概算要求で「未来の教育」に38億円 Society5.0見据え

対2018年度比11.8%増の5兆9351億1300万円を計上した、文科省来年度予算の概算要求。文教予算では、学校における働き方改革での教員加配、スクール・サポート・スタッフ、部活動指導員の配置、大規模災害やこの夏の猛暑を踏まえた学校施設整備費の大幅増が目立つ。その中であえて注目したいのが「Society5.0」関連予算だ。同省は「Society5.0に向けた人材育成」として、複数の新規事業を含め、37億8700万円(前年度比20億1700万円増)を要求した。その内容は、これからの社会変革に対応するため、未来の教育をデザインするための先行投資と捉えることもできる。


■これからの教育を見据えた新規事業

新規に「学校における未来型教育テクノロジーの効果的な活用に向けた開発・実証事業」として7億円を計上した。個別最適化された学びの実現に向け、学校現場と企業などとの協働により、学校教育で活用できるEdTechの開発・実証を行う。教員養成でも、「次世代の学校教育を担う教員養成機能強化事業」として5億円を新規計上した。Society5.0を見据えた新たな教育課題に対応するため、教科指導法などにアクティブ・ラーニングの指導法を取り入れるほか、具体的なエビデンスに基づいた教育の質の保証システム構築を推進する。

高校改革にも焦点を当てる。WWL(ワールド・ワイド・ラーニング)コンソーシアム構築支援事業として1億6700万円、地域との協働による高校教育改革推進事業として4億円を、いずれも新規事業で立ち上げる。

前者では、これまでのSGHなどの実績を活用、高校と国内外の大学、企業、国際機関が共同し、高校生により高度な学びを提供する仕組みを構築する。さらに、高校生国際会議の開催やネットワークの形成を通じた拠点校づくりを目指す。拠点校は全国で10校程度を想定している。

後者では、地域での人材育成に向けた教育改革を推進するため、政府の「まち・ひと・しごと創生基本方針2018」などに基づき、高校が自治体や高等教育機関、産業界と共同してコンソーシアムを構築。地域課題の解決などをテーマにした探究的な学びを推進し、地域振興の核としての高校の機能強化を図る。この高校には50校程度を指定する予定だ。

幼児教育でも、新規事業として「先端技術を活用した幼児教育分野の実証研究」に5000万円を要望した。先端技術の活用によって、園内環境や幼児の行動、教師の働き掛けなどを総合的・多角的に捕捉・可視化し、幼児の豊かな行動を引き出す環境構築や、教師の適切な指導を支援する。

この他、大学教育などでは、「大学における数理・データサイエンス教育の全国展開」として、国立大学法人運営費交付金のうちから9億円(前年度比3億円増)を拡充する。六つの拠点大学で、文理を問わず全学的な数理・データサイエンス教育を実施すると共に、協力校の設置等を通じて標準カリキュラム・教材による展開を本格的に加速させる。また、「Society5.0に対応した高度技術人材育成事業」に、10億7000万円(同1億円減)を計上。人材不足が懸念されているサイバーセキュリティー人材やデータサイエンティストなど、産業界のニーズに応じた人材育成に産学連携で取り組む。

■Society5.0を見据えた教育政策集

Society5.0とは情報社会の次にやってくるとされる大きな変革。人工知能やビッグデータ、IoT、ロボティクスなどの先端技術が高度化し、あらゆる産業や生活の中に取り入れられた結果、社会の在り方がこれまでとは劇的に変化するといわれている。そのような時代に対応するには、どのような教育が必要なのか。問題に就任直後から関心を寄せていたのが林芳正文科大臣だ。

「Society5.0に向けた人材育成」報告書

林大臣は昨年末、「Society5.0に向けた人材育成に係る大臣懇談会」を立ち上げた。鈴木寛文科大臣補佐官をはじめ、大橋弘東京大学教授、北野宏明ソニーコンピュータサイエンス研究所社長、原田曜平博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーなど、構成員はさまざまな分野から集められた。9回にわたる懇談会のテーマは▽健康医療▽芸術▽農山村▽人材育成▽若者論▽雇用問題――など、一見すると教育とは遠いように感じる視点から議論を重ねてきたことがうかがえる。

懇談会とほぼ並行して立ち上げられた「新たな時代を豊にかに生きる力の育成に関する省内タスクフォース」でも、構成員の課長級職員だけでなく、課長補佐、係長級も含めた若手職員が参加して、これからの学びの在り方を討議した。

これらの議論を反映させた教育政策集といっても過言ではないのが、今年6月5日に公表された報告書『Society5.0に向けた人材育成~社会が変わる、学びが変わる~』だ。

報告書では、今後実施すべき短期的・中期的な教育施策の3つの方向性として①公正に個別最適化された学び②基礎的読解力、数学的思考力などの基盤的な学力や情報活用能力を全ての児童生徒が習得する③文理分断からの脱却――を掲げる。

①は▽学習の個別最適化や異年齢・異学年など多様な協働学習のためのパイロット事業の展開▽スタディ・ログを蓄積した学びのポートフォリオの活用▽EdTechとビッグデータを活用した教育の質の向上、学習環境の整備充実。

②では▽新学習指導要領の確実な習得▽情報活用能力の修得▽基盤的な学力を確実に定着させるための学校の指導体制の確立、教員免許制度の改善。

③では▽文理両方を学ぶ高大接続改革▽地域の良さを学びコミュニティーを支える人材育成――が並ぶ。

Society5.0に向けた人材育成関連事業の概算要求額

今回の概算要求で組み込まれた新規事業は、その手始めとして位置付けられるものになるだろう。これらの事業は新学習指導要領への移行や、学校の働き方改革などと比べると優先順位は決して高いとは言えないため、どこまで来年度予算に反映されるかは不透明だ。ただ、教育再生実行会議の新たな議題に「技術の進展に応じた教育の革新」と「新時代に対応した高校改革」が掲げられていることからも、時代の変化に対応するために、国が教育をダイナミックに変えようとしていることは確かだ。

これら事業は新しさゆえに、どのように教育成果を測るべきかというエビデンスの問題をはらんでいる。逼迫(ひっぱく)した国の財政事情の中で、これまでにないような未来の教育への投資を行う以上、リスクも含めて説明責任を果たせるようにしておく必要があるだろう。

(藤井孝良)