免許外教科担任の実態(3) 中学校「技術」で免外が多い背景とは

中学校や高校などで、教科の免許状を持っている教員を採用・配置できない場合、校内の他教科の教員が1年間だけ、その教科を担任できる「免許外教科担任制度」(免外)――。教育新聞では過去2回にわたり、高校の情報科での免外の突出ぶりに着目。その背景を掘り下げてきた。

しかし、免外の問題は高校だけでなく、中学校でも、その数が突出している教科がある。その一つが技術・家庭科だ。免外の実態を探る第3回では「技術」に注目し、長年、技術の免外や臨時免許(臨免)の問題を研究してきた丸山剛史宇都宮大学准教授に取材した。取材からは、中学校「技術」の特有の問題が見えてきた。


■半分以上の中学が免外・臨免という県も

まず、技術における免許外教科担任の全国的な状況を見てみたい。

2016年度の中学校での各教科別免外許可件数は、▽国語 319件▽社会 297件▽数学 417件▽理科 198件▽音楽 99件▽美術 938件▽保健体育 397件▽技術 2146件▽家庭 2181件▽外国語 188件――で、実技教科だけで全体の約8割を占めている。中でも、技術、家庭が特に多い。

全日本中学校技術・家庭科研究会が実施した調査によると、2017年度に和歌山、徳島、大分、宮崎の4県にある半数以上の中学校において、技術を免外や臨免の教員が指導していた。和歌山、高知、宮崎の3県では、技術の免許保有者よりも、免外や臨免で教えている教員の方が多かった(本紙電子版2018年5月29日付既報)。

2016年度の中学校における免許外教科担任の許可件数(文科省資料より作成)

■免許の有無で学ぶ機会が左右される

丸山准教授は、所属する宇都宮大学がある栃木県を中心に、中学校の技術の教員配置の実態や、技術で指導されている内容について調査を行ってきた。

同県が発表している「教員構成調査」の17年のデータによると、教科ごとの免許保有者の割合は、▽国語▽社会▽理科▽保健体育▽音楽▽英語▽美術――の各教科では8割を超えている一方で、▽数学 67.4%▽技術 63.1%▽家庭 56.0%――の3教科は、低い水準にとどまっている。授業時数の割合でみれば、技術は16.7%、家庭は21.0%が臨免や免外、つまり、技術あるいは家庭科の普通免許を保有していない教員が担当していることになる。

同准教授は、1998年の学習指導要領改訂の時期に、栃木県内で技術科を担当する教員を対象にアンケートを行った。その結果、免許保有者が担当しているほとんどの学校では当時、選択教科として「技術」が開設されていたが、免外や臨免の教員である場合には、選択教科としての「技術」は開設されておらず、技術を担当する教員の免許保有の有無によって、生徒が技術について深く学べる機会が左右されている状況が見られた。

また同准教授が行った別の調査では、89年改訂の学習指導要領の時期に、臨免や免外が多い地域では、技術の学習内容の一つである金属加工の履修率が著しく低いという結果も出ている。

同准教授は「設備や教材を例にしても、免外や臨免の教員では、技術でそもそも何を買ってよいのか分からない場合が多い。そうなれば、授業内容も制約されてしまう」と懸念する。

栃木県の中学校における免許状所有者の割合(2017年「栃木県公立学校教員構成調査」より作成

■複数校「兼務」の問題点

こうした免外を解消する方策として、一部の自治体で導入され、文科省でも検討されているのが、複数の学校を一人の専任教員が受け持つ、「兼務」を可能とする教員配置の在り方だ。しかし、同准教授は、この一見効率的に思える「兼務」の実例調査から「看過できない問題が含まれている」と指摘する。

同准教授の研究によれば、02年ごろから実際に複数の学校を兼務する教員配置が急増するようになったという。その引き金となったのは、98年に中教審が答申した「今後の地方教育行政の在り方について」の第3章「学校の自主性・自律性の確立」に、地域内の小・中・高校間での教職員の兼務が示されたことによる。同年に同省は「教職員配置の在り方」に関する調査研究協力者会議を立ち上げ、00年に「今後の学級編制及び教職員配置について」とする報告書を作成。これを受け、02年に中学校設置基準を改正し、他校との兼務が認められた。

同准教授は、答申に合わせて専任教員の兼務を先駆けて実施した北九州市の事例を調査した。同市では、週当たりの担当授業時間数が15時間以下の技術・家庭科の教員を対象に、複数校の兼務が実施された。兼務を発令された教員の中には、本務校で学級担任を受け持っていたケースも含まれていたという。

