平和特集 特別寄稿 沖縄夜間中学校の日常から 学校の役割を考える

沖縄戦の混乱と貧困のために義務教育を受けられなかった「おじぃ」や「おばぁ」が学ぶ、民間の夜間中学「珊瑚舎スコーレ」がある。沖縄県内には戦中戦後の混乱や不登校などのため、義務教育を修了していない15歳以上の人が6541人いるとされており(2010年国勢調査)、他都道府県と比較しても突出している。 沖縄戦に加え、その後27年も続いた米国統治下で日本国憲法が適用されず、憲法が保障する教育の機会が十分ではなかった影響が大きいと考えられる。同校の夜間中学校で学ぶ、平均年齢78歳の生徒らの日常から見えてくる「学校の役割」とは――。同校代表の星野人史氏による特別寄稿。

お年寄りがなぜ学校で学ぶか

珊瑚舎スコーレ代表 星野人史

珊瑚舎スコーレは2001年4月に沖縄県那覇市に開校した、いわゆるフリースクールと呼ばれる学びの場です。初等部、中等部、高等部、専門部(休講中で2021年再開予定)、夜間中学校の5課程それぞれにカリキュラムがあり、時間割がありますから、フリースクールというよりNPO法人が運営する極小規模の無認可総合学校と呼んだ方が適当かとも思います。

■生徒の平均年齢78歳

そのうち夜間中学校は、沖縄戦の混乱と貧困のために子供の頃、義務教育を受けられなかった方々を主な対象として2004年開設しました。今年度の生徒の平均年齢は78歳です。子供のころからずっと働き続け、年をとってからやっと学校に通う余裕ができた方々です。入学してからも昼間働いていたり、家事などに従事したりしている人が多いので、夜間に開講しています。

月~金曜の午後6~9時、1時限50分の授業を1日3時限、さまざまな教科の勉強を3年間して卒業になります。もっと勉強したい人は希望すれば卒業後も在籍できますから、長い方は10年通学しています。

生徒の平均年齢は78歳。生き生きと学んでいる姿が印象的

1年目から国と県に対して、運営のための資金的支援と、生徒の卒業資格の取得を働きかけてきました。その結果、義務教育を受ける機会を沖縄戦のために逃してしまったと考えられる、1932~41年生まれの珊瑚舎スコーレ夜間中学校の生徒に対し、2008年から卒業資格が認められ、11年からは沖縄県の委託事業を珊瑚舎スコーレが受けるという形になり、国と県が運営資金を出すことになりました。しかし、まだ不十分です。沖縄県教育委に対して、すべての義務教育未修了者、あるいは学び直しの方、外国籍の方などに対しても支援するように働きかけています。

■生徒の詩

70歳を過ぎたお年寄りが、なぜ学校で学ぼうとするのでしょうか。学歴や資格などの社会的な価値を手に入れるために学んでいるのではありません。一人の生徒が書いた短い詩を紹介します。

「勇気とは 新しい自分を つくりだす 私はなにもできないといってきた 自分をつくるには 勇気をだし 前に進む」

この短い詩を書いた生徒は、78歳のおばあさんです。学校に通ったことはありません。入学したころは平仮名もおぼつかないところがありました。3年生のはじめ、日本語(国語)の授業では詩を読み、書きます。入学後、詩を読むことはありますが書いたことがありません。生徒にとって、とても難しいことだと思います。

ゴールデンウィーク明けのある日、廊下にいた僕は「先生、こんなんでいいかね?」といって原稿用紙を渡されました。2編の詩が書かれていました。そのうちの1編です。僕は読んでびっくりしました。思わず「ジョウトウ!」と言って、彼女の前で声を出して読みました。途中で涙声になってしまいました。2度も3度も繰り返し朗読しました。彼女はうれしそうに僕の朗読を聞いていました。

「連休中に暇を見つけて、一生懸命書いたさぁ。うまく書ききれんかったけど、こんなんでほんとにいいかね」

子供は独立し、夫を亡くして随分たっています。マンションで一人暮らしをしています。ぼんやりと一人でテレビを見て過ごす時間に、物足りなさを感じていたそうです。娘さんから珊瑚舎スコーレ夜間中学校を紹介され、一緒に見学に来たその日のうちに入学を決められました。自分と同じ境遇の人たちが笑顔で生き生きと学んでいる姿がうらやましく、「入りたい!」と思ったそうです。僕は詩を読み終えて「すばらしい! すばらしいよ!」と繰り返していました。

ミュージカルの上演や、修学旅行などイベントごとも多数

■自由・自立・平和

何のために学ぶのか。新しい自分を手に入れるために学ぶのです。このおばあさんは学校に行けなかったことがコンプレックスになり、人前に出ることができなかったそうです。いつも自分に自信がなく、オドオドしながら生きてきたそうです。夜間中学校に入学して2年余り、「新しい自分をつくる」という言葉、正真正銘の自分の言葉を手に入れたことの素晴らしさに、僕は感動していました。夜間中学校での学びが、この言葉の獲得を可能にしたのだと思います。

何のために学ぶのか。それは自分という器に生きていくうえでの、大切な価値を盛るために学ぶのです。上等な器を作るためには思考すること、感性を磨くこと、体と向かい合うことが必要と考えています。器に盛る価値を珊瑚舎スコーレは「自由・自立・平和」と捉えています。それを求め続けようとする意志が新しい自分との出会いをもたらすのです。生徒自身がそれら三つの価値を自分自身で発見し、自分自身で手に入れるための手助けをすることが珊瑚舎スコーレという学校の役割であると考えています。

沖縄戦の混乱と貧困のために義務教育を受けられなかった方たちが学んでいる

■社会の想像力

学校の主体者は生徒です。生徒は自分という存在を自分自身で作るために学ぶのです。学校はその手助けをするのです。決して学校のため、国家のため、権力者のために彼らは学ぶのではありません。そのような自立した個の集合こそが、最も充実した社会をもたらすのです。

自由とは、新しい自分を求め続けることを大切にできること。自立とは、他者がいてはじめて自分が存在することに気付くこと。平和とは、たまたま隣り合わせになった人と、ほどよい関係をつくること。珊瑚舎スコーレは学ぶことによって、このような価値を手に入れられる学校作りを心がけています。

実利的、社会的な価値を手に入れるために学ぶことも、もちろん大切です。しかし、それを一義的にした社会は、精神的な貧しさの連鎖の中に自身を落とし込むことになります。そのような状況は至るところにあるような気がしています。私たちが作ってきた社会の想像力が試されています。


【プロフィール】
星野人史(ほしの・ひとし) 1948年、東京都生まれ。96年3月、沖縄に「学校法人珊瑚舎」設立準備のため、埼玉県私立高校長を退職。97年4月に那覇に移り住んだ。2000年4月に「珊瑚舎スコーレ」事務局を開設。01年4月に珊瑚舎スコーレ高等部・専門部、同年12月に中等部開設。04年4月に夜間中学校を開設した。NPO法人珊瑚舎スコーレ代表。琉球大学非常勤講師。
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