東大が欲しがる高校生の育て方(中)研究の原石を磨く

東大推薦入試に合格した間辺美樹(まなべよしき)さんと、その父であり高校教員である広樹さんが「研究する高校生」をテーマに対談する。第2回では「熟語マニア」の開発経緯や実際に高校生を学会発表させている広樹さんの取り組みについて聞いた。高校生が研究することの難しさとは――。


■「あ、面白い!」
間辺親子が開発した「熟語マニア」
――美樹さんが「熟語マニア」を開発した経緯を教えてください。

美樹 僕は小さい頃から漢字に興味があって、高1で漢検1級に挑戦しました。漢字について勉強していると、同じ漢字が別の熟語にも使われていて、一つの漢字の意味を理解していけば、それを使う熟語の意味も分かる。そういうことがどんどんつながっていくと、漢字の理解になるのです。

勉強する過程でそれに気付き、父に話したら「他者にもそういうことを認識させるためにはどうすればいいのか」と言い出して、漢字の熟語を理解する学習ソフトを作ることになりました。それがこの「熟語マニア」です。高1の2月くらいにその発想に至り、その後ソフトの実装に取りかかりました。完成したのは高2の夏ごろでした。

広樹 彼が高1のときに、学校設置科目として「課題研究」があったんです。何かテーマを決めて、調べたりレポートにまとめたりする。そこで「漢字を理解するとは」というテーマで取り組んでいた。親子で「どんなことをやっているのか」という話になりまして。漢検1級になると見たこともない漢字ばかりなんですよ。「なぜそんな字が分かるの」と聞いたら、「一字一字に意味があって、それが熟語を介してまた別の字につながっていく。そういう漢字ネットワークみたいなものを頭の中に構築している」と話してくれました。

それを聞いたとき「あ、面白い!」と。私はその独特な漢字理解モデルに、いろいろな可能性を感じたのです。従来のような何回も何回も漢字を書いて覚えるという学習ではない、新しい漢字の学習法を提案できるのではないかと思いました。

■ソフト開発・学会発表に挑戦
情報処理学会で発表する美樹さん
――ソフトはどのように作ったのでしょうか。

広樹 ソフト自体は親子で作りました。彼の高2の夏休みに、私が情報処理学会で発表する予定があって、その会場が北海道函館市でした。まだ高2だし、受験前に遊べるからというので、家族旅行を兼ねてみんなで行こうかという話になりました。そのとき「お前も発表してみたら」と誘いました。妻も先行研究や他の漢字学習ソフトの調査で協力してくれました。着想になった「漢字の理解モデル」が学問的に面白いというのもあったので、そのモデルに基づいた「熟語マニア」を発表しました。

開発段階では、どういうソフトにするか、どんな問題を用意するかを家族で話し合いました。実際のソフトの制作期間は2、3週間ぐらいです。ソフト自体はそれほどたいしたものではなくて、ほんの少しプログラムを組んだだけ。私もいろいろアドバイスしましたが、作業量はそれほど多くありません。

美樹 僕からしてみれば、結構長かったような気がします。意味の理解の大切さを分かってもらうため、問題作りに悩み、かなりの時間を費やした印象があります。

広樹 検定を想定するなら、やはり効果が出なければ論文になりません。学会発表するとなれば、ある一定レベルの質の研究があった方がいい。そうなると、問題がその効果を左右するわけです。

美樹 研究発表を聞いた人からは「漢字の意味から理解するのが大事だというのは当たり前なのではないか」「問題の一部に間違いがあるのではないか」という指摘も受けました。その場では質問されなかったのですけど、後で「小学生はあまり熟語を知らないから、熟語で覚えるにはハードルがあるのではないか」というコメントももらいました。これらは、まだ手をつけられてない課題で、いずれ解決したいと思っています。

■きらりと光る生徒を磨く
普段も一緒に旅行に行くなど仲が良いという
――広樹さんは実際に高校生を学会で発表させるという実践をしていますが、指導はどのようにしていますか。

広樹 神奈川県立柏陽高校は、県でも上位の進学校で、かつてSSH(スーパーサイエンスハイスクール)に指定されていました。今も生徒に探究活動をやらせていますが、5年前に私が柏陽高校に来て、生徒の探究活動の成果物を見たとき、率直に「もっとできるだろう」と感じました。

