給特法=定額働かせ放題? 内田良名古屋大学准教授×斉藤ひでみ公立高教諭インタビュー

月額給与の4%に相当する額を基準として教職調整額を支給する代わりに、時間外勤務手当や休日勤務手当の支給を行わないことを定めた「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(給特法)」。学校における働き方改革をめぐる議論でも、教員の長時間労働の一因として問題視されている。この給特法の見直しを求め、署名活動を始めた高校教員の斉藤ひでみ氏(仮名)と、さまざまなデータを基に部活動や働き方の問題を指摘している内田良名古屋大学准教授が、給特法の問題を世に問う『教師のブラック残業―「定額働かせ放題」を強いる給特法とは?!―』(学陽書房刊、1600円+税)を緊急出版した。なぜ今、給特法を見直す必要があるのか。2人へのインタビューからその核心に迫る。


■給特法が諸悪の根源
――給特法が問題だと感じたきっかけは。

斉藤 教員として最初に赴任したのは定時制高校で、生徒の主体性を尊重し、授業を大切にしていこうという雰囲気があった。部活動も生徒の意向を尊重し、やりたい生徒がやりたいだけ取り組むもので、理想的な教育現場だった。ところが異動先の学校では、授業研究をする時間的余裕はなく、部活動指導や入試に向けた補習、模試などで土日も追われている。雑多な仕事に疲弊する中で、なぜこんな状況になってしまったのか考え続けていた。

そのとき、内田准教授の『ブラック部活動―子どもと先生の苦しみに向き合う―』(東洋館出版刊)の中にあった、「給特法が諸悪の根源だ」という言葉がとても印象深かった。それ以来、給特法について調べ、学校現場が抱えている矛盾の多くが給特法の問題から端を発していると気付いた。

次から次へと仕事が振られるが、それらを全て行うと、到底勤務時間内には終わらない。しかし、勤務時間外の補償は支払われない。管理職に「これは職務命令ですか」と聞くと、「職務かどうか分からないが、力を合わせてやってほしい」と言われる。責任の所在がどこにもない。部活動の指導はその最たる例だ。

――管理職や一般の教員は、給特法についてどれくらい理解しているのか。

斉藤 働き方改革の流れの中で、教員の間にも給特法について認知が広がっているとは感じている。ただ「そんなこと言っても、もう仕方がない」というような雰囲気もある。

内田 教員が自分の仕事の休憩時間や残業代が出ない理由を学ぶ機会はまったくないと言っていい。多忙だからなおのこと、法制度のことをじっくり考える時間はない。

部活動は学習指導要領上、教育課程外の活動となっている。しかし、私が2017年度に実施した全国調査で、「部活動は教育課程外か課程内か」を中学校教員に聞いたところ、全体の2割は「教育課程内だ」と誤って認識していた。これは校長でもほぼ同じ割合だった。校長ですら、確実な間違いを他の教員と同じようにおかしているのでびっくりした。そんな状況で部活動の顧問の拒否などできるわけない。

内田良名古屋大学准教授(奥)と高校教員の斉藤ひでみ氏(手前)
■未払い残業は年間9千億円
――中教審の働き方改革特別部会でも、給特法の議論は本格化していない。

内田 給特法改廃の議論が難しい最大の理由は、「お金がないから」だ。給特法によって教員に支払われていない残業代は年間9千億円に上る。給特法ができて以降、半世紀にわたって教員の時間外労働が増えてきた。本来、労働時間をタイムカードで記録したり、労務管理をしっかりしたりしていれば、時間外労働時間の増加を抑制できたかもしれない。それが「タダ働き」によって、いつしか9千億円分の「未払い残業代」にまで膨れ上がってしまった。

――仮に給特法が廃止されても、9千億円の残業代を国も急に負担できない。給特法を見直すとしても、緩やかな形での見直しを検討する必要があるのでは。

内田 さまざまな施策を組み合わせる必要がある。ただ、労働しているものを労働と見なすという最低限のことさえ認めていない法律があることは異常事態だ。まだ残業が少なかった時代はある程度、合理性があったかもしれないが、法律に根本的な欠陥がある。

自民党が提案している変形労働時間制にしても、閑散期は残業がないわけではない。ましてや教職調整額は完全に残業を残業と見なさない仕組みを追認するものだ。

斉藤 変形労働制が導入され、給特法が変わらないと仮定すると、教員の働き方はあまり大きく変わらない。むしろ部活動の指導が業務として正当化され、今より大変になるかもしれない。

――給特法で改正すべき最優先課題は。

斉藤 まずは教員の時間外の部分を「労働である」と正式に認めてもらう。そうしないと管理職の労務管理が行われない。時間外勤務を管理職が責任を持って把握し、責任を持って削減していく。それさえ変われば、教員の労働時間は少しずつ減っていくのではないか。

