追い詰められる教頭ら(上) 取り巻く現状

「何でも屋の教頭・副校長は過労死ライン」「休憩は1日に1、2分程度」――。全国公立学校教頭会(全公教)が今年5月に公表した調査結果で、教頭・副校長(以下「教頭ら」と表記)の勤務時間は1日12時間以上、ひと月240時間以上であることが明らかにされた。学校で一番労働時間が長いのは教頭らだと言える。文科省が2016年度に行った教員勤務実態調査でも、教頭らの勤務時間は週当たり63時間30分を超えていた。これは10年前の前回調査と比べると小学校で4時間以上、中学校で2時間以上の増加だ。

全公教の調査では有休が取りにくい状況も改めて確認された。休暇取得は年間5日未満が最も多く、小学校で52%、中学校で60%を占めた。病気や多忙などを理由に教諭への降任を希望するケースも相次いでいる。16年度には全国で110人の教頭らが自ら希望し、一般教員に降任している。教頭らの不足は、ますます深刻化している。

1週間当たりの勤務時間の時系列変化

■東京都の事例

小池百合子知事は17年3月、都内の公立小中学校で副校長のなり手が不足していることに言及し、理由について「業務負担が重い」と述べた。

都の副校長試験は「倍率1倍」という。「副校長からの希望降任」は16年度で30人(前年度比5人増)だった。都教委によると、17年度に行った管理職選考試験の合格者数は418人で、必要数を154人下回っていた。今のところ退職した校長・副校長職経験者などを再任用することで欠員は出ていないが、状況は深刻だ。

90年代の都の学校現場では、生徒減、学級減により、新規採用教員をほとんど見ない時期が続いた。教員の年齢構成のバランスが崩れて、管理職が不足するのではという懸念は既にあった。しかしバブル崩壊後で税収が減っていた時期でもあり、将来のために採用を増やすこともできなかった。その時期の不安要素が、現実になったのが今だ。

都の教員の年齢構成は調査結果が公表されている。中学教員数は50代が約5300人だが、対して40代は約2700人で、30代の約3800人をも下回る。副校長が少ないというだけではなく、目指す年齢の教員がそもそも少ないのだ。

加えて、教育庁人事部の教職員任用担当者は「これまで管理職のロールモデルを示すことができていなかったのではないかという反省がある」と話す。管理職や指導主事を目指す、またはなった者は、目指そうと思ったきっかけに「魅力的な管理職との出会い」を挙げる。管理職を目指す意志を持つ上で重要となる、「こういう管理職になりたい」と憧れられる存在が減っているとも言えよう。その一因に多忙化がある可能性は極めて高い。

■大阪市の事例

大阪市では、教頭不足の解消につなげるなどの狙いで、能力の高い教員が早く昇進できるようにする新たな人事給与制度を18年度から導入した。一般教諭と首席指導教諭の間に新たな役職を設け、選考に合格すれば昇給する仕組み。一般教諭が37歳までに選考に合格しない限り、それ以降の昇給を停止する。一方で、合格者には職務の困難度や責任に応じて昇給に差がつく。これを活用し、教頭のなり手を早めに確保する考えだ。

13年度には、候補者を指名して昇任試験を事実上義務付ける異例の策に乗り出した。同市では、橋下徹前市長の就任後、学校選択制や民間人校長の導入などで職場環境が激変し、教頭の事務量は増え続けていた。

市教委は校長を公募で採用し、来春は半数を民間から選ぶ制度をとっている。ある中学校長は「教頭から校長に昇任する道が狭くなり、教頭のなり手はさらに減るのでは」と懸念する。校長や教委からの要請を忠実に遂行し、時に叱咤(しった)される。さらには地域や保護者の苦情を処理する。また、一般教員の指導もする。教頭の疲弊は目に見えて明らかと言えるだろう。

■多忙すぎる業務

石川県金沢市の小阪栄進市議は、かつて市教委社会教育主事を3年、副参事を1年務めた後、市立小学校教頭を3年間、校長を9年間務めた経歴を持つ。市議は教頭時代を振り返って次のように語る。

「教頭はとにかく忙しい。私の教頭時代も、朝7時から夜7時までの12時間勤務が普通。深夜に及ぶことも多かった。今はもっと長く、昼休憩もほとんどない。土日はほとんど出勤。身体を壊したり心を病んで辞めたり、現職で亡くなった者も何人もいた」

「冬になると40以上ある教室のストーブ給油をして、走りながら着火して回った。風邪の季節になると、次々と保護者からの欠席の連絡電話が入る。一般教員から年休の電話が入れば、自分が先頭に立って授業の補充に当たらなければならない。保護者から担任への苦情も絶えない」と振り返る。

さらに「学校現場では、管理職は敵であるという空気がある。事前の根回しがないと学校運営ができない。卒業式の国歌・国旗の問題は必ず紛糾した。何回も何回もそのために職員会議を開かなければならなかった」と、一般企業とは異なる管理運営の難しさを指摘。加えて「教頭に無理難題を押しつけたり、校外の各種団体との付き合いを強要したりする校長もいる。自分がしてきたから、今度はやってもらうのが当たり前だという考え方の場合が多い。校長が人格的に優れていれば、教頭もやる気が続き、降任制度を考えたりしない」と、校長次第で事態がより深刻になることに警鐘を鳴らす。


今年の5月には、京都市立小学校の教頭が失踪し、3週間余り神社の建物内で寝泊まりして逮捕されるという事案が起きた。30年以上にわたって教員を務め、勤務態度も良好だった教頭に何が起きたのか。次回は、この教頭と同様に、失踪を経験したある副校長に話を聞き、現状打破の方策を考える。

(小松亜由子)