同准教授はこうした自治体の専任教員の兼務について、「やはり、担当授業時間数が少ない実技系の教員が狙い撃ちにされる。特に、技術と家庭科は二つで一つの教科となっているので、授業数はさらに少なく、美術や音楽よりも対象になりやすい」と話す。さらに、専任教員の兼務は現在もいくつかの自治体で実施されているが、表面上、免外の解消につながっていても、教員にさまざまな負担をかけてしまう。

同准教授は「複数校での授業が増えれば、当然、授業で接する生徒の数も増える。離れた学校の生徒まで責任を持って面倒を見られるのか。北九州市の場合では、兼務先の学校で授業をしても、その生徒の評価はできないとされていた。誰が評価を行うのかという評価権の問題もともなってくる」と話す。

また、「技術等の実技系教科は授業準備に時間がかかる。教員を配置する上では、そういう時間も当然考えられなければならない。器具に不具合が生じれば、次の授業までに直さなければならないといった、施設設備のメンテナンスもある程度、教員がやらざるをえない。それも教員の職務のはずだが、兼務ではそういった時間は想定されていない。これは、教員の職務をどう捉えるのかとも関わって問題になってくる」と指摘する。

丸山剛史宇都宮大学准教授

■技術を志望する学生が少ない

教員養成や採用の時点でも、技術に特有の問題がある。免外の調査研究協力者会議の場で、千葉県がその解消を目的とした取り組みとして、▽非常勤の専任講師の配置▽免許法認定講習での技術の免許取得の促進▽技術、家庭、美術のいずれかと、それ以外の教科の複数の免許状を保有している志望者について、特別枠での採用選考の実施――を行っていると報告した。こうしたケースからは、技術の免許保有者が少なく、技術ともう一つの教科の複数免許の保有を進めている状況がうかがえる。

同准教授は「中学校の教員免許を複数取得するのは、やろうと思えば不可能ではない」とした上で、「免外の解消を図る方策として、複数免許の取得は現実的な対応としてやむを得ない面はある。しかし、これでは教科としての専門性は希薄化してしまい、教員を志望する学生にとっても、将来、授業を受けることになる生徒にとってもよいとは思えない」と話す。

一方、同准教授は実感として「技術が二つ目の教科として選ばれるケースはあまりない」とも指摘する。技術の教員を志望する学生がそもそも少なく、技術コースの定員を確保するのも苦労しているのが現実だという。

その背景には、技術が中学校のみの教科であるため、教員志望の学生の中でも「技術の教員」がイメージしにくいことがある。同准教授は「学生を意識的に集めないと難しい。工業高校の生徒の間でも、『工学部はそれなりの施設や設備を持っているが、教育学部の技術コースは一昔前の設備で、工業の最先端を学べるわけじゃない』という印象があり、その中でわざわざ教育学部に行く生徒は少ない。むしろ、母校の工業高校時代が楽しくて、高校工業科の先生になりたいという学生の方が多い。だから中学校の技術となると、また志望者数はさらに下がる」と語った。

■技術軽視の日本

中学校の新学習指導要領で学ぶ技術の内容は、▽A 材料と加工▽B エネルギー変換▽C 生物育成▽D 情報――に関する技術とされている。その膨大な内容の割に、中学3年間の「技術・家庭科」の履修単位数は、175単位にすぎない。単純に家庭科と折半すると、87.5単位となり、「音楽」や「美術」よりも少なくなる。免外や複数校の兼務では、新学習指導要領の膨大な内容を教えきることは困難な状況である。

同准教授への取材から、技術における免外の多さは長年の課題となっており、その背景には、授業時間数の少なさだけでなく、免許保有者や志望者が多くないという問題があるのも分かった。技術の免外解消は、技術の専任教員の採用・配置はもちろんだが、技術の免許取得を促すような教員養成の施策や、やむをえず兼務を実施する場合の指針の策定を含め、長期的に取り組んでいく必要があるだろう。

取材の中で同准教授は、中学校の技術が軽視されている背景には、日本での技術者の地位の低さがあるとし、「日本では戦前から、技術者は一段低いものと見られてきた。そういった風潮がまん延し、『ものづくり』は学校でやらなくてもよいと思われてしまいがちだ。しかし、原発事故や環境汚染のように、仕組みを全く知らないと、いざ問題が起きたときに判断力を失ってしまう。どのようにものが作られているかを全く知らないというのは、その技術の上に暮らす市民として、本当によいのだろうか」と指摘する。

Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)を重視するSTEM教育が日本でも注目されるようになり、中学校で技術を学ぶ意義が見直されつつある。限られた授業時数を増やすのも、専任の教員を配置するのも、現実問題としてすぐに解決するのは難しいが、中学校で技術を学ぶ教育的価値は日本の教育界全体で再評価すべきかもしれない。

(藤井孝良)

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