高校の課題にどう取り組むか 笹全高長会新会長に聞く

eye-catch_1024-768_cl-up_fin高大接続改革や新学習指導要領など直面する課題を前に、高校教育が今、大きく変わろうとしている。今年70周年の全国高等学校長協会(全高長)では、初の女性会長として笹のぶえ東京都立三田高校校長が選出された。会長は「全国の高校現場の声を拾い、中央に届けたい」と語る。会長就任の抱負や重要課題を聞いた。


――新会長としての抱負は。

前任の宮本久也東京都立八王子東高校校長から、次期会長に推薦された時、「君には人脈があるから、それを生かすんだ」との言葉を頂いた。会長に就任した今、その言葉の意味とこれまでの活動を振り返ってみた。全国普通科高等学校校長会の活動では、高校基本問題検討特別委員会の副会長と委員長を歴任し、文科省や大学入試センターの担当者と情報交換する機会を与えられた。委員会のメンバーである全国の先生方とお会いし、お互いの教育実践や高校現場の状況について話し合うことも多かった。私は20年近く、進路指導に取り組んできた。全国高等学校進路指導協議会の会長をさせていただき、各地で開催された大会を通じて、その地の先生方、全国各地の先生方と交流を深めてきた。

一つ一つの学校の声を中央に届けることは難しい。その役を担っているのが校長会だと思っている。それができるように、事務局と共に動いていきたい。宮本前会長は全国に足を運ばれて、現場の声を聞き取ってこられた。私も同じようにできるかは分からないが、インターネットやメールも活用しながら、現場の声を拾い、発信していきたい。

――高大接続改革に対する取り組みは。

高大接続改革では、大学入試に民間の英語資格検定試験を導入するが、具体的にどういう大学が、どのように活用するのか、高校現場ではいまだ見えてきていないのが実情だ。本校のように東京の都心に立地する学校であれば、どの検定も受けに行こうと思えば受けられる環境にあるが、そういう環境が十分でない学校が全国にはたくさんある。そうした課題をそのままにしてスタートさせるのは、本当に大きな問題だと捉えている。以前、四国にある高校の校長から「検定試験を一つでも受けようと思ったら、県庁所在地まで行かなければならないし、交通費や宿泊費もかかる。費用負担は英語検定の受検料だけではない。本当に地方は困っている」というお話を伺った。

そういった声が耳に入ってくる状況で、東京の感覚で「できます」とは言えない。さまざまな地方の声を吸い上げ、文科省や大学入試センターに伝えていく、そのパイプとしての役割を果たしていくのが、自分に与えられた大きな使命だと思っている。高大接続改革をめぐる文科省や大学入試センターの動きが、全国でどういうふうに受け取られ、各地の高校でどう乗り越えようとしているか、どんな課題があるのかということを把握し、連携を図りながら解決していきたい。

笹会長は「全国の現場の声を届けたい」と語る
笹会長は「全国の現場の声を届けたい」と語る
――新学習指導要領への対応は。

「学びに向かう力」「主体的で対話的な深い学び」それから「カリキュラム・マネジメント」という三つのポイントがしっかり示され、これから移行に向けて動いていくことになる。新しい学習指導要領は、これからの時代を生きる子供たちに必要な力を身に付けさせる内容としてとても良い。一方で、文科省のウェブサイトに公表されている新学習指導要領をプリントアウトしてみると、一概には比較できないが、これまでのものと比べると、1.5倍はあるような厚さになっている。充実した内容に見合った授業時数の増加があるかと言えば、そうではない。限りある授業時数の中で、さまざまなアプローチを工夫して新学習指導要領の実現を図っていかなければいけない。現場としては、限られた授業時数と充実した内容をどう両立させるかが課題になる。

新学習指導要領の理念に対して、実際の現場でどう対応していくか。もし、これから環境改善・条件整備が図られるのであれば、現場の声として上げていくことが重要だ。これについては、今年3月に全高長会から意見・具申を出している。それを今後も引き継いでいきたい。

――学校における働き方改革の取り組みはどうか。

まず、教員が心身共に元気でなければ、子供に対する教育も良いものができない。教員は、自身の生活を充実させて、生徒に接してほしいと思う。ただ、教員が相手としているのは生きている子供で、24時間心配していなければいけないような状況もある。一般企業のように「勤務時間は何時まで」と、実質的な公私の区切りを付けにくい面がある。「ここまでが教員の役目で、ここからは教員の仕事ではない」と割り切れるものではない。

ただ、自分の中で効率良く仕事をするように努めたり、外の力を借りてできたりするところも、探せばあると思っている。そうしたところを、全高長として、何か良い知恵がないか考えていきたい。教員の働き方の見直しは、各都道府県、教育委員会によって環境が異なり、考えや方法が違う面もあるだろうが、全高長でも議論を重ね、校長の総意として、全ての都道府県の高校で共通して取り組めるようなプランをまとめ、提言していきたい。

