教育実践者有志が集う「教育長・校長プラットフォーム」(下)

産学官の有志が結集し、より良い教育の実現に向けてチャレンジする「教育・学びの未来を創造する教育長・校長プラットフォーム」。事務局の中心である文科省の佐藤悠樹氏、弓岡美菜氏、堀川拓郎氏へのインタビュー後半は、同プラットフォームの可能性や、それぞれの教育への考えを語ってもらった。


■実践の具体的な中身まで踏み込んで議論できる
――「教育長・校長プラットフォーム」だからできることは。

佐藤 その地域ごとの「地に足のついたチャレンジ」というのは、具体的な中身や背景にまで踏み込んで議論をしないと意味がない。そこまで踏み込んでやれる場というのは、珍しいと思います。総会でも、皆さんが自分たちの地域に引き寄せてお話ししてくださって、「うちでは……」という声が多発していました。

堀川 校長先生や教育長の方々が集まる場として、オフィシャルに集められた行政がやっている研修などはあります。一方で、このプラットフォームは、参加者全員がプライベートで、自由な意思で参加されています。だからこそ本音の話や、フランクに語り合う雰囲気ができることもあるのではないかと思っています。

佐藤 対外的には言いづらいけれど本質的な課題が誰しもあります。「うちの自治体ではこんなに頑張っている」という話だけではなく、成功の裏に潜む産みの苦しみや、進めていく上での悩み、壁を乗り越えるノウハウを共有することで、問題解決に向けて動き出すということもあるのではないでしょうか。

弓岡 あとは、改革者だけを指向しているわけではないのが、このプラットフォームのいいところだと思っています。教育界で際立つ存在である改革者の方も、現場で顕在化している課題に対して粘り強く実践に取り組まれている先生方も皆が参画でき、一緒にチャレンジしていきたいと思える、開かれた場にしていきたいですね。

堀川 発起人の方々がお手本であるわけではなく、全国の先生方や教育委員会の方たちも同じ立場で、同じ土俵で、同じ高さで議論できるということを、このプラットフォームではとても大切にしています。真の「協働者」であること。これは、発起人の方々も強く思っていらっしゃいます。

■教育現場は多様だからこそ、解決策をカスタマイズしていくべき

――これまでの活動で感じたことは。

堀川 それぞれの置かれている環境によって、直面している、本当に頑張っていきたいという課題が違う。みんなのロールモデルのような方がいるわけではなく、ある先生の取り組みが、ある先生にとってすごく参考になるモデルとなる。

この人ともっと議論したいとか、お互いに学びたいと響き合う関係は、それぞれ違うのだということを実感しています。

佐藤 教育長同士でも、お互いのやり方に驚くのですよ。「あ、そちらではそういうやり方しているのですね。でもうちでは……」となります。

教育現場は本当に多様なので、課題も多様、運用も多様。地に足のついた実践を、自分の地域や学校に引き寄せてやることが必要なのだと思います。

弓岡 例えば自分の学校や地域で、他の実践を取り入れる時、暗黙知の部分をどれだけ共有できているかということが重要ではないかと思っています。

外側だけまねしても、それぞれの人事慣行や背景、周りの環境など、いろいろなことが合わさって、その取り組みの成果として表出する。そこまで分かって初めて、その取り組みの本質が見えてきます。それくらい密に情報交換できる場こそが必要なのだと思います。

堀川 解決策は常にカスタマイズしなくてはいけないのだと思います。ある解決策がさまざまなところでそのまま適用できるかといえば、そんなことはたぶんない。同じ先生でも、こっちの学校でうまくいったものが、異動先の学校ではうまくいかない。究極、こっちのクラスではうまくいっても、こっちのクラスではうまくいかないケースもある。

紙のグッドプラクティス集で「ここはいい取り組みをやっている」とか、「この課題に対して、こんなことをやっているらしい」と読んでも、それを自分のところの実践にすぐつなげられるかというと、ギャップがある。だからこそ顔を突き合わせて本音で議論したり、人間関係を作ったりということが必要なのかなと思っています。

7月7日に行われた分科会でも活発な議論が行われた

■管理職は、未来の学校や教育を作っていける
――今後、プラットフォームで取り組んでいきたいことは。

佐藤 若手や中堅の先生方にもどんどん参加していただきたいです。その方々には、校長、教育長は教育現場のトップですが、「自分たちがその立場になったときに、どういうことができるんだろう?」という視点で参画してほしいですね。未来の画を見せるという意味でも、循環が行われる仕掛けは作っていこうと思っています。

