【シリーズ 先を生きる】教師が抱える“違和感”の正体(下)

子供たちにとって真に必要な教育とは何か、自分はこれからどんな教員を目指すべきか。理想の教育を追求する中で行き当たる「このままでいいのか」という違和感。聖心女子大学文学部教育学科の永田佳之教授と、東京都立武蔵高等学校・附属中学校英語科の山本崇雄教諭、同校生物科の山藤旅聞(さんとう・りょぶん)教諭は、いずれもそんな違和感から新しい学びにたどり着いた教員。今も自己変革を続ける3人が、互いに刺激し合いながら、変容する現代におけるこれからの教育について語り合った。コーディネーターはTeacher’s Lab.代表理事の宮田純也氏。


自己変容する教員、変容していく学校

■子供たちと互いに学び合う、探究する。そして、成長する

宮田 先生方が話されている、子供たちが自律した新たな学びでは、教科書がゴールという教え方は厳しいですね。

永田佳之教授

永田 お二人は、教科書を教えずして、教科書で教えているのでしょうか。その方法を聞かせてほしいです。

山本 英語なので教科書は使います。でも、学びが広がっていくようにしたい。標準化する答えは多様ではないですから、模範解答がないように、自ら問いを立てるような学びにしていく。それに対する自分なりの答えも一人一人違います。そういう学びが面白いと感じたら、もっと面白い学びへ進んでいける。教科書は使いますが、その出口、ゴールは「高い天井」です。

宮田 山本先生がそう考えるようになったきっかけとは。

山本 山藤先生の「問いを立てさせる授業」ですね。生徒に授業をさせていて、生徒たちはいろいろなワークシート作っていました。「生徒が先生になる」。問いから始まる授業で、それも自分たちの生活に落とし込んだ問いです。そのために教科書を使いますが、問いを立てるのは子供たちです。私が思いつく問いよりも、ずっとずっと面白いものを考えつきます。山藤先生とも「生徒にかなわなくなってきた。抜かされてきている」と話していました。でも、だからこそ「がんばろう、互いに学び合おう」となっていく。

山藤 そう簡単に追いつかせない。でもあるとき、「参った」と認める。

山本 普通、伝統的な先生は分からないことを聞かれることを嫌がると思いますが、私は「面白い」と感じます。

永田 従来は「いい先生=答えを知っている先生」でした。これからは、答えのない問いを子供たちと一緒に探究できる先生が求められる。お二人に共通しているのは自己変容ですね。その背景にあるのは興味や好奇心です。興味や好奇心があるから自己変容する。今、魅力的な先生とは、自己変容する先生です。そして、魅力的な学校とは、常に成績や数値ターゲットを掲げて達成する学校ではなく、常に変容している学校です。これから求められる学校では、教師が生徒と一緒に変容していく学校ではないでしょうか。ユネスコはESD(持続可能な開発)のための教育のセオリーの一つとして、自己変容と社会変容のための学習を強調しようとしています。お二人はそれを体現していくでしょう。共同体も職員集団も、教員も変容する。

山藤 私がこういう考え方になり始めたのは、ブータンに行った経験が大きいです。概念がひっくり返されました。自分が内省的になっていく瞬間があり、自分はなぜ生きているのか、どうして教育がしたいのか、自分の原体験をブラッシュアップしたいと考えるようになりました。今も、どんなに忙しくても大自然の中に自分を放り投げることや、学校外の人と交流する時間、さらには家族と一緒にゆったりとした時間を通じて、自分の倫理的なコンパスを見直す時間を大事にしています。

山本崇雄教諭

山本 こういう活動がこれからの教員には必要だと思います。自分を常にトランスフォームし、変容する。それが、教員としてグッドラーナーであることだと思います。今の教員の働き方では時代遅れです。週の半分は社会に出て、自ら経験し、学ばないといけない。

永田 アドビシステムズが昨年6月に、報告書「教室でのZ世代:未来を作る」を発表しました。Z世代とは12歳から18歳を指しますが、自分は創造的だと感じる子供の割合が、米国47%、ドイツ44%に対し、日本は8%だったそうです。子供は大人の映し鏡ですから、教員の結果も同様で、全体平均27%に対し、日本は2%でした。クリエーティブな学びに早く移行しなければならない、危機的状況です。

山藤 私は、今日しか伝えられないリアルタイムな話を、1週間に1度はすることをノルマとしています。プレゼン5分です。でも、生徒のフィードバックを見ると、「めちゃくちゃ楽しみ」と書いてくれています。そのためには自由な時間が相当必要で、働き方改革をしないと、教え方改革もできないと思っています。

