東大が欲しがる高校生の育て方(下) 探究学習の実現を阻む壁 

東大推薦入試に合格した間辺美樹(まなべよしき)さんと、その父であり高校教員である広樹さんが「研究する高校生」をテーマに対談する。最終回では、新学習指導要領で重視されている探究活動と、高校生の研究を実現するための課題を聞いた。探究活動で教員に何が求められているのか――。


■教員が研究をする意義

間辺広樹さん(左)と美樹さん

――広樹さんだけでは、「きらりと光る」生徒を見つけるにも限りがあります。学校全体に広めた方がいいのでは。

広樹 そうだと思いますが難しいですね。他の先生たちに「やってください」というのは、いろいろな意味で厳しいです。例えば柏陽高校では毎年、探究活動の担当者が変わります。高1の担任が基本的にやることになっていますが、そうなれば毎年やる人が変わり、毎回ゼロからのスタートです。

そもそも、教員が生徒に研究指導しようという気持ちになかなかなりません。自分の教科は一生懸命やるけれど、そういう活動はやる気があまりしない。あるいは、やり方から分からない。組織として何かをやることはなかなか難しいです。

ただ今年は、非常に前向きな先生が多いです。今年3月に、茨城県つくば市で「つくばサイエンスエッジ」という、中高生が研究発表するコンテストがあり、他の先生と私とで行ってきました。みんな、かなり刺激を受けたようで、「自分の生徒もこういう所に連れて行きたい」と話していました。

――広樹さんは仕事の傍ら、博士論文を書き上げました。「研究する」ということは、教員のキャリアにとってどういう意味がありますか。

広樹 研究はすごくいいと思います。ものの見方が変わります。それまでは教えることが「主」でしたが、研究するようになると、そもそも人が物事を理解するとはどういうことなのかと深く突き詰めるようになります。

要は、細かく分けて考えるようになります。だから、授業一つにしても「何のためにそれをやるのか」「これを理解させるには、この方法がいいのではないか」と、なるべく意味を見いだしながらやるようになりました。やっていることを自分である程度、客観的に分析できるようになり、生徒にも「一つ一つの行動目標を明確にし、それに向けて何かをしなさい」と言うようになりました。

■「答えがない」不安

自身も研究を行い、学会で発表する広樹さん

――高校の新学習指導要領での新教科「理数探究」では、高校生がテーマを決めて研究する活動が想定されています。高校で「理数探究」は実現するのでしょうか。

広樹 一つネックになるのは、これまで高校では生徒も教員も、答えがある問題にずっと取り組んできたことがあります。探究活動で目指すところは、答えがない所に自分なりの最適解を見つけようとする行為だったり、そもそも問題を自分で設定しなければいけなかったり、既存の教科とは全く違います。

答えがないのはすごく不安で、やりにくいと思います。答えを見て、安心して次へ行くような学び方・考え方を根本から変えて、全く違うところを目指すことを、学ぶ方も教える方も理解することから始めなければならない気がします。

しかし、それはすごく難しい。結局、研究は何らかの問題に対して自分で解決策を見いだしたり、少しでも解決につながるアイデアを考えたりという創造的な活動なのです。でも、そういう創造性はなかなか教えられるものではないし、現に高校生は小・中学校でそういった力を身に付けているわけではない。

発想力や創造力を、もっと小さい頃から付けていく必要があります。子供はもともと発想が自由です。成長過程でそういう力が欠けるのを防ぐことも、考えないといけないかもしれません。「学ぶ」ことをもっと大きく捉えないと、高校で研究を目的とする教科・科目ができたとしても、生徒にとっても教員にとっても不幸な状況になりかねません。

■探究学習の指導で教員は何ができるのか
――生徒がクリエーティブにテーマを決めて、研究する。そうなると、教員と生徒はどのような関係になるのでしょうか。

広樹 「研究のすゝめ」では事前に、「あなたがこだわっていることは何ですか。なんでもいいのでカードに書き出してください」と指示しています。それが研究のネタになり、創造性の第一歩になると思います。息子の場合も「漢字は意味から理解しなきゃ駄目だ」というこだわりが研究につながりました。そういうものを教員がキャッチし磨いていく。それが子供のために一番いいのではないかと思います。

