【シリーズ 先を生きる】スポーツマネジメント発の学級チームビルディング(上)

主体的な学びに向けた脱一斉授業の取り組みの中で、グループワークをさらに進化させた「チーム学習」というものがある。それは学級運営にスポーツマネジメントを応用し、それぞれの児童の個性を生かす“先生が教え過ぎない授業”。元神奈川県公立小学校教諭で、現在は佐久穂町イエナプランスクール設立準備財団理事を務める桑原昌之氏に、チャレンジとリスペクト、スマイルがあふれる「チーム学習」を成り立たせるための、居心地のよい学級づくりの秘訣(ひけつ)を聞いた。1回目は、「チーム学習」と「学級の居心地の良さ」の関係に迫る。

JFA公認C級ライセンスを持ちサッカークラブのコーチとしても活躍していた桑原氏
■「チーム学習」は居心地の良い教室で成り立つ
――桑原流「チーム学習」は、スポーツマネジメント理論を学級運営に応用した非常にユニークな手法だと感じます。「学級チームビルディング」とは、つまり何でしょうか?

異なる能力や思考を持った児童たちのそれぞれの個性を生かしながら、みんなで「居心地の良い教室を作る」という、共通の目標に向かって進んでいける状態を築くことです。例えばサッカーでは、メンバーの能力やプレースタイルはさまざまで、個々が担っている役割も違う。メンバー皆が、それぞれの個性や強みを生かしながら、それぞれのやり方でゴールを目指します。皆が同じ能力を持っている必要はなく、自分の得意なことをチーム全体のために生かしていく。それをそのまま、教室でもやろうと考えつきました。

チームの定義もさまざまあると思いますが、「チーム」を「グループ」との違いで分かりやすく説明すると、「グループ」は共通の好みや思考を持つメンバーが群れている状態。例えば女の子はよく好きなアーティストの共通性で「グループ」を作りますが、「グループ」は同質性を好み、好みや思考が異なる友達を排除しようという動きが起きやすいです。

一方で「チーム」の方は、異なる個性を持つメンバーで構成され、異質性に対して寛容な集団。学級には、それぞれが異なる物語を生きている児童たちが集まっているわけなので、「チーム」としての学級運営が適していると感じます。

「今日、どんな思いを持って教室に来ているのか」は、実は同じ教室の中にいるクラスメートたちであっても、それぞれ全く違いますよね。皆が同じ思いである必要はない。それぞれの思い、それぞれの目的で集まっているが、学校での1日が終わった時に、「今日も楽しかった!また明日も来よう」とそれぞれが思えるような、居心地の良い教室を作りたいと思ったんです。

個々の学びを対話を通じて全体へシェアすることで学びを深める
■個々の学びを対話を通じて全体へシェア
――居心地の良い教室の「チーム学習」とは、具体的にはどのような授業なのですか?

一例ですが基本的な進め方としては、まず課題について「個人」で考えてもらう。次に、それを4人1組程度の「グループ」でシェアしてもらってから、全体を自由に見にいける「ギャラリーウォーク」の時間を設け、いろいろなアイデアを吸収してからまた「個人」に戻って自分の考えを再考する「バージョンアップタイム」に。この、「個人」→「グループ」→「全体」→「個人」というサイクルの中で、個々の気づきや学びを、対話を通じて学級全体へシェアしながら深めていくスタイルです。

従来の一斉授業スタイルでは、30人学級だとすると対話は教師と各児童の1対30の構造になり、児童の発言量を高めることは難しいし、個々の学びも深めにくい。机の配置を4人一組にするだけでも児童同士の会話が生まれて、1対30の構造は変わります。

しかし、ただ机の配置を変えただけでは単なるおしゃべりに終始してしまい、本来の目的である個々の個性が生かされた授業にはなりません。個々の個性を生かす質の高い対話を生み出すためには、「教室」という空間が、児童一人一人にとって安心できる空間になっていなければならないのです。

個人の考えを皆にシェアする時に、「バカにされたらどうしよう…」という心理的な不安があると、なかなか自分の考えを開示することができませんよね。特に一斉授業に慣れている児童の場合、正解・不正解の価値観が染み付いていて、正答できる自信がないと積極的な発言ができないことも。だからこそ、最初に学級を安心して自分の考えや自分自身をさらけ出せる空間する必要があるのです。

オランダのイエナプラン校視察からヒントを得たサークルベンチは、教室の中で自然な対話が生まれる場所
■自分をさらけ出せる「居心地の良い教室」の築き方
――教室を児童一人一人が安心して自分をさらけ出せる空間に変えていくために、実際にどんなステップで進められたのですか?

