教育と笑いのシナジー 教員兼お笑い芸人「オシエルズ」に迫る


教員兼お笑い芸人「オシエルズ」をご存じだろうか。日々劇場に立ちつつ、大学や高校で教鞭(きょうべん)をとる、何とも気になる2人組だ。教員向けに開く「笑いと教育」をテーマにしたセミナーも、ひそかに話題を集めているのだとか。教員と芸人の二足のわらじを履き活動する「オシエルズ」の、教育と笑いのシナジーに迫った。


■「コント数学の授業」

7月、都内某所。果たしてどんなコンビなのだろうか。「教員兼お笑い芸人」という特殊な肩書を持つオシエルズに対面インタビューできることとなり、記者は会う前から期待が高まっていた。彼らのステージはYouTubeで予習済み。「コント数学の授業」「コント化学の授業」「コント学級会」――。とても個性的なステージだった。電子黒板、文化祭、化学式……学校でおなじみのワードが次々に飛び出す。さすが教員兼芸人だ。

扉を開けて入ってきた彼らは、まさにテレビで見る「芸人」のイメージそのもの。「写真のポーズどうします?」「こんなの?」「これは?」「もっといっちゃいましょうか?」――。こちらが圧倒されてしまうほど、ノリノリで畳み掛けてくる。一気に部屋の空気が陽気になり、インタビューするこちらも楽しくなってきた。

■結成秘話

オシエルズのメンバーは、矢島ノブ雄さんと野村真之介さん。知り合った大学時代に、2人とも教員免許を取得している。

ちょっとした間でもノリツッコミを忘れない、息ぴったりの「オシエルズ」

リーダーの矢島さんは大学卒業後の3年間、芸人活動をしつつ、私立高校で非正規教員として教鞭をとった。社会科が専門で、地理・歴史・公民の授業を担当。芸人としての活動に理解がある高校で、現在の基盤となる経験ができたという。

「お笑い芸人である私を尊重してくれる学校で、授業にお笑いを取り入れたり、部活でお笑い部を作ったりしました。知り合いの現役芸人を呼んで、生徒たちに披露することもありましたね」と話す。

そのとき召集されたのが、別のコンビで活動していた野村さんだった。これが縁で「オシエルズ」が結成されることとなる。

「生徒たちにもらったお題で大喜利をしたら、とてもうけました。矢島がやろうとしている笑いと、教育の世界観を体感できた。劇場やテレビのためだけよりも、お笑いが楽しく思えました」と、野村さんは懐かしそうに振り返る。

現在、矢島さんは埼玉医科大の客員教授、野村さんは都内の高校で講師を務めている。インタビュー中も「このボケは、なかなか今の大学生にはウケなくて…」「昨日も定期テストの監督で高校に行っていて…」と教員らしい発言が目立った。

■学校で「笑い」を教えたい
教育の話になると一変、真剣なまなざしに

お笑いと学校が好きな青年が偶然出会って生まれたオシエルズ。芸人として毎週のようにステージをこなし、それぞれの学校で勤務し、さらに教員向けのセミナーを開催しているというから驚きだ。目まぐるしい日々を送る2人の狙いは、果たして何なのだろうか。

そんな疑問をぶつけると、それまでとは一変した真剣なまなざしで矢島さんが答えた。「学校で子供たちに『笑いの正しい使い方』を教えなければと思っています」。

矢島さんいわく笑いには2種類ある。コミュニケーションを活性化させる「適切な笑い」と、いじめやハラスメントにつながる「不適切な笑い」だ。そしてこれらは「状況」によって、また「誰が言うか」によって変わる。社会に出る前にこの二つの笑いを判断できるか否かが、その後のコミュニケーション力や人間性に大きく関わってくるという。

「例えば先生が冗談のつもりで言った『お前はばかだな』という言葉で、クラスの児童生徒が笑う。どう思いますか。児童生徒の中には、他人をばかにして笑いをとってもいいのだと勘違いしてしまう子もいるかもしれない」と矢島さんは警鐘を鳴らす。

教員の何気ない言動が彼らに影響を及ぼすことを、オシエルズの2人も学校現場でひしひしと実感してきた。

■「笑点」のような温かい学級を
「これからも二足のわらじで頑張りたい」と抱負を語る

オシエルズは芸人としての経験をもとに、教育現場における笑いのアプローチ法をセミナーで提案している。

つまり、生徒にうけるギャグや一発ネタを教師に身につけろということだろうか……。それは荷が重そうだ。2人は笑いながら、首を横に振る。

「先生たちが私たち芸人並みにおもしろくなってしまったら、われわれの仕事がなくなってしまいますよ」と野村さん。

「私たちがセミナーで話しているのは、全ての児童生徒が安心して、安全に笑いを取れる環境を作ってくださいね――ということ。誰かが失敗しても『どんまい』と声をかけあえる環境。例えば、あの『笑点』のような学級といえば温かさが伝わるかな」と矢島さん。

なるほど。確かに「笑点」といえば、出演者はのびのびとボケたり、愛情を持ってツッコミをいれたり、そして観客はしっかりと笑い、大きな拍手をしてくれる。そう、教育現場で求められるのは、児童生徒が安心して振る舞える環境を提供する「笑い」。そしてそんな温かな学級で生まれる笑いは、きっと子供たちのコミュニケーションを活性化させてくれる「適切な笑い」なのだろう。

教員としてはまだまだ新米だと謙遜する彼らに、笑いに包まれた温かい学級を作るコツを聞いてみた。

「笑いはいろいろな要素を持っている。だからそれぞれの教員が、得意な分野で児童生徒を楽しませてあげられればいいと思います。それでもどうしても悩んだときは、オシエルズのライブに来てもらえたら分かりますよ」と2人。最後はしっかりアピールして、まとめてくれた。(板井 海奈)


【プロフィール】

オシエルズ 2013年結成。公式HP http://improv-comedy.org

矢島ノブ雄 1987年4月22日生まれ。東京都出身。FUNBEST代表。日本即興コメディ協会代表。著書に、笑いやその指導法を解説した「イラスト版子どものユーモア・スキル」(http://www.godo-shuppan.co.jp/products/detail.php?product_id=550)がある。

野村真之介 1988年9月20日生まれ。鹿児島県出身。日本即興コメディ協会副代表。