スポーツマネジメント発の学級チームビルディング(中)個の強みは人のために使う 学びを支える新たな教師像

グループワークをさらに進化させた「チーム学習」。学級運営にスポーツマネジメントを応用し、それぞれの児童の個性を生かす“先生が教え過ぎない授業”だ。元神奈川県公立小学校教諭で、現在は佐久穂町イエナプランスクール設立準備財団理事を務める桑原昌之氏に、「チーム学習」を成り立たせるための、居心地のよい学級づくりの秘訣(ひけつ)を聞いた。2回目は、桑原氏の教員人生の変遷をたどる。


■教師とサッカークラブコーチの駆け出し
――「チーム学習」を取り入れる前は、どんな教員でしたか?

自分自身が小・中学校で出会ってきた先生たちが、たまたま個を尊重してくれる方々だったこともあり、高校生の時に教員を目指して大学へ進むことを決めました。しかし大学卒業後すぐは採用されず、非常勤で高校の保健体育講師を勤め、25歳の時に正規採用となり、神奈川県伊勢原市の公立小学校に勤務しました。

最初は、自分の中にあった「教師はこうあるべきなんじゃないか」という理想像に従って、必死になって型通りの一斉授業をしていました。しかし、1人で児童全員の学びの姿を細かく見ていくのが、とても大変でした。どうしても「置いて行ってしまう子」が生まれてしまうのです。その存在に気づいても、スケジュール通りに授業をこなすことに必死だったので、なんだか自分自身が苦しくなってしまうことがありました。

地域のサッカークラブのコーチをしている時も、同じ課題にぶち当たることがありました。違和感を覚えながらも「教えるべきことは伝えた。練習で取り組ませたことを生かすのは選手次第だ。僕はやるべきことをやっている」と自分に言い聞かせていましたが、やはり苦しく感じました。

日本サッカー協会では、代表チームからU-6まで年代別にコーチの指導方法が整備され、確立されています。これは、他競技にはないシステムなのですが、そこではサッカーを始めたばかりの子供たちに対しては、「教え過ぎない」というルールがあります。まずはサッカーをとことん好きになってもらうことを重視して、いきなり技術を教えることはしません。

ある時、「子供たちは何のために学校に来るのだろうか。勉強を学ぶためだけではないはず」という問いが生まれ、それは学校の教室でも、サッカーのグラウンドでも同じなのではないかと感じ始めました。結局のところ、勉強ができたとかテストで良い点が取れたということよりも、「今日ここにきて楽しかった!」と思えることの方が、もっと大切なのではないかと気づきました。その気づきが、スポーツマネージャーズカレッジ(以下、SMC)での学びにつながったんです。

自身も学生時代から長年スポーツを続けてきた桑原氏

■スポーツマネジメントとの出会い
――SMCではどのようなことを学ばれたのですか?

SMCは、端的に言えば「スポーツで人々を幸せにしよう」ということを目指して、そのマネジメント手法を学びます。サッカーもいろいろあって、Jリーグのようなプロだけじゃなく、アマチュアグラスルーツと呼ばれる草野球のサッカー版みたいなもの、子供のサッカークラブなどさまざまです。それぞれの団体が目指しているものは違っても、みんな純粋に「サッカーが楽しい!好きだ!」と感じてもらいたいよね、というところは共通目標です。

SMCの受講者のバックグラウンドは実にさまざまで、僕のような教師だけでなく、各都道府県サッカー協会やJリーグクラブ、地域スポーツクラブなど、いろいろな形でサッカーの育成普及に携わっている人が集まっていました。知識も能力も目指したいことも違う、異なる個性が集まる学びの場を実際に体験した貴重な機会でした。

SMCには一斉授業のようなものはなく、とにかく皆で考えて作り上げていくというワークショップ形式で行われます。スポーツマネジメントの世界にも、「正解」は存在しません。地域によって課題はさまざまですから、都心と地方のサッカークラブでは必要な打ち手も変わります。異なる個性のメンバーでワークを進めていくためのたくさんの「思考ツール」を学び、メンバーが対話を重ねることで打ち手を紡ぎあげていくという過程を経験しました。全く違う個性の集団で、それぞれの強みを生かして全体を作っていく手法は、本当に刺激でしたね。

