「希望のスクールロイヤー」 教育的解決を目指す

事例ごとに法律を駆使

学校で噴出する問題の解決を法律を駆使して助言するスクールロイヤー(学校内弁護士)の存在が注目されている。NHKで今春放送されたドラマ「やけに弁の立つ弁護士が学校でほえる」の人気がきっかけだ。いじめから体罰、部活動の事故、不登校、モンスターペアレント、教師の長時間労働までを神木隆之介演じるスクールロイヤーが、子供の利益を優先しながら解決にまい進する姿は爽快感すら視聴者に与えた。文部科学省も制度化の可否を課題に挙げるスクールロイヤーの可能性について、弁護士で現職高校教諭の神内聡(じんない・あきら)さん(40)に聞いた。


■教育的解決こそ

「スクールロイヤーがここまで期待されるとは正直、予想していませんでした。学校の問題が次から次に起きているのに、これらの問題に対応できる弁護士が少なかったことが背景にあります。学校に顧問弁護士がいたり、教育委員会の委員に弁護士が名を連ねるケースはありましたが、彼らは問題解決の役割を担ってこなかったし、有効な法律サービスを提供できていませんでした」と最初に指摘した。

神内さんは都内の私立淑徳高校で2年生のクラス担任を受け持ち、世界史と現代社会を教えている。日本の小・中・高校で弁護士と教員の二足のわらじを履く唯一の存在だからこそ、分かったことや肌で知ったことが多い。「学校で起きる紛争の特徴は利害関係が複雑なところです。子供の利益に関わるのでとても扱いにくい。問題解決に時間がかかれば子供は学校を卒業してしまう。裁判で争うと時間ばかりかかってしまい、結局は子供の利益にならなくなる。だから裁判で争うのではなく、和解を含めた教育的解決を目指すのです。それを理解していない弁護士が圧倒的多数です」

スクールロイヤーはリスクマネジメントの能力が問われる。例えばいじめがクラスで確認され、解決に乗り出すとき、中心になっていじめを繰り返した加害者の児童生徒と、SNS(会員制交流サイト)なども使っていじめをはやし立ててエスカレートさせた児童生徒を、どう捉えるかという問題が起きる。民事訴訟ではいじめに関わった頻度や悪質さ、演じた役割などの「寄与度」で加害者の児童生徒が負わなければならない責任、賠償額が違ってくると考えられる。教育的解決を目指す場合、民事訴訟とは別の視点からのアプローチが重要だと神内さんは提起する。被害者の子供が加害者の子供をどうみなしているかという視点だ。

「被害者の立場に立てば、中心の加害児童生徒も、脇役の加害児童生徒も同じ加害者です。主犯格だろうと、従属的だろうと被害者の目から見れば、みんないじめをした加害者なんです。この視点に立たなければ、いじめの解決、再発防止はできません。安易な解決策として教育現場で採用されてきたのは、被害の子供をいじめから守るという名目で転校させることです。公立中学校では加害生徒を停学処分にすることはありませんでした」。

■法令の不備を突く

「いじめられた側にも問題がある」とうそぶかれ、いじめの被害者が二次被害、三次被害を被る構図は、性犯罪やセクハラの被害者に非がないにもかかわらず「行為を誘引した原因がある」などと根拠のない理由でおとしめられてきた構図と極めてよく似ている。「校長に裁量権や選択権が与えられるなら、加害の子供たちを停学処分にすることもできる。現場の裁量権をあまりにも狭めている法令の不備を突く声を、スクールロイヤーとして広めていく必要があると考えています」

被害者の児童生徒がPTSD(心的外傷後ストレス障害)を患って長期の治療を要する事態になったとき、誰がいつまで治療費を払い続けるのか。継続した責任を誰が取れるのか。そうした難しい問題が山積する。

スクールロイヤーが力を発揮できるのは、学校で起きた問題を法律を武器に論点整理できる点だ。「保護者は自分が受けた教育の体験に基づいたり、自分独自の教育観に従ったりして好き勝手なことを無責任に言います。これでは収拾がつきません。それを交通整理するのがスクールロイヤーの仕事です。法律は誰にとっても共通のルールです。このルールを駆使することで論点がはっきりします」。教育問題が表面化し事実が確認され、スクールロイヤーの助言で論点整理ができると次に課題になるのが責任の所在だ。なぜこの問題が起きたのか。どうしたら再発が防げるのか。事実確認と論点整理、責任の所在と再発防止は一つの糸でつながっている。

