【中原淳教授】 アクティブな学びを生み出す組織の条件(3)

学校を変えるためのリーダーシップ開発

学校を変えなければ――。そう思っていても、二の足を踏んだり、あきらめたりする教員も多い。学校を変えるために、具体的に何から行動すればいいのか。中原淳立教大学教授は「一人になってはいけない」とアドバイスする。最終回となる第3回では、中原教授による立教大学での新たな挑戦も聞いた。


■外部人材のマネージングコスト
――学校にタイムカードを導入したり、部活動指導員を入れたりしても、結局そこでできた時間も教員は働いてしまう。

「残業を減らしたら教育の質が下がる」「残業を減らすと子供に申し訳ない」という罪悪感が存在するからです。こうしたジレンマが存在するのを見落としてはなりません。そして長時間労働を減らすのならば、「時間を意識していただく施策」は絶対に必要です。

ただ、それは短期的な課題を解決するための「外科手術」です。同時に漢方薬を飲むように「体質改善」も行わなければなりません。その中でジレンマを少しずつ解除していく他はないのです。

――部活動指導員やスクールサポートスタッフなど、人材を学校外から投入する案が出ています。

その場合は、教員が負担するマネージングコストも算段に入れる必要があるのと、コストは誰が払うのかという問題があります。今の省庁の発想は「先生方は忙しいから、取りあえず外から資源を入れて、その人がやってくれれば、先生たちの負担が下がりますよ」ということです。でも、現場ではもっとリアルなことが起こります。学校の文脈を全く理解していない指導員が入ってきた場合には、その対処に忙殺される。「それならもう、俺がやった方が早い」というパターンが目に浮かびます。

教員向けの研修プログラムを説明する中原教授

■ミドルマネジメントが組織を変える
――教員一人一人の意識も含めて考えていく必要があるのでは。

「組織ぐるみ」で行うことです。長時間労働の是正は、必然的に組織の課題を見える化して、対話しながら、その改善に取り組むことになります。そして実施するときは、まず組織のキーマンから順に追って行う。

ちょうど横浜市教委が実施したように、教委や首長が自分の管轄組織で何が起こっているかを調査することでしょう。最初に言ったように「見える化できないものは、マネージできません」。「見える化」したものを学校組織に少しずつ開示し、サーベイフィードバックしていく。その上で学校改革に取り組む。

学校改革に取り組む際は、まずは校長や管理職にサーベイフィードバックをして、本当に変えたいのか決断してもらう。キーマンが動かない組織変革はありえません。管理職が本気なら徐々に下に落としていって、「何かやり方を考えてみて」「上は応援するけど邪魔はしない」というようなスタンスを作っていくしかないと思います。

――教委が気を付けたらいいことはなんでしょうか。

第一に、「方針」と「目標」は明確にブレずに示す。第二に、資源やリソースを学校にあてがう。あるいは、やらなくてもいいことを、やらなくていいと言ってあげること。第三に、具体的にどうやるかは現場に任せて、あれこれ口出ししない。権限を委譲し任せることです。

教委は、緩やかに方向性を決めるんだけど、後は学校の創意工夫に任せるくらいの緩やかなやり方をしていかないと難しいですね。はっきりとしたコンセプトとツールは提供するが、そのやり方は学校に任せるという、トップダウンでも、完全なボトムアップでもない緩やかなやり方が重要です。日本の組織のマネジメントスタイル上、その方がうまくいきます。日本の組織では「ミドル」が「トップ」と「ボトム」を「アップダウン」しながら、組織を緩やかに動かす「ミドルアップダウン」が大勢です。

――そのミドルは、学校の中では具体的に誰が担うのでしょうか。

主任クラスの教員、5年目から15年目くらいの教員が中心になるのではないでしょうか。学校だったら、先ほどのパターンで言えば校長や副校長はまず理解し、応援し、資源を増やす。あるいは、やらなくてもいいことをやらなくていいと言う。その上で、現場の教員が自分たちの組織で何ができそうかを考えることから始まるのだと思います。

