教育実践者有志が集う「教育長・校長プラットフォーム」(上)

より良い教育の実現に向けてチャレンジしようと産学官の有志が結集し、今年3月に設立された「教育・学びの未来を創造する教育長・校長プラットフォーム」。実践者がつながり、試行的に取り組む集まりとして注目されている。立ち上げたのは、文科省の若手職員ら。事務局の運営などを、文科省の仕事ではなく「課外活動」として行っているという。設立のきっかけや展望などを聞いた。


■実践者同士がノウハウを惜しみなく共有する場
――「教育長・校長プラットフォーム」を立ち上げた理由は。

佐藤 私は入省10年目なのですが、教育現場で良い取り組みがあまた起きていることを、身をもって知る機会が増えてきました。一方で、良い取り組みをしている先生同士で、そういった動向が知れ渡っているかというと、意外とそうでもない。

そこで、良い取り組みをしている実践者同士が、ノウハウを惜しみなく共有する場を作り、どんどん広げていきたいと思ったのが、このプラットフォームを作るきっかけです。私たち3人と、現在は地方自治体に出向している先輩の計4人が中心となって立ち上げ、現在は若手10人弱で運営しています。

――立ち上げから3月の総会に至るまでの経緯は。

佐藤 昨年の秋口に話がでて、すぐに「やろう!」と。その日のうちに打ち合わせて始動しました。

弓岡 現場の先生方や省内の上司・先輩に構想をお話しすると、応援してくださる方が予想以上に多く、励まされた思いで「これはやらなきゃ!」と突き進みました。

堀川 これは文科省の仕事としてではなく、プライベート・課外活動としてやっています。実は3月に行った総会の案内も、告知手段がFacebookしかなかったので、イベントページを作って投稿しただけなのです。発起人の方々がシェアしてくださって、そこからまた広がって……。口コミだけだったのですが、総会のイベントに「興味あり」としてくださった方が約1700人にもなっていて驚きました。

プラットフォームの発起人・アドバイザー
■大事にしたい「地に足をついたチャレンジを広げる」ということ
――発起人やアドバイザーは、どのように決定したのか。

佐藤 「こんなことをやろうとしています」という資料を持って、省内の先輩や、学校の先生方にも直接話を聞きにいき、どのような方にお願いすれば良いかアドバイスをいただきました。それぞれの人脈で集めた情報を集約して、発起人、アドバイザーの方々にお願いに上がりました。

堀川 発起人やアドバイザーの方に話を持っていった際、とにかくポジティブな反応をいただけたのがうれしかったですね。

――同プラットフォームのキーワードである「地に足のついたチャレンジを広げる」「答えは現場にある」などには、どんな考えが。

佐藤 「地に足をついたチャレンジを広げる」というのは、われわれが大事にしていきたいこと。それぞれの先生方が置かれた環境によって、課題も違えば、必要となる解決策も違っている。しかし、どのような教育課題を抱えていても、どこかに解決策や、頑張っている先生がいるはずで、「答えは現場にある」はずです。

いろいろな山で、いろいろなチャレンジが大きくなっていくような、地に足のついたチャレンジを大事にしていこうという議論を常にしています。

3月に行われた総会には約140人の教育実践者が参加した
■自分の取り組みや悩みを共有する場がこれまでなかった
――3月に行われたはじめての総会の反応は。

佐藤 約140人の方にご参加いただきました。内訳は、教員や教育委員会関係者が3分の1強、そのうち管理職級が20人弱でした。あとは教育関係企業や教育関係NPOが3分の1、他に民間企業や学生の方です。北海道や青森県など遠方からもご参加いただきました。

堀川 総会では、発起人による実践紹介、アドバイザーからの研究発表のあと、30~50人程度に分かれて「今後求められる学力とは、学校で育むべき学力とは」「これからの時代の教員像」「産学官連携の在り方~非認知スキルの測定とEBPM推進に向けて~」「誰もが個々の力を最大限伸ばすための特別支援教育や不登校支援等の在り方」などをテーマに分科会を行いました。

佐藤 分科会では「自分の自治体で、この取り組みをやるならどうすれば?」「民間企業の立場からいえば……」など、意見のやり取りも活発で大変盛り上がったのですが、何より時間が足りなかったという声を多くいただき、そこが一番大きな反省点ですね。