「問題の責任がどこにあるかを考えるとき、私たちは三つの視点を持ち合わせる必要があります。法的責任、道義的責任、教育的責任です。法的責任は法律上の責任で、道義的責任は社会人としての倫理に関するものです。教育的責任は専門職としての教師の倫理です。子供の利益を優先し、子供の個性を尊重し、自分の考えを子供に押し付けないモラルということになります。『子供の最善の利益』への考慮を求めた子どもの権利条約の条文を、教育現場の実情に合わせて理解し実践していくことです。普通の弁護士は教育現場の実情を知らないので、条約の理解は条文の字面だけを理解することにとどまります。教師やスクールロイヤーは、現場ありきから条約の中身をたどっていくわけです。弁護士はモノである事件を扱い、教師はナマモノである人間を扱っているところが大きく違います」

■課題の利益相反

スクールロイヤーの存在が注目されるにつれ、利益相反の問題に対する不安が大きくなったと神内さんは打ち明ける。学校と子供の利益が真っ向からぶつかる際、スクールロイヤーはどちらの側に立つかと問われるからだ。スクールロイヤーは学校側が依頼主であるため、学校に不利な言動は禁じられている。NHKのドラマでは、いじめを穏便に済まそうとする校長と対立し、被害生徒による裁判の動きを支援したスクールロイヤーが「利益相反」の疑いを掛けられた。

「スクールロイヤーの派遣が学校側から依頼されている以上、児童生徒の利益を優先できない局面が考えられます。子供より学校を優先する事態があることについて、弁護士たちはこれまで議論してこなかった。普通の弁護士は、児童生徒のために活動するのがスクールロイヤーだと単純に考える傾向があります。事例ごとに一つ一つ丁寧に議論し、それを積み上げていくことで『利益相反』の課題が位置付けられていくと考えています」

現場にスクールロイヤーがいたら、日大アメフット部の反則行為や神戸市教委のいじめメモ隠蔽の問題はこれほどこじれることはなかったのだろうか。

学生数日本最多を誇る日大を「企業でいえば、トヨタや日立製作所と匹敵する巨大企業」とみる神内さん。「その日大のコンプライアンス(法令順守)の精神がこの程度だったのかと驚き、あきれました。日本ナンバーワンなのにグローバルスタンダートに全然なっていない。日大の顧問弁護士がどんなアシストをしていたのか、分かりませんが、スクールロイヤーがいたなら、マスコミが取材するより早く関係者の聞き取りを終え、反則行為の事実を確定したはずです。現場から上層部へ情報が上がっていくまでには時間がかかるし、情報も上に行くにつれ生々しさが削られ消えていく。スクールロイヤーなら中間を省いて上層部に情報をいきなり上げられます」

「個人のやりがいに頼り長時間労働を強いていたら、いい人材は教員にならない」と話す神内聡さん=東京都板橋区の淑徳中学高等学校

働き方改革を含めた教育改革には盲点があると言う。「現場を知らない官僚が予算をまとめ政策を決めるからです。どれもこれも『教師不在の政策』です。働き方改革も同じです。現場の教師を最初から関与させれば、政策は実行できるものになる。現場の教員の創意工夫と努力におんぶばかりして、予算は増やさない、人も増やさないでは、改革はできない。ヒトとカネをかけなければ児童生徒一人一人に応じた教育は難しい。教師として、スクールロイヤーとしての実感です」

(聞き手・谷俊宏編集委員)


スクールロイヤーとは

スクールロイヤーは、学校で発生する問題を解決するため法的観点から学校側に継続的に助言する弁護士のこと。学校内弁護士ともいわれる。トラブルをめぐる学校のリスクマネジメントや教師の負担軽減、問題の未然防止が期待されている。トラブルや紛争が起きてから訴訟上の対策を中心的に担う顧問弁護士とは役割と期待が異なる。スクールロイヤーの制度化に当たっては東京都港区が2007年度に独自に制度を導入し、大阪府も13年度から取り組みを始めた。文科省はいじめ防止対策の観点から制度化の可否について検討を進めている。日本弁護士連合会は今年1月、スクールロイヤーの整備を求める意見書をまとめ、制度の調査研究と法整備、財政的措置を求めている。現職の高校教師で弁護士の神内聡さんによると、スクールロイヤーとして活動する弁護士は全国で10人程度。