ただ、「研究テーマを考えろ」と言ったところで、なかなか出てこないですよ。毎年同じです。「授業中眠くならない方法は」「どの色が一番記憶に残るか」「植物に頑張れと言ったら、成長が早くなるか」とか。それでは本当に研究をやっていることにはならない。生徒は確かに実験をやっていますが、本当に本人がやりたいのか。何かやらないといけないから、取りあえずやっているのではないかと思えてなりません。

美樹 僕の場合は漢字があったから、すんなりとテーマを設定できた面はあります。周囲は締め切りに追われて、毎度のように愚痴を言っていた記憶があります。個人的には面白そうな友達のテーマもありましたが、高校生はどうしても大学入試ありきで考えてしまうので、研究と言われても身が入らないのではないでしょうか。

――もし大学入試が高校時代の研究を評価するようになったら、高校生は本気でやるでしょうか。

美樹 どうでしょう。やらなければいけないからやる、とにかく頑張るという感じになってしまうのではないでしょうか。

広樹 ちゃんとした研究をするにはハードルがいっぱいあります。何を問題意識として捉えるかというのもそうですし、クリエーティブなことが出てくるかどうかというのもそう。

実際に何かをやったときに、生徒は表面的な現象だけを調べて、それを報告して終わってしまいがちです。しかし、そこから客観的なデータを取って、統計的な分析をし、何が言えるかということをしないと、全然深みがない。そこまでしなければ、研究のレベルまでたどり着いたとは言えない。単なる実験リポートを書いたのと一緒です。

そもそも、高校生は勉強と研究の違いが分かっていません。「自分が知らないことを知るのが研究」「本を見れば書いてあるのに、自分が知らないから、それを調べるのが研究」だと思っている。時間的にも内容的にも、「研究とは何か」を教えるのは非常に厳しい。教員からすれば、結局は生徒に丸投げの状態になってしまい「研究しなさい」で終わってしまう。そうすると、研究らしき何かをする、ちょっと実験をする、その結果を示す――でおしまい。それは研究とはほど遠いものです。

創造性や論理的な思考力、統計的な分析力、クリティカルな見方、そういった考え方を総合した研究力を身に付けなければならないということを、教員も理解して臨まないと「何もなし活動」になってしまいます。

■教員にも研究が必要だ
――「何もなし活動」にならないために、高校の教員はどのような準備をすればいいのでしょうか。

広樹 簡単です。自分自身で何か一つでも研究をやればいいんです。

今、音楽の教員と一緒に、大阪電気通信大学の兼宗進教授が開発した「ドリトル」というプログラミング言語を使った授業研究をしています。ドリトルは音楽を流せるのですが、その仕組みはリズムや音符の長さを数字で設定するようになっています。四分音符だったら「ドの4」と書くと「ドー」と一拍出ます。その先生が言うには、普通の四分音符、八分音符、十六分音符だけならば、大体の生徒は読めて、リズムをかなり正確に刻めるそうです。ところがそこに「符点何とか音符」が入ってくると、途端に生徒ができなくなるという問題意識をずっと持っていたそうです。

ドリトルでは、符点の場合は「4&8」と書くことによって、符点四分音符になる。その先生は「数字で設定できるのは面白い」と感じたらしく、私ともいろいろ話していく中で「じゃあ、ちょっと実験してみましょう」となりました。生徒に校歌をドリトルで入力させてみたのです。音符を知らなくても、校歌をまだ覚えていない生徒でも、ドリトルに入力させることで正確にリズムを刻めるようになりました。プログラミングでしっかりとリズムを理解させられることを明らかにできました。今までの音楽教育の問題を解決できるかもしれません。

そういうことをやったことがある教員こそ、強いと思うのです。データを取って研究する。その結果を論文としてまとめる。一度でもそういう経験をすれば、生徒に指導しようとしたとき、何が大事なのか、実感を持って伝えられます。(おわり)

(聞き手 藤井孝良)


間辺広樹(まなべ・ひろき)神奈川県立柏陽高校数学科・情報科教諭。大阪電気通信大学医療福祉工学研究科博士後期課程修了。博士(工学)。情報科学教育、特別支援学校における情報教育に関する研究に取り組む。
間辺美樹(まなべ・よしき)東京大学工学部1年生。神奈川県立平塚中等教育学校卒業。「意味の理解に着目させる漢字学習ソフト『熟語マニア』の開発と評価」を情報処理学会論文誌『教育とコンピュータ』に発表。
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