永田 教育の真髄の追求ですね。

山藤 どの学校でも、夜の7時や8時まで電気がついています。でも、笑顔の教員でないと生徒を笑顔にできない。先生たちが疲れていてゆとりがないと、子供のいいところを見つけることができません。今の1対40なら、40人の生徒の多様性をOKとしないと。自分の物差しで狭めないように。そのためには、教員にゆとりが必要です。

■既存のものを壊し、新しく生み出す

宮田 山藤先生からも「働き方改革」のお話が出ましたが、教員の働き方、ひいては学校というシステムに対する違和感はありますか。

山本 これから子供たちに身につけさせたいのは、「マルチタスクタイムマネジメント」を行う力。つまり、自分で時間を管理して、折り合いをつけながら学ぶ方法を身につける。そうすると、何をどういう順番で学ぶか考える必要がある。「これは学校で協働しながらでないとできない」「これは家で一人でできる」、そんな判別を自分で行いながら、必要な学習が3学期までにはできるようになるよう、学び方を教えていくのです。リアルな社会と同じで、少しずつ手を抜いて折り合いを付けていきます。
働き方改革も同じです。限られた時間しかないのだから、上司ではなく自分が決めていく。リアルな社会でそれをやるために、安心して失敗できる場所。それが学校です。今は、タイムマネジメントは先生がやっています。でも、「教えない授業」でも「アクティブ・ラーニング」でも、大事なのは見守ることです。

宮田 アクティブ・ラーニングの進め方は模索が続いていますね。

山本 アクティブ・ラーニングとか、探究が大学入試につながらないというのは、教室の学びの目的が点数をとることになっているからではないでしょうか。標準化する学びでは、「教えない授業」も「アクティブ・ラーニング」も効果は出ません。

宮田 最後に、みなさんはこれからどんなことに挑戦したいですか。

山本 自分の未来教育デザインを、全国に発信していきたいです。もやもやしている教員と子供を、未来につなげていきたい。

山藤旅聞教諭

山藤 SDGsの17の課題に、子供たちがいつでもアクセスできるようにしていきたい。学んだことを生かして、次にどうするかという窓が17あって、それぞれ選択して次の学びにつなげていくようなプロジェクトを作っていきたい。

永田 昨秋誕生したばかりですが、聖心女子大学のグローバル共生研究所を拠点に、新しい学びを発信していきたい。そして、持続可能な社会に向けた学校文化のあり方を問い直し、学校の存在そのものを持続可能にするためにはどういう教員養成が必要か考えていきたい。

宮田 今回の対談は、研究者と実践者とのコラボでした。研究者がアップデートしたものを、実践者が実現していく。理論と現場の理想的なあり方の一つではないでしょうか。

永田 刺激し合いながら、高め合うことができました。

山本 これまでの取り組みを言語化できて、価値づけられたことが大きかった。

山藤 自分の経験値が増え、新しいアイデアに結びつきました。

(おわり)

永田 佳之(ながた・よしゆき)聖心女子大学文学部教育学科教授。大学卒業と同時に中東およびイギリスに滞在。国際基督教大学大学院教育学研究科で博士号取得。ユネスコ協同センターで国際理解教育の推進に携わる。2007年から現職。ESDや気候変動などの地球規模の課題をテーマに、世界各地の学校現場を回る。共著に『新たな時代のESD: サスティナブルな学校を創ろう―世界のホールスクールから学ぶ-』(明石書店)など。
山本 崇雄(やまもと・たかお)東京都立武蔵高等学校・附属中学校教諭(英語)。都内公立中学校、東京都立両国高等学校・附属中学校を経て、2017年から現任校。検定教科書NEW CROWN ENGLISH SERIES(三省堂)編集委員。自律した学習者を育てるアクティブ・ラーニングの「教えない授業」を実践。著書に『なぜ「教えない授業」が学力を伸ばすのか』(日経BP社)。
山藤 旅聞(さんとう・りょぶん)東京都立武蔵高等学校・附属中学校教諭(生物)。持続可能な社会を実現する行動者の育成を目指す。JICAと連携した授業や、東京都檜原村における里山フィールド教育といった企画のほか、全国の学校や大学、企業への「SDGs出前授業」などを実践。学校の枠を超えたSDGs教育の普及に尽力している。国連大学主催の全国ユース環境ネットワークやNHK高校講座の講師も務める。

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