伊勢原市教育センターに勤務していた2008年に、日本サッカー協会のスポーツマネジメントカレッジ本講座(SMC)を受講する機会に恵まれたのです。SMCでは一斉授業のようなスタイルはなく、対話を中心としたワークショップ形式で行われました。眠くなったことは一度もなかったし、とても刺激的で本当に楽しかった。

再び教師として学校の教室に戻った時、真っ先にそのワークショップ形式を取り入れ、「教師が一方的に教える授業」から「児童が考えて進める授業」に変えました。最初は、向かいの席の男子が消しゴムを投げたり、すぐ小競り合いが発生したりしましたが、その際も、私が指導してしまうのではなく、「何が起きたのか、本当はどうして欲しかったのか?」などを児童同士で考えさせるような関わり方を意識しました。しばらくすると、小競り合いが起きても児童で解決していけるようになりました。

また、SMCで学んだ後に、別のご縁でオランダのイエナ・プランスクールで学ぶ機会に恵まれたのですが、そこでの学びを基に、教室に児童が輪になって座ることができる「サークルベンチ」を設置したんです。最初は朝の会・帰りの会をベンチで。「今の気持ちを自由に発言して良い時間」を設けたら、すぐにポツリポツリと自然な対話が生まれました。児童の方が順応が早かったのです。

それまでの教室はグループが点在し、一緒にいるけれど、どこかバラバラな感じだった。しかし、日々のサークルベンチでの対話が、相互理解のきっかけになりました。まずは、お互いをよく知るということが最初のステップとしてとても重要です。

■シェアできないというハードル
――授業から、個々の学びを皆へシェアしていくスタイルへと変えていく際に、苦労したポイントは?

最初のハードルは、「見せ合うシーン」で「見せ合えない」ことでしたね。自信がないのもありますが、一斉授業の時には他の生徒の答えをのぞき見ることは、カンニングと言われたりしました。

でも本来、学びとは「まねる」ところから始まるのです。だから私は、「TTP=徹底的にパクる」という言葉を用いて、誰かの良いところを見つけてまねしよう――という考えを推奨しました。

TTPを推奨しても、見せられない子はいます。しかし、授業の中で全員が全員に見せ合うことは強要しませんでした。その時間の中で見せられなくてもOK。コミュニケーションスタイルも人それぞれで良いのだから、書けない子でもしゃべる方が得意ならしゃべればいい。また、算数では何もできなかった子が、社会の時はノートにめちゃめちゃたくさん書いているということもあったし、授業以外のシーンで例えばゴミを拾っていたとか、絵がすごくうまいことに気づくことも。できないことや苦手なことがあっても良い。一人一人の良いところを見つけて承認してあげると、本人の自信につながって、何も見せられなかった子がやがてシェアできるようになっていきました。

皆にシェアする、ということも一つのチャレンジです。チャレンジは、うまくいかなくても受け入れてもらえる土壌がないとできません。「できない事」や「苦手な事」の一つの側面でその子を判断するのではなく、皆が皆のいろんな側面を知り認め合えることが大事だと感じます。

安心して「チャレンジ(Challenge)」できる学級に進化するためには、個々を認め合う「リスペクト(Respect)」が必要です。そして結果的に「笑顔(Smile)」が生まれていく。僕はこの頭文字をとって、「CRS」と呼んでいます。この「CRS」こそが、居心地の良い教室の源泉だと考えています。

一斉授業を辞めたことで、僕自身が児童一人一人の強みを丁寧に観察して探せるようになりました。きっと、児童をじっくりと観察する余裕が生まれたからだと思います。一斉授業しかできなかった時は、観察どころではなく、自分自身が苦しくて仕方がなかったですし、児童も苦しかったのではないかという思いがありました。

(森田亜矢子)


【プロフィール】
桑原昌之(くわはら・まさゆき)  1967年生まれ。東京学芸大学教育学部卒業、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修了。神奈川県公立小学校教諭、伊勢原市教育センター研修指導主事等を歴任。JFA公認C級コーチ・スポーツマネージャー(GRADE3)のライセンスを保有し早稲田大学スポーツビジネス研究所招聘(しょうへい)研究員を務めるなどスポーツマネジメントの知識を学校現場に生かしてきた。現在は佐久穂町イエナプランスクール設立準備財団理事として、日本初のイエナプランスクールの設立に携わっている。