東大が欲しがる高校生の育て方(上) 研究と勉強の両立

間辺広樹・神奈川県立柏陽高校教諭×東京大学1年生 間辺美樹さん

東京大学が2016年度入学者選抜から導入している「推薦入試」は、定員約100人に対して7割程度しか合格しない。定員ありきでなく、水準に達しているかで判断するからだ。学力試験で入学する以上の難関とも言える。神奈川県立平塚中等教育学校に通っていた間辺美樹(まなべよしき)さんは、高校生ながら漢字の意味理解に着目させるためのソフトウエア「熟語マニア」を開発。その論文を情報処理学会で発表し、注目された。昨年、美樹さんはこの推薦入試に挑戦し、見事合格。今年度から同学で学んでいる。美樹さんの父・広樹さんは神奈川県立柏陽高校教諭で、教壇に立つ傍ら情報科学教育に関する研究に取り組み、博士号も取得している。間辺親子に「研究する高校生」をテーマに、東大推薦入試や、新学習指導要領で探究活動の重視が打ち出された高校教育の課題を聞いた。


■どうしても東大に行きたい
――東京大学の推薦入試は、いつから受けようと思ったのですか。

美樹 高1のときに東大で推薦入試が始まったのですが、その頃から興味はありました。自分の研究を学会で発表した経験もあるので、挑戦してみようと。学力だけでは劣っていたので、それをカバーするというのも少しあったのですが、今までやってきたことを評価してくれるのは一般入試より推薦入試だったというのが大きな理由です。

広樹 「受験はどうする」と聞いたら、己の実力も顧みず「とにかく東大」と。選択肢を与えたかったので、高1、2の頃には、いろいろな大学を見に行くように言ったのですが、本人が結局「東大に行きたい」と。

美樹 実は小さい頃から漢字以外にクイズも好きで、東大のクイズ研究会に入っています。テレビのクイズ番組で東大生が活躍している姿を見て「かっこいいな」という憧れを抱いたというのもあります。

広樹 親は大変です。「受ける限りは悔いのないように勉強しろ」と言うしかない。推薦ならば可能性がないわけではないし、一般入試と合わせて2回受けるチャンスが出てくる。それなら、受験は推薦入試と一般入試の両方をやっていこうと作戦を立てたのです。

実は東大以外、他の大学は私立も含め出願しませんでした。「自分で勉強できないと駄目だ」と小さい頃から教えていたので、本人は塾に行く気もなかったようです。

■面接を徹底練習
間辺広樹さん(右)と美樹さん親子
――面接では何を聞かれたんですか。

美樹 最初は、自分が今までどういう活動をしてきたかや志願理由、高校時代の上申書に基づくもので、小論文のとても深い内容までも聞かれました。答えに苦労する質問が次々に投げ掛けられました。ただ、練習していく中で、自分がやれること、言えることは全部できたと思いました。だから、終わった後の自信は半々くらいでした。

広樹 そう言えるように練習したのです。調べてみると「面接官5人で45分面接する」と書いてありました。これだけで普通の面接ではないことが分かります。「どこまでこの子は理解できているか」という所を、必ず限界まで測ろうとするだろうと思いました。特に論文は、私も含めて5人の共著で出しているので、どこまでがこの子の成果なのか、絶対に聞いてくる。だから、それを言えるように練習したのです。

ところが、学会発表では立派にできていたのに、面接の練習を始めてみたら全然駄目でした。「それでは絶対に受からないぞ」と毎日戦いました。30分~1時間の面接練習の様子を毎回ビデオに撮って「この答え方はなんだ」と、推薦入試の直前までやりました。聞かれたことにただ答えるだけでは駄目で、面接官に「パワーのある受験生だ。うちの大学に入ってきたら、きっと他の子ができないようなことをやってくれるんじゃないか」という期待感を持たせられないといけないと思ったんです。それで「自分の世界をつくれ。美樹ワールドをつくれ」と言い続けました。

やっと本人に自信が出てきたのが、面接のほんの2、3日前です。「熟語マニア」を分かりやすく説明できるように、パネルも用意しました。当日は使えないかもしれないので、口頭でも説明できるようにして。