弓岡 実際に総会では、こちらから発信していなくても、若手や中堅の先生方も参加してくださっていて、とてもうれしかったですね。

管理職の仕事は大変な仕事ですが、その分やれることもたくさんあるし、未来の学校を作っていける。これからの教育を作っていくのは、若手や中堅の先生方です。だから校長や教育長のような管理職に憧れを持ち、「こんなことができるんだ」「ここまでできるんだ」と思ってくださる人を増やしたい。

佐藤 われわれからも校長や教育長に、自分の右腕になるような方々を積極的に巻き込んでほしいとお願いしています。右腕の方々は、実践までの苦労やプロセスを一番分かっていて、現場はそこを一番知りたがっています。そういう方同士が、つながっていってほしいですね。

弓岡 私の両親は教員なのですが、両親を見ていても教員の多忙さは昔より明らかに増しています。それによって教員にとっての誇りや、やりがいの火が少し消えかけているとしたら、その火をもう一度大きくしたい。そのために何ができるかを考えたら、教育に対する真摯(しんし)な思いを持っている人が集まり、お互いに火をともし合うことだと思うのです。

安心して心を開ける、いろいろなことが話せる場を、校長や先生方、教育長の皆さんで作れば、自(おの)ずとこの国の教育はもっともっと良くなってくる。そして、そんな先生たちを見て育つ子供も、もっともっと生き生きしてくると思います。

文科省の多くの若手有志職員がこの取り組みを支えている

■国が現場から勉強し、一般化して全国に広める
――文科省の仕事と、プラットフォームでの経験の結びつきは。

佐藤 この活動で、いろいろな方と議論させていただく過程で、多くの学びを得ています。多くの現場の実践やそれを行っている「人」を実際に知っているということは、回り回って国レベルで教育施策を考えていくときにも、絶対に参考になります。

これからは国が現場から勉強して、その取り組みを一般化して全国に広めるという視点がますます重要になっていくだろうと、これまでの業務を通じて感じています。

弓岡 行政官の仕事は、一般的にはやはり現場から遠いのです。メインは制度だったり、予算だったりするので、それが最終的には現場や教育の本質につながっていると実感するには少し時間がかかる。

でもプラットフォームは直接現場とつながれて、思いを持っている校長や先生方、教育長の方々と、もちろん皆さんの胸を借りながらではありますが、自分の思う教育の在り方について議論ができる。その経験を経て職場に戻ると、自分が何のために、誰のために、今、目の前の仕事をしているのかが分かります。

文科省の後輩たちもたくさんプラットフォームの活動を手伝ってくれていて、そのこと自体のうれしさとともに、今後文科省の仕事においても良い影響が出てくるのではないかと個人的には思っています。

左から堀川氏、弓岡氏、佐藤氏。入省年次も近く、これまでも多くのボランティア活動を行ってきている

――教育への思いと、今後の目標を。

弓岡 一人一人の人生がより豊かになるためにあるのが、教育だと思っています。誰もが自由に自分の人生を生きることができ、それを尊重し許容する社会であること。漠然としていますが、教育を通じてそうした社会や未来を築いていけたらいいなというのが私の願いです。

目的を見失わないように、地に足をつけて、これからも教育と教育行政に取り組んでいきたいです。

佐藤 入省して10年がたってもこれを言えるのはありがたいと思うのですが、やはり教育行政は面白いと心から感じています。

国でしかできない仕事もある一方で、学校、地方自治体のレベルで、いくらでもより良い教育は実現できる。この二つの軸を忘れずに、全国の一つ一つの現場でより良い教育が実現されるための一助になりたいと思っています。

堀川 文科省職員の役割は、黒子だと思っています。教育が良くなるということは、現場が良くなることでしか実現し得ないからこそ、現場感覚のある黒子でありたい。だからこそ、われわれもどんどん現場に足を運び、生の課題や取組に触れ、時に考えをぶつけ合い、現場をより良くするために何ができるのかを考え抜くこと・そのための感度を高めることが重要だと思っています。

プラットフォームの取り組みを通じた出会いや貴重な経験を、現場をより良くするための仕事に生かしていければと思っています。

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