――その他の課題は。

成年年齢引き下げにともなう民法改正によって、いろいろな課題が出てくるが、最も懸念されるのは消費者問題だ。高校生が消費者トラブルに巻き込まれていくことが、近い将来起こり得る。それに対応していく力を子供たちが養うには、やはり高校で教えていく必要があるだろう。新学習指導要領でその役目を主に担っていくのは、公民科で新設される「公共」や家庭科であるとされているが、現状として、「公共」や家庭科だけで担うのは難しいと感じている。どうやって消費者教育を学校で展開していくかということを、これから高校教育全体で検討していかなければならない。キャリア教育や主権者教育、消費者教育……いろいろな「〇〇教育」が出ているが、それを全部同じような濃さで、同じように全国でできるわけではない。だからと言って、この問題に関しては、高校で扱わないわけにはいかない。限られた授業時数の中で、どう折り合いを付けながらやっていくか。全高長として、現場を支援できる方法を考えるのと同時に、中央に働き掛ける窓口になっていきたいと思っている。

オプションを広げた生徒の活動を大事にする
オプションを広げた生徒の活動を大事にする
――自身の学校経営で大切にしていることは。

生徒も教員も多様な人々が集まっている、つまり、多様性が集まることによって、いろいろな化学変化が起こって、ものすごく良いものができていく。それが公立高校の魅力であると思う。オールラウンドに何でもできる生徒や先生よりも、何か一つでも得意なことがあり、自分の強みを発揮していけるような生徒であり、先生であり、学校でありたい。特に本校は、帰国生の入試枠があり、留学をする生徒や海外からのお客様も多く来る。世界を知っている子供たちが多い。その、世界を知っている子供たちに、学校の中でいろいろな場面を与えて、発信してもらっている。その発信できることこそが三田高校の特徴でもある。国際理解教育や英語教育の結果として、高い志が彼らの中に育って、進学につながっていく。「どこの大学に行きなさい」という指導ではなく、「三田高校で学んだ結果として、そこにたどり着けた」という、生徒の自己実現、進路実現を心掛けている。

全校集会では、よく「いろんなことに挑戦して、いろんな失敗を繰り返して、そこから、何が自分に必要か、新しい方法論は何か、それを見つけなさい」と言っている。「勉強するのは当然。学校行事を一生懸命するのも当然。部活動を一生懸命やるのも当然。でも、三田高校に入ったならば、プラスアルファのオプションもできなければだめだ」とも言っている。そのオプションは、本校の教員がいろいろな情報提供をしている。そこから挑戦するのもいいし、自分自身で、社会の中から探し出してきてもいい。本校では、オプションで頑張っている生徒をとても評価する。

本校はユネスコスクールなので、ユネスコと連携して、世界に出ていくチャンスもある。例えば、ユネスコ主催でカンボジアスタディツアーを実施している。学校でそのプログラムを紹介すると、生徒が自主的に応募する。昨年の夏休みにツアーに参加してきた生徒は、「カンボジアで見聞きし、学んだ内容を、自分の中でとどめておくだけではもったいない。秋に校内で発表させてくれないか」と私に申し出た。そこで、海外経験をしている生徒と一緒になって、文化祭で成果を発表した。すると今度は、「学校の中だけではもったいないので、外にも発信したい」と言い出した。「例えば、どこに発信したいのか」と聞くと、「近くの小学校の子供たちにも、カンボジアという国や、カンボジアの子供たちのことを発信したい」と返ってきた。私はあえて「自分でやりたいのなら自分であちらの校長に連絡をして、機会を持たせてもらえないかお願いしてみなさい」と言うと、本当に自分で依頼に行って、その小学校の全校朝会で、校長がお話しする時間をもらってカンボジアの話をしてきた。その校長のご厚意で、6年生の「総合的な学習の時間」でも授業をさせてもらった。オプションに参加し、そのオプションをもっと広げていく。そういうことができる子供たちを育てていきたい。

宮本前会長が3年間、中央と連携していろいろ積み重ねてきたものが、いよいよ動き出す年だと思っている。今年の高校1年生は、大学入学共通テストを初めて受ける子供たちになる。それぞれの学校では、彼らに対してどう指導していくか、模索がすでに始まっている。「待ったなし」の状況だ。全国の先生方と情報交換しながら、生徒たちに還元していく年にしたい。今までデザインしてきたものを実際に動かすには、全国の高校の先生方の力が、今まで以上に必要になる。ぜひ、全国の先生方にお力添えをいただきたい。微力ながら、私なりに、高校現場のその声を届けられるように、動いていきたいと思っている。