【シリーズ 先を生きる】教師が抱える“違和感”の正体(上)

子供たちにとって真に必要な教育とは何か、自分はこれからどんな教員を目指すべきか。理想の教育を追求する中で行き当たる「このままでいいのか」という違和感。聖心女子大学文学部教育学科の永田佳之教授と、東京都立武蔵高等学校・附属中学校英語科の山本崇雄教諭、同校生物科の山藤旅聞(さんとう・りょぶん)教諭は、いずれもそんな違和感から新しい学びにたどり着いた教員。今も自己変革を続ける3人が、互いに刺激し合いながら、変容する現代におけるこれからの教育について語り合った。コーディネーターはTeacher’s Lab.代表理事の宮田純也氏。全3回。


新しい学びの魅力に導かれて

■それぞれを変えた“違和感”

宮田 今回は、「教師が抱える“違和感”の正体」というテーマです。山本先生は著書『なぜ「教えない授業」が学力を伸ばすのか』で、「現在日本の教育界には、これまでに経験したことのない大きな変化が訪れています」と述べられていますが、山藤先生は生物の教師として、そのような「変化」の訪れ、必要性をどのように感じていますか。

山藤 私は10年前に都立両国高・附属中に異動しました。その前の学校では、「オール実験」の授業を展開した結果、学ぶ楽しさに目覚めた生徒たちは、今まで寝てばかりいた授業に関心をもち、休み時間から勉強するような生徒も現れ、チャイムがなっても実験室から出ていかない状態になりました。生徒の変化にとても自信をもちました。

でも、両国に異動して、山本先生と出会いました。英語の授業で、隣の生徒同士、クラス中が英語でしゃべってる様子を見て、インスパイアされました。実験という「飛び道具」のない座学でこれができるのだから、生物でもできないわけがない。アカデミックであり、かつ能動的に生徒が学ぶ授業。それが必要だと思いました。

山本 私はもともと中学の教員で、高校受験に向けた授業に違和感を抱いていました。遊園地のアトラクションのような、自分が引っ張るだけの授業。ですが、東日本大震災が転機になりました。山藤先生と東北へ行き、海岸線でがくぜんとした。既存のものがなくなるとは、こういうことかと。明日教員がいなくなって、右往左往する生徒の姿が容易に目に浮かびました。教員がいなくても動ける生徒を育てなければ、そう山藤先生と語り合いました。

宮田 永田教授は、大学で英語の教員免許を取得していながら、英国に渡ってフリースクールの先生になられたいきさつがありますね。

永田佳之教授

永田 自分はまさに「違和感」で日本を飛び出しました。当時の管理教育に対する違和感です。管理教育の対極にあるのは自由教育の世界ですが、英国のフリースクールはまさに「子供王国」。その中に飛び込んでいきました。

ところが、自由を与えているのに不自由な子供がいました。そこでも違和感を抱いた。世界で1番自由な学校にいる、不自由な子供たち。その関係性を探究し、何が本当に必要なのか、教育の根源を考えたいと思い、教育学そのものに興味をもちました。

宮田 そして帰国し、大学院へ進んだのですね。

永田 英国で出会った人の中に、タイの教員がいました。彼ら、彼女らはタイにある孤児150人の学校の教員で、欧米の方式で自由教育をやりながら、独特の仏教の精神で教えていました。それを支援していたのがユネスコ。「ユネスコも捨てたもんじゃない」と思い、気づいたらユネスコの仕事をしていました。

山藤 英国で先生が感じた「不自由の根源」とは何だったのですか。

永田 「人間はどうやって自由になるか」、自立に深く関わる問題です。古代ギリシャでは「自由に値する人間になれ」と言いましたが、「自由を与えられて不自由になる」とは自由を生かすことのままならない心身の問題でもあります。グローバル化が進み、あらゆることが不確実な現代だからこそ、自由に値する人を育むことは教育の大きなチャレンジです。

お二人と同様、震災は私にとっても転換点となりました。原発のことなどで学生たちが右往左往する中で、答えのない問いを生きているにも関わらず、教育は十分に応えることができないままでいました。

私自身も学生に対して答えられない大学の一教員だった。その打開策を求めて、答えられる人を探し、ダライ・ラマにたどり着きました。幸いインドのダラムサラでの面会が許され、学生たちは七つの質問を携えて面会に臨みました。ところが法王は周りの人が答えられない問いに直接答えるのではなく、問答を通じて見事に導く。それが真の教員だと思いました。

山藤旅聞教諭

山藤 永田教授は教育について何らかの答えにたどり着いたのですか。

永田 教育の真の目的とは、アピアランス(表層的なもの)と神髄の間の距離を縮めることだと法王は伝えていました。戦争やテロなど、あらゆるコンフリクト(対立)は表層的な認識で起こる。しかし、それは物事の神髄ではない。法王は表層と神髄との距離を「なくす」とは言いませんでした。そうではなく、「距離を縮める」と。かつてユネスコは無知や偏見を「撲滅」するということを強調しましたが、ゼロにすることを求めるのではない。