美樹 面接では「漢字の意味を知るのに、今は1文字単品で意味を知り、熟語を知るという仕組みになっているが、部首に関しては考えなかったのか」と聞かれたんです。これは僕も父も想定外の質問だった。それでも自分の中で考えて「部首は意味を理解するための一つのツールではあると思うが、今は考えていない。今後できるなら応用していきたい」と答えたら、「学会に出ているだけあって、かわし方がうまい」とほめられました。

それから突然、英語で質問されました。これまで英語の勉強をどういうふうにしてきたのかという質問があって「5歳の頃から、ちょっとずつ英語を始めた」と話したら、途中から面接官が「ここから英語でいいよ」と。なんとか英語でしゃべって、英語で質問されて英語で答えるというのをやりました。英語は得意だったので、何とか切り抜けられました。

■自分を語るストーリー
東京大学の推薦入試に合格した間辺美樹さん
――東大に入って挑戦したいことはありますか。

美樹 ソフトの改善はもちろんですが、漢字を使わない国の人が漢字を理解するのにどういうことを考えているのか、どうすれば効率よく理解できるのかも考えてみたい。漢字ソフトの研究をしている先生もいるので、ぜひその先生に話を聞きたいです。

推薦入試で東大に入った人と話をすることもあります。高校時代の活動や大学でやりたいこと、それからサークルに入るのかなど、他愛(たわい)のない話から専門的な話まで幅広く。推薦で来た人は、みんなやっぱりすごいんですよね。〇〇オリンピックで世界に行ったとか、何十カ国語もしゃべれるとか。そういう人たちと一緒に学べるのは、自分にとって刺激になります。

広樹 美樹の「売り」の8割方は漢字の工学的な研究で、これから先もそういう研究をやっていきたいということです。それから、英語はNHKの「基礎英語」のCD教材を毎朝コツコツ続けたり、高1で出た英語のスピーチコンテストでは、「漢字の魅力、日本の文化」というテーマで、漢字の魅力を英語でスピーチしたりしていました。そういう経験から「得意な英語で、もっと漢字の魅力を発信していきたい」ということを伝えた方がいいと思いました。そうやって、自分を相手に分かってもらうためのストーリーをつくったんですね。

広樹さんは「息子にも生徒にも基本的には一緒」と話す
――広樹さんは普段、生徒にも、そんなスパルタ指導なんですか。

広樹 基本的には、息子にも生徒にも言っていることは一緒です。ましてや、息子と同じ学年のクラス担任を持っていたものですから。私はスマホに対して厳しく「スマホに依存していて全然勉強が身に入っていない」と毎日のように言っていて、生徒からは反発があります。たまにスマホの回収もします。放課後に返却した瞬間、生徒たちはツイッターに何か打ち込み始めました。後で検索すると「間辺にスマホ取られた。こんなクラスはいやだ、死にたい」と、140字分ぎっしり不満が書いてありました。

息子にも同じことは当然言っています。息子は逃げられないが、生徒は逃げられる。そこが一つの違いですね。生徒には「スマホは駄目だ」とまでしか言えないですし、規制することもできませんが、息子には大学に合格するまで、結局持たせませんでした。高校の頃も家族との連絡用にガラケーを持たせただけで、いわゆるスマホなしです。そのことを生徒に話すと「えー、かわいそう」とみんな言いますが。

スマホは偏った情報しか入ってこないし、スマホを使っていなくても気になってしまい、授業中も頭の中はスマホの世界に行っている生徒が結構います。スマホに振り回されなければ、その分集中して何か別のことに時間が使えるのですが。

(聞き手 藤井孝良)


間辺広樹(まなべ・ひろき) 神奈川県立柏陽高校数学科・情報科教諭。大阪電気通信大学医療福祉工学研究科博士後期課程修了。博士(工学)。情報科学教育、特別支援学校における情報教育に関する研究に取り組む。
間辺美樹(まなべ・よしき) 東京大学工学部1年生。神奈川県立平塚中等教育学校卒業。「意味の理解に着目させる漢字学習ソフト『熟語マニア』の開発と評価」を情報処理学会論文誌『教育とコンピュータ』に発表。