その頃、ちょうど博士号の学位を取ったばかりだったので、やってやろうという気持ちも相当強くて、翌年からその指導に携わりました。ただ、非常に難しいですね。受験に直結するものではないので、生徒のやる気を引き出すこともそうですが、時間がすごく限られている中で生徒に「研究しろ」と言っても、それはどだい無理です。カリキュラムが変えられるわけでもないので、何とかならないのかなと思っていたんです。

柏陽高校はグループで探究活動をやらせているんですよね。それがまたよくないと思っています。息子の研究も、元は「自分の漢字の理解の仕方」という個人のこだわりのようなものがあって、それが研究のネタになった。その宝の原石を磨いていくのが研究です。しかし、グループだとどうしても最大公約数的なものでやろうとしてしまうから、全然こだわりもなく、ありきたりなテーマしか出てこない。

その中でごくまれにきらりと光るものを出してくる生徒がいて、「それ面白いね。もうちょっと深くやってみようよ」と話して、今まで二組を情報処理学会に連れていきました。

文芸部の生徒で、なかなか自分たちで作った部誌が読んでもらえないというので、とにかく読んでもらうために、ホームページを作ろうとしたんです。それで、ホームページの作り方を教えたら、1週間ぐらいでとても立派なものを作ってきました。

その生徒が次にやったことは、文化祭でたくさん外から人が来て、焼きそばの出店に行列ができる。そこに待ち時間ができるんですね。そういう待ち時間を使って、私たちの作品を読んでもらえるようにしたらどうかと考えたんです。そのためにQRコードを生成して、そこからホームページにアクセスしてもらえるようにした。スマホでも読めるような形で自分たちの作品を作って、少し芸術性も入れて文化祭でやってみようと提案してきたんです。

実際にその子はアイデアを実行しました。それまで読んでもらえなかったような人にも自分たちの作品を読んでもらえたと喜んでいましたね。この生徒の一連の行動は、要は情報の扱い方ですね。

もう一組は、ゲームを作ったのですが、「リープモーション」という指先の動きを認識する技術を、私が夏休みの特別プログラミングの講習で取り上げたんです。すると、その技術を応用して、今までにないタイプの面白いゲームを作ったんです。

リープモーションの機械はものすごく精度が良くて、いろんな複雑な指の形も認識するんですが、その子たちは、結局どんな難しい指の形をやっても、それを他の人に使ってもらおうと思ったら、その動きをなかなかやってもらえないという結論に至ったんです。例えば「1」や「横に動かす」などの単純動作でできる形を組み合わせた方が、面白いゲームになると主張したんです。

実際にいろいろ比較実験をして、その単純な動きがやはり良いということと、そういう動きをしてもらうためにどういうふうに教えたらいいのか、インストラクションの提案をして、それを学会で発表しました。

何かしらきらりと光るものがあっても、本人たちだけではなかなか論文や学会発表はできないと思います。それを教員である私がキャッチして、ちょっと磨いてあげて、そういう場に連れていってあげる。それがあったから、息子のときもできたのかなと。柏陽高校の生徒たちに、そういうノウハウを教わりました。

逆に、このノウハウをこれで終わりにしてしまうのはもったいない。今、柏陽高校の生徒たちに投げかけているのは、「研究で難関国立大学に入れる」ということです。「高1から研究をやっていって、自分の将来につなげていこうよ」と提案しています。キャリアアップ講座を柏陽高校でやっています。

今年、新たな試みとしてやろうとしているのが「研究のすゝめ」という講座です。子供たちだけでなく、保護者にも参加を呼び掛けています。6月に開講して、「継続して指導していきたいと思っていますけど、どうですか」という提案をしようと思っているところです。

(聞き手 藤井孝良)


間辺広樹(まなべ・ひろき)
神奈川県立柏陽高校数学科・情報科教諭。大阪電気通信大学医療福祉工学研究科博士後期課程修了。博士(工学)。情報科学教育、特別支援学校における情報教育に関する研究に取り組む。
間辺美樹(まなべ・よしき)
東京大学工学部1年生。神奈川県立平塚中等教育学校卒業。「意味の理解に着目させる漢字学習ソフト『熟語マニア』の開発と評価」を情報処理学会論文誌『教育とコンピュータ』に発表。