【中原淳教授】 アクティブな学びを生み出す組織の条件(2)

サーベイフィードバックで気付く教員の働き方

アクティブ・ラーニング(AL)を実現するためには、誰が、どのように学校組織を変えていかなければならないのか。企業をフィールドに大人の学びを研究してきた中原淳立教大学教授に聞く第2回。同教授は、現在の教員の働き方では「ALの実現」など、新たな教育方法や教育内容への対応は困難であるという。その理由とは――。


■企業から見た学校の問題点
――まず、「教員の働き方」の議論に入る前に、ずっと企業をご覧になってきた視点から、今の学校組織、特に高校には、どういう問題点が見えますか。

二つあります。一つは、「国公立大学・難関私立大学に、とにかく、何人入れたのか」が、現在の高校の「組織ゴール」になっていることです。全入時代にあって、この事態は、僕にはピンと来ません。

もちろん、大学に合格することは重要です。しかし、それは「入り口」に立っただけです。今後の世の中は、さらに「その先」が問われるようになります。つまり、大学入学はだんだん「前提」となり、さらに「その先」で、社会でどのような活躍をするかが、教育機関の価値になってくると思います。

これから私たちが考えていかなくてはならないのは、「学生たちが、結局、社会でどういう人材になるのか」だと思います。高校であろうと、大学であろうと、それを見据えてカリキュラムを組むことが求められます。

もう一つの問題点は、一つ目とも関連するのですが、それだけ「社会との接点」は重要になるにもかかわらず、現在、社会との間に接点を持つ高校や教員は限られているということです。

大学の教員は、先生によりますが、就職という出口に近いので、まだ社会が見えている。しかし一般に、高校はそれが一番不足している印象があります。

例えば高校の教員でも、かなりの割合で、名刺をお持ちでない方がいらっしゃいます。現代の日本社会において、名刺を持っていないで仕事ができるというのは、社会の人々と、あまり出会いがないということを意味します。

「学生たちが、結局、社会でどういう人材になるのか」を考えていくためには、先生方が、社会に対して開かれていくことが重要だと思います。

横浜市教委と取り組んだサーベイフィードバックの研究を説明する中原教授
■フィードバックで「見せる」
――高校の中に実際に入っていくときに、教員の意識を変えるために、どういうやり方をされているのですか。

一番の役割は、「鏡になること」だと思っています。先生方が、自分を振り返ったり、自分の今後を構想するときに必要となるような、「自己を見つめる鏡」を、研究を通してご提供します。例えば、長時間労働を何とかしたいという先生方がいらっしゃったら、サーベイを行い、現状を「見える化」して差し上げる。

例えば、カリキュラムマネジメントをしたいと願う方がいたら、現在の学校の教育達成度をサーベイを通して「見える化」する。「見える化」が「鏡になること」です。

思うに、現場をゲンナリさせる教育改革や、押し付けがましい教育改革論議が、この世の中には多すぎるように思います。僕も大学教育の現場で、これまで何度も「ゲンナリ」したり「うんざり」したりを経験してきました。

現場を変えられるのは、現場のフロントラインに立つ人だけなのです。行政の担当者や国の偉い方が、現場に立てるわけではない。現場のフロントラインに立つ人がゲンナリしたり、うんざりしたりする教育改革は100%成功しません。

だから、僕は押し付けません。望まれれば、「鏡をご提供差し上げる」くらいができることです。

■学校の現状を見える化する
――そこで変わりたいと思う教員は、やはりポジションについている方になるんでしょうか。

そうとは限りません。リーダーシップは「職位」や「ポジション」とは関係ありません。現場の志ある方が立ち上がり、ふと気が付けば、後ろに人がついている。そういう状況を「リーダーシップ」と呼びます。リーダーシップを生み出していける人は、年齢や職位に関係ないと思っています。

先ほどもお話ししましたが、僕はこれから大きく二つの見える化に挑戦したいと考えています。

まず、学校のカリキュラムの実施状況、成果を見える化する。これから3年間は、各学校がどういう状況にあるのかをフィードバックさせていただく研究に、河合塾さんと共同研究の体制を整えて、着手しようと思っています。これを「データに基づくカリキュラムマネジメント研究」と呼びます。

学校のカリキュラムの実施状況を見える化し、サーベイのフィードバックをして、対話をしてもらって、未来を構想するという、この四つをサイクルに、くるくる回していきたいんです。
これは文科省用語で言えば、カリキュラムマネジメントだと思いますし、単なるカリキュラムマネジメントではなくて、データに基づくカリキュラムマネジメントだと思っています。

多くの学校で、自分の学校の自分の生徒たちの学習達成度やカリキュラムの消化状況を見える化すれば、先生たちはいろいろ話し合って、「じゃあどうしようか」という議論を始めていけるポテンシャルを持っていると思います。私たちとしては、そういう学校のお手伝いを、社会貢献事業として実施させていただきたいと思います。

研究的には、サーベイの形式や、見える化するようなフォーマット、後は、対話の進め方などを、今後3年間研究して、多くの現場で使ってもらおうと思っています。
その成果は、マナビラボのWebサイトで発信していきます。

■データに基づくカリキュラムマネジメント
――その方法は、企業のやり方とは違って、学校ならではの要素が入ってくるのでしょうか。

そうですね。企業と学校は違います。私はもともと企業研究をしてきましたが、企業と学校を一緒くたにする議論には「嫌悪感」を感じます。学校と企業とで全く異なるのは、組織構造です。教育委員会があって、学校長がいて、副校長、教頭、主任がいて、そして現場の教員の方々がいるという社会的な組織構造は、企業と違うところです。