内田 管理職の中には「遅くまで頑張ってこそ教員だ」と若手教員に言う人もいると聞く。これは、管理職に人件費を考える発想がない証左ではないか。金と時間を気にせずにマネジメントしてしまう空気がおかしい。

内田准教授は「給特法は時間管理の視点を学校現場から奪った」と指摘する
■もしも給特法が変わらなかったら
――給特法が変わらないまま、教員の働き方改革が進んでいけば、どんな問題が起こり得るか。

内田 ずっと危惧しているのは、教員の過酷な労働環境に社会的な関心が向かなくなったときだ。教育問題は長らく教員バッシングの時代だった。いじめ、不登校、わいせつ事件、体罰など、教員が批判の矢面に立たされてきた。その中でマスコミはこの2年ほど「先生は大変だ」と言ってくれている。この奇跡的な機会に現場の教員はもっと声を上げないといけないが、教員による大きな運動までにはなっていない。

もしもこの問題に対する社会的な関心がなくなり、給特法が残ったときの「真っ暗闇」を想像してほしい。教員が声を上げたということが、この本の重要なメッセージだ。しかし、もっと声を上げないといけない。

給特法を廃止し、労基法第37条(時間外および休日の割増賃金の支払い)が適用されるようになったら、一般的な労働者の労働問題と同じように議論されるようになる。この運動をサスティナブルにしていくには、今のうちにある程度、民間の働き方改革の世論ともつながっておく必要がある。

――高度プロフェッショナル制度を含む働き方改革関連法の議論は、教員の働き方改革と関連するか。

内田 高プロと教員の働き方は「定額働かせ放題」という意味でよく似ている。

斉藤 まさに給特法の制定時にも、今の高プロと同じような議論が国会で行われていた。半世紀も前の問題を再現しているかのようだ。もちろん、二つの法律はその趣旨が違うが、現実問題としてそっくりな運用になっている。このままでは教員も高プロの対象でいいという話にならないか心配だ。だからこそ、ちゃんと時間外労働に上限規制をかけなければいけない。

『教師のブラック残業―「定額働かせ放題」を強いる給特法とは?!―』
■教員は何ができるのか
――教員に給特法に対する意識を持ってもらうには、どうすればいいか。

斉藤 まず当たり前だが、給特法を知ることだ。その上でどうするか。「おかしい」と発言したり、行動したりできるか。多くの教員が、どうにもならないと受け入れてしまったり、諦めてしまったりしている。でもそうじゃない。今後は、地道に各自治体で労働組合を復活させたり、労働運動に特化した組合を作ったりしていく必要がある。

私は給特法の見直しを求めて署名活動(goo.gl/FUarrQ)をして、今日までに1万7000筆が集まった。「給特法を変えてくれ」という声が確かに存在している。国の動きを注視しながら、給特法がほとんど変わらないとなったときには、この署名を持って強く訴えたい。

――教員が今から学校で行動できることとは。

内田 教員の働き方の悲惨な状況はネットやツイッター上で匿名の本音が語られ、共感され、広がってきた。それはリアルな社会、例えば職員室で隣に座っている教員や自分と考えが近い人に、一言伝えるのと変わらない。世間の関心が去ってしまう前に、職場で自分に近い人たちからこの話題を共有し、教員の働き方改革を盛り上げてほしい。

斉藤 生徒に手本を見せる職業である教員として、言わなければいけないことは勇気を出して言わなければならない。多くの先生に、教員として、これからの社会をよりよくしていくために必要な言動を少しでも発信してもらいたい。特に若手教員やこれから教員になる人が、もっと本音を語り、行動していくべきだ。若い教員が動かなければ、学校教育の未来はない。


【プロフィール】
〇内田良(うちだ・りょう) 名古屋大学准教授。専門は教育社会学。部活動指導の負担や教員の長時間労働など「学校リスク」を広く発信している。著書に『ブラック部活動』(東洋館出版社)『教育という病』(光文社)。
〇斉藤ひでみ(さいとう・ひでみ) 公立高校教員。生徒の部活動の入部強制、教員の顧問強制など、部活動の在り方を疑問視し、ツイッターで発信し始める。志を共有する教員と共に、2017年4月に「部活改革ネットワーク」、同年9月に「現職審議会」を設立し、国への提言を行う。18年2月に給特法の改正を求める署名活動を始め、1万7000筆が集まった。

◇ ◇ ◇

『教師のブラック残業 「定額働かせ放題」を強いる給特法とは?!』(学陽書房刊 6月13日発行 1600円+税)/学校の過酷な労働をさまざまなデータから浮き彫りにしながら、その背景にある給特法の問題をあぶり出す。給特法によって労働時間が把握されないために、教員の過労死認定への高いハードルになっている実態や、労働の観点からの教員の働き方の問題点を指摘する。