は周囲に対して「手伝えなくてごめん」という気持ちがありました。同じく周囲は「手伝ってと言えなくて悪いな」と感じていることが分かりました。そこで、仕事をお願いできるような「お願いボックス」を作り、そこにお願いしたいことを入れることにしました。簡易な箱さえあればできることです。

cu20180518_02■もっとシビアに仕事と人生の幸せを考えよう
――昨今の働き方改革についてはどうお考えですか。

この1~2年がターニングポイントになると感じています。形だけで終わるのか、実を結びながら前進するのか。多くの学校現場では、「働き方改革という業務が増えた」という認識があり、形だけになっているのが事実です。もっとシビアに仕事と人生の幸せを考えて、「子供のためならどこまでも」と自ら仕事を増やしてしまう体質を変えないといけません。

一方で、国でも「働き方の見直しと、授業・教育の質を両立することが課題」という議論になってしまっています。そうではなく、両者は同じなんです。働き方改革=教育の質を上げるという点にあまり言及されてない。

cu20180518_03■先生自身が自己満足に気付くべき
――どのように変えていけばいいのでしょうか。

工夫すれば、これまでの2割の時間で8割の効果を出すことができると考えています。

そこで私が提案しているフレームワークをご紹介します。縦軸に効果、横軸に時間をとります。効果が高く、時間も短く済むことが望ましいです。例えば掛け算を覚えさせるという目的があったとします。アイデアの引き出しがないとやりがちなのが、個別指導を進めていくことです。一見望ましい方法ですが、全員に対してやろうとすると時間が足りません。あるいは「覚えましょうと言うだけ」という指導です。時間はかかりませんが、それだけでは全員が覚えることは簡単ではありません。また、すでにドリルがあるのに多くの時間をかけて問題を手作りするのは時間がかかる上に効果は小さい。

でも少しアイデアを加えれば、例えば子供たちに教え合わせるのはどうでしょうか。効果と時短の両方がかなうのはアイデア次第です。私の実感では、「幸せ先生」はこれらのアイデアを豊富に持っています。

他の例だと、子供たちが出したノートに全員分のコメントを手書きで書く先生がいます。気持ちはよく分かりますが、手書きで書く代わりにノート返却が翌日や翌々日になってしまっては、子供たちも「?」となってしまいます。学力や学習意欲のためのコメントなのに、これでは教師の自己満足となり、もったいない。

アイデアの一つで、コメントの代わりにスタンプにしたことで、教師の時間はかけずに子供たちが意欲的になった例もあります。また、子供同士でノートを見て認め合う活動を数分間したことにより、教師が見なくても子供たちのノートが劇的に良くなった例もあります。

――子供たちが教え合う、というのはまさにアクティブ・ラーニングですね。

そのとおりです。先生が良かれと思ってやっていることは、もしかして自己満足かもしれません。今までのやり方に疑問を持ってみると、もっと良い・すごいやり方があるかもしれない。働き方見直しは、実はとても創造的な取り組みなんです。私が出会ってきた「幸せ先生」は、そんなアイデアをたくさん持っています。「幸せ先生」自身がアイデアマンである以上に、私生活の時間や外の世界とのつながりからヒントをもらっています。だから外にどんどん出て行くことをおすすめします。

それと学校は、時間と効果が見合う素晴らしいノウハウを持っていても共有されにくい職人的な世界ですから、学校内でお互いのノウハウを共有することもとても有効です。

cu20180518_04■次世代リーダーを育てる「教師の塾」
――澤田さんのビジョンを教えてください。

「働き方見直し=教育の質を上げる」という事例を、もっと増やして発信していくことです。先生たちが持っている効率化のアイデアを校内でどんどん広げていくサポートをしていきたいですね。

あとは、校長先生への支援も必要です。現状は校長先生が自ら働き方改革をリードしていくことは教育委員会のバックアップがない場合、校長先生にとってリスクです。その責任を問われることになりますから。なので、自信を持っていけるためのツールを提供し背中を押したいです。

一方、教育委員会への働きかけも必要でしょう。研究指定や学校訪問をやめた福岡県春日市教育委員会のように、行政ができることは実はたくさんあるのです。

ただ、私たちにもマンパワーの限界があります。学校の中で旗を振る先生を見つけて育てていきたいです。リーダーとなる先生がいれば変われるのが学校の良さでもあります。私たちが直接指導をして、そのような次世代リーダーを育てる「教師の塾」のような組織づくりも考えています。

――澤田さんは結婚を機に東京から大阪に移り、子育てをしながら再び教壇に立たれました。大阪での教員生活はどうでしたか?

0歳児を抱えながら不安いっぱいで教壇に戻り、必死で保育園のお迎えに間に合わせる生活でしたが、すぐに「東京時代と比べて、疲れていない」と思いました。子育てのために仕事時間は短くなったのに、「仕事の質も落としていない、むしろ上がっている」と気付きました。時間をかければかけるほど良い、というのは全くの思い込みだったと分かりました。

――最後に、読者に伝えたいことはありますか?

だまされたと思って、勤務校や学校の外の世界に出てください。私も一人で抱え込んでいた時には時間ばかりかかっていましたが、外にはアイデアのヒントがいっぱいあります。ぜひ「幸せ先生」を目指しましょう!

(中原佑一朗、藤井孝良)


cu20180518_01〈プロフィール〉
澤田真由美(さわだまゆみ)氏
1981年生まれ。 青山学院大学卒業後、東京都と大阪府の小学校教員として勤務。 教師として悩みぬいた自身の経験から、幸せな先生・大人を増やしたいと、2015年4月に独立し先生の幸せ研究所を設立。学校専門ワーク・ライフ・バランスコンサルタント 教育お茶会主宰 私生活ではやんちゃな一児の母。本紙連載「教員のワーク・ライフ・バランス~制度を変えてなくてもできること~」で注目を集める。