また、学校に期待されている成果も企業とは大きく異なり、本来、一年やそこらでは測定できないものです。僕は企業と学校を「ゴタマゼ」にはしません。

私立か公立かの設立形態によっても違うでしょう。これから3年かけて、私立、公立を含め4校をテストケースにして、データに基づくカリキュラムマネジメントを実施・検証していくのが、今掲げている目標です。

――そのような研究は、初めて取り組むのですか。

「サーベイによって現状を見える化して、教育改善を果たすこと」を、サーベイフィードバックと言います。実はこうした手法は、5年前から横浜市教育委員会との共同研究でずっと取り組んできました。

詳細は、私と、横浜国立大学の脇本健弘准教授、立教大学の町支大祐助教が編まれた『教師の学びを科学する』(北大路書房刊)という本をご覧ください。

この本では、「若手教員の成長・早期戦力化という目的を目指してサーベイを行い、ワークショップや研修で、その知見をお還しするような研究」が掲載されています。

――そうなんですね。今度は、このサーベイフィードバックをカリキュラムマネジメントに応用していくのですね。

そうです。サーベイフィードバックを応用したカリキュラムマネジメントこそが、「データに基づくカリキュラムマネジメント」ということになりますね。

一方、横浜市教委とは、「先生方の働き方改革」の文脈で、第2弾の研究に取り組んでいます。こちらは、先生方の働き方の現状を「見える化」して、働き方を見直したいと願う先生方に、知見をお還しし、未来を構想していただくことを目指すプロジェクト」です。詳細は、「横浜市教委×中原研 共同研究サイト」をご覧ください。

「学校における働き方改革は今のままでは極めて難しい」と指摘する
■スラックのない学校現場

――教員の働き方改革の議論は、いまや待ったなしです。現場には、プログラミングや英語など、新たな教育内容が押し寄せています。一方で先生方の長時間労働は、もはやうち捨てておけないレベルです。これらは果たして両立するものなのでしょうか。

現段階のまま推移すれば、極めて難しいと思います。例えば、横浜市の現状のデータですが、平均労働時間が11時間42分という結果が出ています。長時間労働になればなるほど、健康に不安を抱えている人がすごく多くなっています。

また、「教材研究の時間が足りるか」「新学習指導要領について理解する時間があるか」を見ていくと、全部、労働時間が長くなればなるほど、学びの時間が持てないという結果になっています。

ある意味で両輪の活動になるんですけど、アクティブ・ラーニングを含めて、新しいことをやっていくためには、多分、経営学的に言えば、学習資源が必要になると思うんです。つまり、学ぶための時間、変わるための時間です。そういうものを、経営学では「スラック」とか「余剰資源」とも言います。現在の教育現場には「変わるための余裕や資源」がなさすぎるのです。

今後は、教育改革を提案する行政や研究者は、「変わるための資源をどこから確保してくるのか」もセットで、政策提案をしてほしいです。学ぶ時間の創造と共にある教育改善の提案を、国はやっていかなければならないし、「英語をやれ」「プログラミング教育をやれ」と言っても、どこにそんな時間があるのかという話だと思います。

――多くの教員にとって「無理です」というのが正直なところだと思います。「先生のお話もいい話で分かる。分かるんだけど、もう一杯一杯なんです。これ以上増やせません。でも子供のためなら、何とかしてあげたいとも思っている」という。

そうなんですよね。だからすごく切ないんですよ。この点は、企業より学校の方が難しい。企業も学校も長時間労働の問題は、どちらも深刻ではあるんですが、例えば、「時間外業務を減らすことに対して、子供に罪悪感やためらいを感じますか」という項目に対して、多くの先生が「感じる」と答えています。

先生方は、自分が長時間労働を削減すると、子供のハッピーが規制されるから、罪悪感を抱くわけですよね。教員の仕事は、それだけパブリックミッションを帯びているということなんです。だから十把ひとからげに、労働時間の短縮だけを主張してもだめなんです。こうした罪悪感に共感しながら、物事を進めないと絶対にうまくいきません。

「いい先生」が自分の時間を犠牲にして、教壇に立ってくださっているのです。ですので、民間と同じように「長時間労働を是正しましょう」「一律で夜8時になったら帰ってくださいね」では、先生方はシラケてしまう。ゲンナリしてしまう。この問題は本当に、慎重にやらなければいけなくて、調査として出てきたものをどういうふうにして現場に返すか、しっかり考えないと、ろくなことが起きないと思います。今、その作戦を練っています。

◇ ◇ ◇

第3回では、組織を具体的に変えていく方法、そして、中原教授自身の立教大学での「挑戦」を聞く。

(藤井孝良)


社会人向けのワークショップイベントも行っている

中原淳(なかはら・じゅん)

立教大学経営学部教授。「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人々の学習・コミュニケーション・リーダーシップについて研究している。専門は人的資源開発論・経営学習論。詳細はNAKAHARA-LAB.NET。民間企業の人材育成を研究活動の中心にしつつ、近年は、横浜市教委や高校における人材育成にも活動を広げる。一般社団法人 経営学習研究所 代表理事、特定非営利活動法人 Educe Technologies 副代表理事、特定非営利活動法人カタリバ理事。