弓岡 でもこうした意見が多かったのは、高いニーズの表れでもあると考えています。自分の自治体や企業などでの取り組みを伝えたいという思いと、そうした取り組みに対して、他の人たちから意見が欲しいと思っていらっしゃることが、とてもよくわかりました。

(左から)堀川氏、佐藤氏、弓岡氏
■民間企業とのつながりを作る場としても
――総会の参加者の反応で印象に残ったことは。

佐藤 例えば、発起人の実践例を聞いて、校長や教育長の権限で「こんなにやっていいんだ」「こんなにできるんだ」という反応がありました。

さまざまな意欲的な取り組みを行って、保護者や地域から文句を言われるどころか、成果を上げているということを、正しく知る。安易な「改革」論ではなく、現行制度の中で教育現場の意欲と工夫によって、素晴らしい実践が実現できるのを、参加した方々に知っていただけたのがうれしかったですね。

弓岡 民間企業からもたくさんご参加いただきましたが、現場の先生たちから「こんなに教育に対して思いを持って商品やサービスを提供している人たちがいるんですね」という反応も多くいただきました。

教育の本質に向き合い、子供の学びと育ちのためにいろいろな取り組みをしているのは、もう官だけじゃなく、民のところにもたくさんいらっしゃる。恐らく両者はまだそんなにお互い知り合っていないし、信頼をベースにした関係はまさにこれから構築していくことになると思います。

官でも民でも、心ある人たちが教育に向かってきてくれているので、このプラットフォームでその縁をつなげていけたらと思っています。

堀川 この取り組みを通じて、多くの素晴らしい校長先生や教育長をはじめとする教育関係者の方々との出会いがありました。全国にはもっともっとたくさんのすごい実践者の方々がいるのだろうと思うとワクワクします。

3月18日の総会において採択されたチャーターでは、「チャレンジする実践者の集まりであること」「開かれた、ワクワクする場であること」といった価値がうたわれていますが、9月15日、16日に予定している合宿は、教育者・教育関係者の方々が思いや実践の「火種」を持ち寄り、刺激し合い、「火種」を大きくしていくような場にしたいと考えています。新たに参加してくださる方々と一緒に多くのことを議論できたらと楽しみにしています。

◇ ◇ ◇

■「教育・学びの未来を創造する教育長・校長プラットフォーム」とは――

産・学・官の実践者同士が生きた教育活動を通じて、互いに学び合うことを目指し、文科省若手有志職員が事務局の中心となって今年3月に設立された。

発起人・アドバイザーに、東京都杉並区教委の井出隆安教育長、長野県飯田市教委の代田昭久教育長、埼玉県戸田市教委の戸ヶ﨑勤教育長、広島県福山市教委の三好雅章教育長、東京都千代田区立麹町中学校の工藤勇一校長、神奈川県横浜市立サイエンスフロンティア高校・付属中学校の栗原峰夫校長、東京都足立区立皿沼小学校の土肥和久校長、千葉大学教育学部の藤川大祐教授、福井大学連合教職大学院の松木健一教授、熊本大学教育学部の苫野一徳准教授。

毎年度、冬・春の総会と、夏の合宿を軸に、都度、テーマを設けた分科会なども行っていく予定。今後は9月15日、16日に合宿を予定している。詳しくはホームページFacebook


■プロフィール

〇文科省初等中等教育局初等中等教育企画課 佐藤悠樹(入省10年目) 座右の銘は「無知の知」。答えは常に現場にあるはずで、自分がまだまだ何も知らないだけ、ということを常に意識し、謙虚に学び続けたいという思いから。

〇文科省大臣官房人事課 弓岡美菜(入省10年目) 座右の銘は「三方よし」。予測困難で複雑な時代だからこそ、皆が幸せになれるような道が無いか模索する努力を放棄せず、知恵を出していきたいという思いから。

〇文科省研究開発局原子力損害賠償対策室 堀川拓郎(入省9年目) 座右の銘は「足を動かす」。主役である先生方のチャレンジを黒子としてサポートする役割を担えるよう、現場に足を運び、よりよい教育や学びの実現に向けて学び続けたいという思いから。