■応援団と印籠を探せ
――何かを変えようと思って動いてみたが、周りの理解が得られなくて、諦めてしまった教員がいるとします。あるいは、組織を変えようと思っているが、行動に移せてない教員も。そういった教員に、何かアドバイスはありますか。

まず、物事を動かしていくときの根本的な原理原則として、一人にならない、孤独にならないことです。学校で何か新しいことやっていくとなると、誰に、どの順番で話を通して理解を得て、物を動かすかということを考えないといけないですよね。それこそがリーダーシップだと思うんですが、それは、どこかで学べるものではないんですよね。

僕らは河合塾との共同研究で「学校づくりリーダーのケースメソッド講座」に取り組んでいます。同僚の町支大祐先生(立教大学助教)が中心の、新しい学校づくりのための未来塾のようなものです。学校組織を動かすための、意思決定のトレーニングをやっています。これはビジネススクールにおけるケースメソッドと同じです。ケースを読んだ人たちが全員でまず考えて、ディスカッションして、最後にジャッジする。誰にどの順番でどう通していくかを2択ぐらい選んでもらって、最終的には「じゃあこの人はどうしたんだろう」と振り返るんです。やはり、ミドルリーダーになる前ぐらいに、そういう意思決定トレーニングをやってほしいと思います。

――学校ですぐにできるようなことはありますか。

常に「一人ではやらない」ということなんじゃないでしょうか。学校の中だったら、誰か自分がやろうと思っていることを、支えてくれる応援団探しをするんです。それから水戸黄門の印籠探し。「これやっていいよ」と、組織の中で正当性をどう確保するかということだから、全ては組織政治的な要因で決まってしまうと思います。それをどう乗り越えてくかというトレーニングなんだろうと思います。

立教大学では、データアナリティクスを導入したリーダーシップ教育に挑戦する(中原ゼミの学生たちと)

■リーダーシップ教育をリードする
――中原さん自身のことも教えてください。この春、立教大学に移りましたが、これからどんなことにチャレンジしていきますか。

チャレンジしたいことだらけですね。一番大きいのは、自分がやっぱり学部教育の現場に立つということ。今までは大学のセンターに所属し、研究や事業推進をしたり、研究者養成(大学院教育)をやったりしていました。これからは、学部生を前に講義に立って、今、目の前にいる学生たちを次世代のリーダーにしていくことにまい進したいです。

――他には、どんなチャレンジがあるのですか。

立教大学では、リーダーシップ教育の効果性の検証もやっていく予定です。これは、同じく同僚の田中聡先生(同学助教)たちが取り組んでいます。初年次教育として本学では、課題解決型の授業「ビジネスリーダーシッププログラム」を実施していますが、この教育の効果性を縦断で検証していきます。

最近言われている「エビデンスベイスドポリシーメイキング」。「エビデンスを持って教育改良をしていけ」という流れです。教育や福祉、医療は今後、絶対にそうなっていきます。それにいち早く取り組んでいきます。私たちはこれまでリーダーシップ教育で先導してきました。そのリーダーシップ教育の革新も、リーダーシップを取って先頭に立っていきます。

僕が取り組んでいることは「先が長い挑戦」です。時間もかかるでしょう。徐々にさまざまな変化が生まれてくると思います。それを見据えながら前に進みます。僕の仕事は「未来を切り開く人を創る仕事」です。(おわり)

(藤井孝良)


外部人材の投入はコストも発生する

中原淳(なかはら・じゅん)
立教大学経営学部教授。「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人々の学習・コミュニケーション・リーダーシップについて研究している。専門は人的資源開発論・経営学習論。詳細はNAKAHARA-LAB.NET。民間企業の人材育成を研究活動の中心にしつつ、近年は、横浜市教委や高校における人材育成にも、活動を広げる。一般社団法人 経営学習研究所 代表理事、特定非営利活動法人 Educe Technologies 副代表理事、特定非営利活動法人カタリバ理事。

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