防災の新アイデアを高校生が創出 全国選手権レポート

社会課題を解決する社会イノベーションのアイデアと、その創出プロセスを高校生が競う第1回全国高校生社会イノベーション選手権(以下、イノチャン)が、8月18、19日の両日、東京大学で行われた。初回のテーマとなったのは「防災」。イノベーション教育と防災教育を掛け合わすことで見えてきた、児童生徒が主体的に「防災」に取り組むためのヒントとは――。


■防災に対する当事者意識の低さが問題

イノチャンは「社会イノベーションを学び、実践する場を高校生にも提供したい」との思いから、東京大学工学部社会基盤学科および専攻に所属する学生たちが主体となって立ち上げた。第1回大会の本戦には、全国から一次審査を通過した7校9チームが参加した。

第1回のテーマを「防災」とした理由について、大会運営委員会の同大学4年、西條圭祐さんは「社会の中に潜む課題として、防災は意識が高い。その一方で新しいアイデアが創出されづらい分野でもある。だからイノベーションと掛け合わせると面白いのではと考えた」と語る。

また、高校生にとって「防災」は主体的に取り組むのが難しいテーマでもある。「防災について深く知り、意識を変えるきっかけになれば」との目的も大きいという。

1日目のワークショップでのアイデア出しボード

例えば、参加校の一つである香川県立観音寺第一高等学校・銭形レスキューファイブチームが、一次審査時に同校2年生242人に行った「防災意識アンケート」の結果にも、生徒の防災に対する当事者意識の低さが見てとれる。

香川県は災害が比較的少ない県だが、近い将来発生が予測されている南海トラフを震源とする地震では、非常に強い揺れや津波による被害が予測されている。

アンケートにおいて「今後30年間で南海トラフ地震の発生する確率はどのくらいだと予想しているか?」との問いに、80%の生徒が「6割以上の確率で起こる」と答えている。しかし、「家庭で防災グッズを用意しているか?」との問いに「準備している」と答えたのは38%。さらに昨年1年間に観音寺市が行った防災訓練は48回あるが、「学校以外の避難訓練に参加したことがあるか?」との問いに「ある」と答えたのはわずか4%だった。

また、南海トラフ地震で同地域に想定されている震度や津波の高さについても、多くの生徒が間違った認識を持っており、防災に対する知識も曖昧であることが分かったという。

■防災をわが事として捉えるためのプロセス

防災は意識はしているが、どこかひとごと――。このような課題をしっかりと分析し、自分たちのアイデアを創出できるよう、イノチャンでは、各チームに事前課題として「目黒巻」 に取り組んでもらったという。

「目黒巻」とは、東京大学生産技術研究所の目黒公郎教授が考案した災害状況イメージトレーニングツール。災害時の状況を想像し、「数分後」「数時間後」「数日後」のその時間、自分がどんなことをしているか、周囲がどんな状況になっているかを書き込んでいく。

「このプロセスにより、参加した高校生も被災経験の有無に関係なく、災害状況を的確にイメージする力を高められ、本戦のワークショップでの活発な議論につながる」と大会運営委員会の同大修士2年、中島浩徳さんも分析している。

イノチャン本戦の1日目(8月18日)は、「防災の課題を解決する日用品」をテーマとしたワークショップが行われた。同大学の学生たちがメンターとしてワークショップに参加し、高校生のアイデア発想をサポートしながら、チームごとに具体的なアイデアを構築していった。

大会2日目(19日)には、各チームが最終アイデアを寸劇なども交えながらプレゼンテーション。グループワークの成果、アイデア発想プロセス、アイデアの質などを審査され、広島県立広島高等学校・凌雲の志チームが考えた「ABILITY BAND」が優勝に輝いた。

各チームが考えた「防災の課題を解決する日用品」についてプレゼンした
■他者を思いやる視点の防災グッズ

「ABILITY BAND」は、その人が持つ能力別に5色に色分けしたバンドで、ペンと合わせたことで、普段はファッション性も備えたペンとして腕につけて使えるというアイデア。災害時には、例えば青の「ABILITY BAND」をつけている人は「人命救助」、赤は「重機運転」、ピンクは「多言語対応」などの能力を持つ人として認識され、被災地において適材適所で活動するために役立つ。

同チームはイノチャンの一次審査に通過後、西日本豪雨を経験し、同校では7月7日から休校の措置が取られた。同チームメンバーは休校後に被災地でのボランティアに参加。その際、ボランティアを受け入れる側に「私はこれができます、得意です」ということが伝われば、もっとスムーズに作業が進むと感じたことから、このアイデアが生まれたという。

また、準優勝には愛媛県立今治西高等学校・カズちゃんズチームの、「言葉の通じないところで災害にあったら?」という視点で考えられた「手帳でコミュニケーション」と、香川県立観音寺第一高等学校・南海キャンバサーズチームの、避難所で椅子やベッドとして使える取り外しが容易な自動車シート「とりはずシート」が選ばれた。

審査員の東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻の小松崎俊作講師は「優勝、準優勝の3チームに共通して言えるのは、他者を思いやる発想だった。災害時に一人でできることは少なく、この発想は災害において重要な観点」と講評した。

「ABILITY BAND」のプレゼンテーション
■教育効果を上げる防災教育とは

これまで日本を幾度となく襲ってきた災害において、防災を知識として知っているだけでは、いざという時に適切な行動がとれるとは限らないことが分かっている。

災害時に自ら判断し、主体的に行動することのできる児童生徒を育むには、当事者意識を持って取り組めるよう工夫された防災教育を実践していくことが不可欠だ。

審査員を務めた同大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻の堀井秀之教授は「ただ防災について考えろと言っても難しい。ワークショップの“防災×日用品”というテーマは、高校生にとって考えやすかったのでは」と評価。

同じく審査員のNHK放送文化研究所メディア研究部上級研究員・入江さやか氏は「今回の取り組みを各校に持ち帰って、ぜひ学校内外にこの考えを広め、さらに深めていってほしい」と大会を総括した。