■個性をチームに生かす術
――異なる個性同士であっても、自分の強みをチーム全体に生かしていけるんですね。

伊勢原市教育センター時代に教育長から、「得意なことや権威というものは、自分自身のためではなく、人のために使うものだ」と言われ続けていました。「何かしら肩書を持ってしまうと、自分も気づかないうちにある種の権威になることがあるが、権威は自分が威張るために使うのではなく、誰かの助けになるようなことに使いたいよね」という話をしてもらったのですが、この言葉にはハッとしましたね。

研修指導主事としての仕事は指導的な立場ではなく、「教師たちの学びを支える」役割だと自分の中で再定義されました。スポーツチームだけでなく、ありとあらゆる組織の中で、「異なる個性同士が自分の強みを組織全体に生かす」ということは、まさに「自分の強みを組織のために使う」ということなのではないかと気づかされたのです。

4年間の勤務を終えて学校に戻り、児童それぞれの個性を生かした学級づくりに挑む際にも、「自分の強みや得意なこと、好きなことはみんなのために使ってあげよう」と発信して行きました。

桑原流学級チームビルディングの象徴でもあるサークルべンチのある教室

■皆の学びを支えるファシリテーターとしての教師
――児童の個性を生かすための教師の関わり方はどんなものですか?

教師は児童を「指導」する役割ではなく、「学びを支える」役割だということをより意識するようになりました。教壇の上に立つのではなく、児童とできる限り同じ目線の高さに立とうと意識しました。

そのために、以前は持っていた自分の中の「カリスマ教師像」を手放し、自分の好きなことや苦手なこと、ダメなところも含めて、教室でさらけ出していくことに決めました。

すると、自分自身の生活や子育て、スポーツの現場から、「これって教室でも使えるじゃん!」というヒントをたくさん得られるようになりました。学びのタネは、世の中のありとあらゆるところに落ちているのだと、気付きました。それからはスーパーで買い物をしているときでさえアイデアが湧き、毎日がとても楽しくなりました。

教壇に立って一方的に授業を進めるのを辞めたことで得られたのは、「児童1人1人を丁寧に観察できる余裕」です。子供たちのポジティブな側面を発見しやすくなり、お互いの強みを掛け合わせて教室の空気が良い方向に変化していきました。

――一斉授業からチーム学習に変える事で、苦労されたことはありますか。

学習進度に不安がありましたが大丈夫でした。むしろ、もっと早く終わるようになりました。1人の教師が30人に教えるより、児童同士で学び合う方が早いというのは驚きでした。

苦労したというかハラハラしたのは、「児童に大きな権限を委譲して学級崩壊みたいにならないかな、学び合う場を自分自身がうまくサポートできるかな」ということです。何かあると、すぐに正解を教えたくなってしまうんですよね。僕が交通整理をしてしまうと、児童自身で考える機会は少なくなって、担任の判断に委ねることになってしまいます。

チーム学習を上手にサポートするためには、教師が本当に最後まで児童の力を信じ切れるかどうかということとともに、ビジョンを共有すること、児童自身が課題解決に向けた共通の思考ツールを持つことが必要になります。

(森田亜矢子)


【プロフィール】

桑原昌之(くわはら・まさゆき) 1967年生まれ。東京学芸大学教育学部卒業、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修了。神奈川県公立小学校教諭、伊勢原市教育センター研修指導主事等を歴任。JFA公認C級コーチ・スポーツマネージャー(GRADE3)のライセンスを保有し早稲田大学スポーツビジネス研究所招聘(しょうへい)研究員を務めるなどスポーツマネジメントの知識を学校現場に生かしてきた。現在は佐久穂町イエナプランスクール設立準備財団理事として、日本初のイエナプランスクールの設立に携わっている。

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