子供を守る性教育 タブーの意義を問う(1)

eye-catch_1024-768_cl-up_01_fin今年3月、東京都足立区の公立中学校が行った性教育について、都議会議員が「不適切な指導が行われているのではないか」と指摘。都教委はこれを受けて、学習指導要領にない「性交」「避妊」「人工妊娠中絶」といった言葉を使って説明した点が 、「中学生の発達段階に合わない」 として、区教委を指導した。区教委は「都教委の意見は真摯に受けとめる」としながらも、授業に問題なかったとの認識を示した。

性教育を取り巻く議論は、これまでにも幾度となくなされてきた。2002年、「保健」が小学3、4年生に繰り上げられた一方、都立七生養護学校で実施されていた性教育について、都議が過激だと批判したことを機に教員が処分される事件が起きた。「性器の名称を教えることは不適切」とした都教委は04年に「性教育の手引き」を改訂したが、13年には都議3人と都に賠償命令が下った。

学校現場と教委、そして政治的介入。一見すると、性教育をめぐって対立しているようだが、いずれも一番の願いは「子供を守ること」だろう。その視点で、現実に起きている諸問題を踏まえて性教育を問い直すと、これからの在り方が見えてくるのではないか。「望まない妊娠や性感染症を防ぐこと」を第一とする性教育ではなく、「命の大切さを知り、自分を守ること」を目指す学びにするため、子供の性をめぐる問題を専門的に研究する識者が、それぞれの立場で「タブーの意義」を問う。全4回の連載。初回は、日本産婦人科医会・安達知子常務理事。


望まない妊娠をゼロに近づけるために ~発達段階に伴った性の健康教育を~

日本産婦人科医会常務理事 安達知子

日本産婦人科医会 安達知子常務理事

■性教育とは何か 原点に立ち返る

「遅くとも、中学卒業までに、学校で、性交、妊娠、出産、望まない妊娠を避けるための行動、避妊、性感染症、人工妊娠中絶についての知識を提供し、自分たちで考え、行動することができるように性の健康教育を行う必要がある」と日本産婦人科医会は訴えてきた。

性教育は幼少時からはじまり、家庭や地域の中で、生命の誕生、命の大切さ、自尊心の育成、他者への思いやりなどを繰り返し教えていかなくてはならない。学童、思春期となれば、学校での教育が重要となる。男女の体の仕組みとその違い、生殖に関すること、第二次性徴からの性に関わる心と体の発達と変化、性の健康、性に関わる疾患(予防や治療にも触れる)、妊娠・出産・子育て、結婚、望まない妊娠やそれを避けるための行動、不妊、性犯罪に巻き込まれないための、また巻き込まれた際の行動など、テーマは広がる。性教育は、自尊心を育成するために不可欠であるばかりでなく、生きていく上での他者とのコミュニケーションなどを含めた諸問題を包括する教育である。

■産婦人科医会から見た日本の性教育

全ての生物には生殖の仕組みと行動があり、人の場合、その行動は性交である。仕組みを健康に保つことは大切であり、かつ子孫を残すには適切な時期があり、ある年齢を超えると子孫を残す機能は衰退していく。さらにさまざまな理由で子孫を残せない場合や、残さない意志を持つ人もいる。性教育のやり方は子供たちの発達段階に応じて異なり、父母や教職員の共通の理解と認識が前提である。

中学校での性教育は、学習指導要領で主として保健体育のカリキュラムの中で教えていくこととされるが、その内容の取り扱い方として「妊娠や出産が可能となるような成熟が始まるという観点から、受精・妊娠を取り扱うものとし、妊娠の経過は取り扱わないものとする」と定められている。つまり現状では「妊娠の経過」である「性交」は取り扱わず、「避妊」「人工妊娠中絶」も指導内容に含まれていない。わずかに、感染症の予防の一環としての性感染症があり、その予防として、コンドームという言葉が出てくるのみである。

若年者の出産数、中絶数と中絶選択率
若年者の出産数、中絶数と中絶選択率
■子供を守れていない現実に目を向けて

日本における性の現状として、表に2016年における若年者の出産、人工妊娠中絶数と中絶選択率を示した。15歳未満で46人が出産、220件の人工妊娠中絶がある。これは、中学生と小学生女子の総計である。15歳での出産は14歳時での妊娠と考えられるため、15歳以下での実態を見ると、189人が出産しており、839件の人工妊娠中絶がある。この年齢での人工妊娠中絶選択率は82%である。しかるに、189人の女子が望んで妊娠を継続したとは考えられず、妊娠に気づかなかった、あるいはどうしたらよいか分からなかったための結果としての出産と推定される。なお、性交を持ったものがすべて妊娠するわけではなく、この1028人の女子は性交が行われている女子の一部に過ぎない。

このような事実からも、中学終了までに一定のレベルの性教育は必須で、性交を持つことのリスク=妊娠/性感染症、妊娠を疑う要件・その時に取るべき行動、出産・子育ての意義、望まない妊娠と将来の夢――など、一方的な教育ではなく、自身で真剣に考えてもらう授業が必要である。なお、いわゆる強姦は若年者に多く、毎年12歳以下の女子の強姦認知件数は70件程度を推移している。小学生に対しても、性交を含めた性教育を行い、知識を身に付けさせ、忌むべき犯罪からの防衛行動をとらせることが必要である。

産婦人科医として、命の大切さに対する認識や自尊心の不十分さ、知識のなさから起きているさまざまな問題を目の当たりにしている。学校現場の理解と社会の認識による、現状を正確に把握した上での適切な性教育の実施と、そのための保護者や地域、教育委員会、国などのサポートを期待する。