■生き生きと学ぶヒントは社会とのつながり

宮田 お三方が抱かれた「違和感」、それをきっかけに目指したものについてお話しいただきましたが、その方向性は共通している部分が大きいと言えるでしょうか。

山本 永田教授のお話を伺って、直感的に間違いないと思いました。中学や高校と比べて大学はより社会との接点が近く、神髄が見えやすいところ。「テストで何点とった」「模試で偏差値がいくつだった」は表層的。どうでもいいとは言わないが、それをどうやって本質的な自立、神髄に近づけるか。これからの大学は入試改革で点数化がなくなっていく。よりリアルな社会を見せながら神髄に近づいていくことができる。

宮田 「社会を見せる」取り組みは、山本先生や山藤先生も進められているかと思いますが。

山本崇雄教諭

山本 社会に触れさせる取り組みは、山藤先生のほうが動き出しています。先生の授業で、武蔵の高校生たちは自分で考えて動き始めています。生物で学んだ後、文化祭で出た廃材をとっておいて、ニスを塗り直して翌年また利用したり、フードウェイスト(食品廃棄)に関心をもってスーパーで独自に調査したり。宿題や課題でも何でもなく、自発的に動いています。今まで学校は、子供たちの自発的な活動を阻んできたのではないでしょうか。答えのある課題にばかり取り組ませたり、自主的に外の世界と関わろうとするのを「迷惑だから」と止めたり。子供のやりたいことを止めてしまっていたように感じます。

山藤 SDGs(持続可能な開発目標)の授業では、17の課題を自分の身近な課題として捉えることができるようにしています。教室の短いチョーク、あふれるゴミ箱。「残飯をなくす」という表層的なことでなく、自分なりの視点をもって身の回りを見直すことで、生徒たちが内発的に世界の課題に気づきました。酸性雨や温暖化など、その知識だけで終わるのではなく、身につけた知識を使って、次につなげていく。それが、心が動く本物の体験だと思います。

宮田 従来の答えのある教育は、授業の中で収斂(しゅうれん)していくものだと思いますが、そうではなく発散していくのですね。

永田 お二人のやり方は単純に拡散だけというだけではなく、問答に近いですね。ダイバージェンス(拡散)しながら、やがてコンバージェンス(収斂、収束)していく。その両方があるのが教育ですから、拡散だけで終わらないようにさまざまな準備をされ、セーフティーネットも作られていることと思います。学んだことをもとに拡散していきながら、やがて自分の中で収斂していく。生徒の意識が広がるベクトルを教員が出し、生徒は導かれながら興味関心を収斂させ、次のレベルへ進んでいく。

山本 その興味関心を増やしていくことが役割だと思います。私が両国に赴任したとき、答えが一つという学習をしていくと子供たちの笑顔が消えていくことに気づきました。教員は子供の笑顔が段階的に消えていくのを6年間かけて見ることになる。では、どういうときに笑顔になるかというと、「本物の学びに触れたとき」。真剣さが違います。先生がいるかいないかはどうでもよくなります。

そのために英語の教員として何ができるかを考え、「絵本を作ろうプロジェクト」を思いつきました。本物の学びですから、本物の出版社の社員たちを連れてきます。10人くらいが集まりました。子供たちがアウトプットしたものを、本物の人たちに見てもらうわけです。子供の心に火が付きます。「自分の案が採用されて、本になったらどうしよう」と言いながら、真剣に取り組みます。そうしたら教育はいらない。応援していればいいのです。

同様に、動画の作成や発信なども、本物のプロに来てもらってアウトプットさせます。自分のアイデアが社会をちょっと変えるかもしれない、そう気づけば勝手に学び出します。調べ方を教えれば自分たちで調べます。

プロフィール

永田 佳之(ながた・よしゆき)聖心女子大学文学部教育学科教授。大学卒業と同時に中東およびイギリスに滞在。国際基督教大学大学院教育学研究科で博士号取得。ユネスコ協同センターで国際理解教育の推進に携わる。2007年から現職。ESDや気候変動などの地球規模の課題をテーマに、世界各地の学校現場を回る。共著に『新たな時代のESD: サスティナブルな学校を創ろう―世界のホールスクールから学ぶ-』(明石書店)など。
山本 崇雄(やまもと・たかお)東京都立武蔵高等学校・附属中学校教諭(英語)。都内公立中学校、東京都立両国高等学校・附属中学校を経て、2017年から現任校。検定教科書NEW CROWN ENGLISH SERIES(三省堂)編集委員。自律した学習者を育てるアクティブ・ラーニングの「教えない授業」を実践。著書に『なぜ「教えない授業」が学力を伸ばすのか』(日経BP社)。
山藤 旅聞(さんとう・りょぶん)東京都立武蔵高等学校・附属中学校教諭(生物)。持続可能な社会を実現する行動者の育成を目指す。JICAと連携した授業や、東京都檜原村における里山フィールド教育といった企画のほか、全国の学校や大学、企業への「SDGs出前授業」などを実践。学校の枠を超えたSDGs教育の普及に尽力している。国連大学主催の全国ユース環境ネットワークやNHK高校講座の講師も務める。